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第29夜 可愛い子

「◯◯◯◯◯」

「…?そんなことでいいなら全然構わないよ」


「ありがとう。ただ一つだけ。あなたには感謝している。でも、それは坂上優斗にであって七条ナツメにじゃないの。わかる?」

「ごめん。わかってる。でも、少しだけだから。無理はさせないから」


花の言い分はもっともだ。オレも出来ることなら巻き込みたくはなかった。水木、メルトの話から花を天秤にかけざるを得なかった。得体の知れないメルトの言葉は理不尽な選択をさせた。


____________________________________


「ナツメ王子の素敵な素敵な姫様より高級シャンパンをいただきました!ありがとうございます!!」

「花、今日は来てくれてありがとう」

「いやいや、優…ナツメさんが入店したての時に1度来たっきりでごめんね」

「ナツメくんの接客が忘れられなかったんだね♪さすがカリスマホストだね⭐︎」

「天沢、からかうのはやめろ。ここはいいから他のヘルプに回ってくれ」

「はいは〜い♪」


ヘルプ半分で敵情視察に来ていた天沢を追い払い、花と卓に2人きりなる。


「今日は、本当にありがとう。これ、タクシー代。店の前まで呼んでおくから絶対タクシーで帰って。心配だから」

「わかった。でも、大丈夫なの?運転手さんにバレちゃうかも家一緒なの」

「じゃあ、少し手前で降りて…。いや、いいや。オレが降りる場所変える。気をつけてね」


その日は、花の協力もあってラスソンが取れた。営業終了後、水木の助言通りにも動くため、レンタルスタジオに寄った。


"隠していた壮絶な過去についてお話しします"


「タイトルはこれでいいか」


動画にはホストになる前にあった出来事、決意表明、火傷の痕も全てを入れた。麗人に勝ちたい。もうチャンスは2回しかない。賭けるなら今だ。


予約投稿のボタンを押す。


〜♪


スマホが鳴る。それは、一条ハジメからの着信だった。


「ナツメく〜ん。おつかれ〜。まだ起きてた〜?」

「大丈夫です。どうしました?」

「ちょっとまずいことになってね〜。悪いけど今から急いで店まで来てくれる??」

「わかりました」


オレは急いでLLまで向かった。


____________________________________


「ナツメく〜ん、おつかれ〜。じゃ、ボクの部屋に来て〜」


ガチャリ


部屋に入るなり、一条ハジメは鍵をかけた。そこには北条麗人もいた。


「早速、本題に入ろうか。麗人、お願い」

「はい」


麗人は、監視カメラの映像を見せてきた。


「ナツメ、今日来たこの子わかるね?」


そこに映っていたのは花だった。


「はい。わかります」

「なんでこの子を連れてきたの?」

「麗人さんに勝ちたくてお願いしました」

「ふふ。ボクに勝ちたくて、ね?」


「麗人、ありがとう。ここからはボクが話すよ〜。ナツメくん、ボクはキミがめちゃくちゃやってきたのにはある程度目を瞑ってきたよ。それはわかるね?」

「はい。それは十分わかっているつもりです」

「でも、この子はまずいよ〜」

「まずい?」

「うん、この子だけはダメ」

「なんでですか?」

「まあ、わかんないよね〜。はぁ〜、本当に面倒なことしてくれたね。花ちゃんは、水木さんの娘だよ」

「え?」

「水木さんに牙を剥いたってことだよ。てか、一緒に住んでるでしょ?それはまあ咎めない。けど花ちゃんを夜の世界には関わらせちゃいけない」

「水木さんがオレをこの世界に入れたのにですか?」

「うん、それは確かにそうだね。でも、あの人が1番、夜を憎んでる」

「憎んでる?」

「うん。タクシーで送迎したのは良かったね。LLは中に直接乗り入れられるからね」


LLは多くの著名人が来店する特性上、客が車から降りる姿が見られない構造になっている。


「そこで、どうする?ボクは水木さんとはまだ協力関係でいたいんだ。ボクにはキミを切るって言う選択肢もある。でも、まだ水木さんに黙っておく選択肢もある。それでも時間稼ぎにしかならないだろうけど」

「ナツメ、これは社長なりの温情でしかないよ。もちろん、時間稼ぎにもそれなりの代償は支払ってもらうことになるのはわかるね?」


オレを切れば済む話に一度チャンスをくれた。当然、タダなわけがない。


「少し考える時間をもらってもいいですか?」

「ほんの少しだけならね」

「ありがとうございます」


メルトに脅されて打った手が悪い方へと進める。悪魔と取引したらもう引き返せない。ならまだマシな悪魔に縋るしかない。


「社長、オレに時間をください」

「わかった。もう覚悟の上だね?」

「はい、何でもします」


メルト、水木、一条ハジメ。オレは社長の手を取った。

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