第54話 囲碁仲間
魔法と言う原理が幅をきかせる異世界では、アイデア次第でとんでもない発明が出来そうです。
ホフハイマー商会、ダ・デーロの街では中の上くらいの規模の商会。
その当主ホフハイマー・カルスパル、今日は海辺の別荘にやって来て、アマリージョとフィッチャを打っている。
私たち、と言うかスリーローズ商会のスタッフはメイドのメリッサを残して、姿を見せないようにしている。
わたしミヤビも、離れに来て、娘達の話しを聞いている。
そうそう、離れは学究の才があるミーアの勉強の場で、物作りの才のあるエルヴァの工房でもあるのよ。
「 …… こうやって術式回路を書けば、片方から空気を吸い上げて、こっちから出せるのですよ」
胸に大きな紫色の球があるミーアが、研究者にありがちな早口でオリジナルの術式回路を説明している。
「ねぇ、それって、今までも同じ様な魔道具があったじゃない、どこが違うよ」
ミーアの意見に疑問をぶつけるリフリー。
彼女は人ですらない、男性の精を吸い取るサキュバスだけど、普段は年相応の女の子よ。
「リフリー、今までのは水とかでも送っていたでしょ、これは風だけしか送れないの。
軽い物しか送れないけど、使う魔力が今までよりずっと少ないのよ」
「ミーア、わたしが思うんだけど、風を出すのは役に立つわよね、髪を乾かしたり。
でも風を吸い込んで何の役に立つのよ」
ルッチーナがもっともな意見を言う、彼女の適性は赤い球の戦闘職なのだけど、別に戦闘職だからと言って、戦いばかりじゃないのよ。
現代知識のあるわたしなら、真空を作る事を思いついたわ。
割と少ない魔力で空気を循環出来るのなら、炎魔石や氷の魔石を組み込んで、温風や冷風を吹き出す、異世界エアコンも出来そうね。
この子達の思いつきを、実用に落とし込むのがわたしの仕事よ。
メイドのメリッサがわたしに声かけしてきた。
「ミヤビさま、カルスパル様がお帰りになられるそうです。
是非ともお目にかかりたい、と仰られております、いかが致しましょうか」
「そう、会いましょう。
ところで、カルスパルさんは、どの様にお過ごししていましたか?」
「それは、長い時間フィッチャに集中しておられましたよ」
〇
本宅に戻ると、深々と頭を下げる、アマリージョ。
「ミヤビさま、この度は、わたしのワガママを聞いていただき、ありがとうございました」
「アマリージョ、おもてなしは、疲れたでしょう、少し休みなさい」
今から、あなたに聞かせたくない話をするから、向こうに行ってなさい、と遠まわしに言ったのよ。
中堅商会主、ホフハイマー・カルスパルさんに向きあう、わたし。
彼は40代後半と言った感じかな、ガッチリした体格で、部下を使うよりも、自ら率先して動くタイプよ。
「スリーローズ商会のミヤビさんだね、ありがとう、久しぶりに心行くまでフィッチャを打てたよ」
「満足されたようで、何よりですわ、アマリージョも満足していましたし」
「うん、うん、彼女のフィッチャは最高だよ。
ところで、ミヤビさん、あなたはなかなかのやり手だそうだね」
「まぁ、どなたが、仰っていたのでしょう、わたくし、海を見ながら娘達と過ごしているだけですわよ」
「謙遜しなくても大丈夫だよ、わたしはギングリッチ兄弟商会とも懇意にさせてもらっていてね、彼らもずいぶんと褒めていたのでね」
「あら、ホフハイマー商会さんは、素材を扱っているのでしょうか?」
今知りました、なんて態度を取っているけど、ホフハイマー商会は建築用の資材の取り扱いはトップクラスなの、とっくに下調べ済みよ。
「ああ、主に建物の内装なんだけどね、わたしが新入りだった頃は、単なる材木問屋だったんだよ、そこから …… 」
そこからはカルスパルさんの独演会みたいだったわよ、大工の三男に生まれた彼は、10歳の時にホフハイマー商会の丁稚に入り、ずいぶん苦労したらしいの。
その後頭角を現わして、前商会主に気に入られ、娘婿に収まった、うんうん、噂どおりね。
商会主とは言え、アマリージョを愛人に囲うなんて、とんでもないそうよ。
“う~ん、世知辛いわね”
それよりも、心に引っかかっているのは、カルスパルさんの昔話で、若い頃は書類を一階から三階まで、届けたり、三階から倉庫まで届けたりで、苦労した、と言うくだりが、なんか、ヒントになりそうなのよ。
「 …… カルスパルさん、面白い話を聞かせて頂いて、ありがとうございました。
ところで、昔は書類を持って駆けまわっていたそうですけど、今はもう、そんな事は無いですよね」
「いや、こればかりは、何年経っても変わらんでしょう、今も若い子が書類を持って階段を駆け上がっていますよ」
「左様ですか、その問題、わたくしスリーローズ商会が解決出来るかもしれませんわ、御商会を案内して頂けませんか …… 」
○○
そこからの動きは早かったわよ、ホフハイマー商会は昔からの建物で、一階が荷さばき場と倉庫、二階は倉庫、三階が事務所、更に隣の建物も買い取って倉庫にしているの。
若い丁稚の子が、梯子みたいに急な階段を登ったり、下りたり。
わたしの提示した解決策はエアーシューターよ、直径10センチくらいのカプセルに書類を入れたら、気圧を加えたパイプに、入れて、目的地に届けるの。
わたしもテキストの副読本の写真でしか知らないのだけどね。
昔、まだパソコンとかネットワークの無い時代には、活躍していたそうで。
例えば、総合病院では、患者さんが来ると、受付で確認して、患者さんのカルテをエアーシューターに入れて、眼科とか外科の診察室に届けていたそうなのよ。
すごい時代だったのね。
ホフハイマー商会の廊下や階段の天井にはパイプを張り巡らせたの、この商会が内装材に強い会社で助かったわ。
ミーアの考えた魔道具を使っているから、魔力の使用量はランプ一個分くらいで済むと言うのも大きいわね。
行きは陽圧、つまり気圧が高いチューブに入れると、目的地まで、一瞬で届くし、帰りは負圧のパイプを使う様にして、空気を循環させているので、魔道具の無駄が無いのよ。
エアーシューター、現物を見たことのある人はいるのでしょうか?




