第52話 海辺の隠れ家
ここから第三部です、時系列は第一部の終わりからです。
数話はまったくの新作として書き足してあります、また既存の話しも加筆修正を加えてあります。
わたしは風俗のお姉さん、源氏名はミヤビって言うのよ、本名を呼んでくれる人は、もういなくなっちゃった。
究極のおもてなし業、ソープ嬢をしていたのだけど、勘違いしたお客さんに刺されて、あっさりと命を落としたのよ。
エッチな女神がわたしを中世っぽい世界に転生させてくれたけど、そこには、魔物が出てきたり、魔法があったり、貴族がいたり。
ゲームの世界? とんでもない、ここで生きて行くには、色々なしがらみが有って大変なのよ。
まぁ、旅行で来るなら、いいところかもね。
食事はサラダにクルトンが入っているくらい美味しいし、電柱なんて一本も無いヨーロッパっぽい景色。
なんと港には本物の帆船が浮かんでいるのよ。
あら、話がそれたわね、こっちの世界に来た途端、奴隷にされたわたし。
重い鎖に繋がれてムチに打たれている姿を想像したあなた、残念ね、こちらの世界の奴隷は衣食住の保障はされて、働きによっては給料までもらえる、ホワイト企業だったのよ。
ホワイト企業に就職したわたしは、働いて、働いて、働いたわよ。
働き過ぎたわたしは、皮肉なことに、ホワイト企業レオポルト商会を出ていくことになったのよ。
まぁ、奴隷身分を解かれ、独立したのだけどね。
スリーローズ商会と言って、ソープマットと海藻のローションが主な商品だった商会。今は海辺の別荘にソープ嬢候補生を集めて、おもてなしのテクニックを仕込んでいるのよ。
今日は実習日、わたしはハイウエストのレザーパンツと、金具がガチャガチャついたジャケットと言う出で立ち。
ちょっとでも男っぽくしたいじゃない。
そんな、なんちゃってマッチョの前に三つ指をついて挨拶するのは、極上美人さんのロザリンダ。
「お帰りなさいませ、ご主人様」
ちょっと、首を傾け、極上のスマイルでお出迎え。
立ち上がった、ロザリンダ、くるぶしまで隠れるロングスカートと、七分袖の上着で露出は最低限なのに、淫靡な感じがするわ。
風俗嬢の露出は増やせばよいと言う訳ではないのよ。
「さぁ、ご主人様、こちらへどうぞ」
そう言いながら、わたしの腕を優しく抱え込み、柔らかさを感じさせる。
“う~ん、マニュアル通りだけど、ちょっと急ぎ過ぎね”
あれ、この子、私よりも背が高いはずなのに、どうしてわたしが見下ろしているのかしら?
もしかして、ロングスカートの中で膝を曲げているの、よし、さっきの減点は取り消しよ。
その後、わたしは“今日はたくさん歩いたぞ”と言うと、ロザリンダは足湯と足裏マッサージを勧めてくれる。
海の見える部屋で、脱力したまま、足裏マッサージに身を任せる。
これが本当の男性なら、まずは第一戦と言うところだけど、女はまずはリラックスしたいのよ。
「さぁ、ご主人様、足裏マッサージは終わりましたよ、今度はローションマッサージをいかがでしょうか?」
「マットマッサージね、お願いしようかな」
今だから言うけど、現役ソープ嬢時代はマットプレーがキライだったのよ。
男の上に乗って身体を動かしているだけじゃないか、そう思ったあなた、あれは信じられないくらい体力を使うのよ。
実生活では絶対にありえないポーズでは、普段使う事のない筋肉を使うから、とんでもない肉体労働なのよ、風俗のお姉さんは。
現役時代は嫌だったマットプレーも、される側になると、こんなに気持ちよかったのね、すっかりローションマッサージのトリコよ。
〇
ローションの水音とマットの軋む音、ちょっとの喘ぎ声の時間が終わる。
さすがはおもてなしの心を堪能させてもらったわよ、そして男性向け雑誌の表紙を飾れそうな恵体、これはレオポルト様の術のおかげね。
一方のわたしは、ちょっと締りが無くなって来たわ。
仕方ないじゃない、一応は商会長なのよ、長時間のデスクワークと夜遅くに美味しいご飯。
あーあ、現役ソープ嬢の頃はピラティスとかを熱心にやって、身体をキープしていたわ、風俗嬢は見た目が命な面もあるしね。
そんなだらしない身体のわたしに、ロザリンダは紅茶を入れてくれる。
実はここからの対応が高級ソープ嬢と、普通の風俗のお姉さんの違いになるのよ。
さっきまで、鼻の頭に汗を浮かべてご奉仕していたお姉さんは、優雅な仕草でティーカップを並べていく。
うん、この辺の仕草も充分ね。
「 …… わたしはブラッチェを嗜みませんが、聴くのは好きですよ、この前はマティアスの円舞曲を耳にする機会がありまして、それは素敵な時間を過ごさせてもらいましたの」
優雅に微笑むロザリンダ。
高級なソープ嬢は会話で相手をもてなすのよ。
「そう、マティアスは素敵ね、あの時代は立派な作曲家がたくさん出た年代だけど、彼の円舞曲はその集大成って感じがしないかしら?」
「 …… はい、それはもちろん」
あら、完璧ソープ嬢だと思ったロザリンダだけど、目が泳いでいるわよ。
「そうそう、ロザリンダ、双子王朝時代で、好きな領主は誰かしら?」
「 …… えっとー、大勢の人達がいましたよね、歴史を知ることは、今を知ることの助けになると言いますし、はい、双子王朝もそうだと思います」
双子王朝時代、今から数百年前の時代なんだけど、劇とかオペラや書籍では人気の時代、転生前の日本では、家康とか信長の戦国時代が人気だったけど、まさに、そのポジションよ。
転生前の日本でも、ちょっと戦国武将の話をすると、飛びついて来たおじさんがいたしね、年表を暗記しろとは言わないけど、スルッと名前を出して欲しいわよね。
ロザリンダ、大きな黄色の接客適性で、有望だと思って、スリーローズ商会で教育する事にしたの。
もちろん、その前にレオポルト商会で教育を受けて来たのだろうけど、所詮は貧農の娘、知識に奥行きがないのよ。
そうなると、答えは決まったわね。
私はメイドを呼び出す。
「メリッサ」
「はい、なんでしょうか?」
「エステファニアさんに、手紙を書きます」
「かしこまりました」
「それと、エルヴァを呼んでくれないかしら」
高級娼婦ともなると、話題の豊富さが命です、頭の回転が速くて、臨機応変な対応の出来る娘でも、教養が無いと、会話が伸びないと言うところでしょうか。




