第17章 交渉
「ナツメく〜ん、どうだった初めての締め日は?」
「すごい熱量でした」
「でしょ〜?キミも大健闘して4位、未経験入店初月で800万overの大快挙いいね〜」
「社長、そのことでお話があります」
「だよね〜、そんな気がしてた。ボク、ダメって言ったよね?個人チャンネル」
「はい、言われました。でも、結果としてどうです?オレLLで4位です。それに顧客数も麗人さんに勝って1位です」
一条ハジメは少し黙ってから言葉を紡ぐ。
「う〜ん、認めるしかないね。リスクに見合うだけのリターンはあると言えるかな」
「本当ですか!?」
「うん、でもまあ、再現性ないよね?これ。ナツメくんは今話題性だけの集客って気付いてる?」
「はい、そこは十分理解しているつもりです」
「そっか、それは良かった。その話題性の源泉ってどこかわかっているかな?それはLLのチャンネルがバズったから、もっと元を辿ればボク、一条ハジメの知名度あってこそのモノだよね?」
「はい、今回はそれに乗っかる形を取らせていただきました…」
「ボクの言いたいコトはね、簡単に言えば"調子に乗るな"ってこと。ああ、勘違いしないでね?イキった新人をシメたいとかそんな子供みたいな話じゃないよ。地力がそんなにないのにバズっただけで売り上げた。これは成功体験として良くない。子供に自転車で補助輪が外れたからBMXの大会出たいって言われたらどう?」
「止めますね」
「だよね〜、良かったボクと同じで。親としてはやっぱ止めるよね。ただボクは親としては挑戦したいって気持ちを少しは尊重してあげたいとは思うよ。」
「…?」
「このままじゃナツメくん来月は確実に売り上げが落ちちゃうよ?ひょっとしたら掃除組かもしれない。どうする?何か策はあるかな?」
「このまま個人チャンネルを継続して投げ銭してもらってそれを売り上げに変換出来るようなシステムを作ろうと思っていました、投げ銭で得た収益でタワーをして配信するような」
「なるほどね、投げ銭ね〜。それって店通す意味あるかな?例えば、100万集まりました。配信サイト側にほぼ半分取られて50万、それでシャンパンに使ってキミに入ってくるのは25万、どうかな?コスパ悪くない?それにボクがNoと言ったらそれ売り上げにならないけど、リスナーさんはどう思うかな?仮に、あくまでキミ個人として投げ銭タワーやりますってなったらそれこそLLにいる意味はってならない?」
「確かに、そうかもしれません。でも、そこに対しても考えがあります。投げ銭は配信と別に"ナゲル"という投げ銭専用のツールを使います。ここは元々ある配信サイトより利率が良いのでコスパはかなり改善されます。それと、許可がおりない場合、個人でタワーはやりません。オレに価値を感じてくれる人もいますが、それはあくまでLLのオレに価値を感じてくれる人が大半です。許可がおりないこと、その旨をリスナーに伝えて集めたい投げ銭の目標を釣り上げます。許可がおりるまで社長に数字で圧をかけるつもりです」
「あはは…!マジかよ…!ナツメくん、このボクに喧嘩売るんだ〜。いいよ、認めてあげる。ただし、認めるのは個人チャンネルの運営だけ。投げ銭はまだ認められない。それと少しルールを決めよう」
一条ハジメからいくつか条件が提示された。おおまかには、こうだ。
・個人チャンネルの運営は、役職持ちのみ
・個人チャンネルの内容は内勤、いくつかあるチームのリーダー、一条ハジメの誰かにチェックしてもらい許可を得ること
・停止や非公開の指示が出た場合は直ちに従うこと
・得た収益は必ずLLに申告すること
「承認いただき、ありがとうございます」
「また続きはミーティングでね〜」
本当は掃除組まで個人チャンネルの運営の許可を得たかったが、今回はここで納得することにした。
「あ、今度歌舞伎町会議あるからそこに麗人とナツメくん連れていくからよろしくね〜」
「歌舞伎町会議?」
「あれ?水木さんから聞いてないの〜。本当に適当なんだから〜、あの人は。まあ、そういうことだからよろしく〜」
一条ハジメとの会話を終えると、オレはすぐに麗人へと連絡を取る。
「社長から許可をもらいました。例の件、今度お願いします」
そうメッセージを送ると、外で待たせていたカンナと合流する。本当はもっと動きたかったが、締め日に高額使ってもらったため、エースのアフターをさすがに断ることは出来なかった。
「お待たせ、カンナ待たせてごめんね?」
「ナツメくんっ、全然平気っ♡一条ハジメ社長と話してたんだもんねっ!褒められたっ??」
「うん、カンナのおかげでね。ありがとう」
「えへへ、カンナえらいっ??好きっ??」
「うん、えらいえらい。オレ社長に期待されてるかも」
「ほんとっ!?ナツメくんっ、すごいっ♡」
「社長が持ってる歴代年間最高記録の2億8000万overの時、一撃1億overのシャイニングロゼプラチナのボトルを見せてもらったんだ。憧れるよ本当に」
見せてもらった、そんなのは嘘だ。カンナには役割がある。投げ銭制度導入までの繋ぎだ。そのためには、少しプレッシャーをかけておく必要がある。
「ただ入店初月でNo.4は上手くいきすぎだって。来月から確実に売り上げは落ちるからそこからが本番だって言われちゃった…」
「ナツメくんなら大丈夫だよっ!だって優しいしカッコいいもんっ♡」
「ありがとう、ごめんね。カンナだからかな、つい弱気なとこ見せちゃった…」
「大丈夫だよっ!カンナがついてるもんっ♡」
「本当?頼りにしてるよ、カンナ」
大金を貢がせることには抵抗があったが、カンナはすでに堕ちている。オレが"育てた"わけじゃない。どうせ堕ちているなら拾って利用させてもらおう。目が覚めるまで夢は夢のままでいさせてあげるから。
カンナとのアフターを終え、オレは花の家へと帰る。
「優斗さん、おかえりなさい。すごく酔ってるね」
「うん、ただいまー。花、起きてたのー?」
「うん、今日は締め日?で大切な日なんでしょ?」
「うわー、負けたー。悔しいー」
オレは家に入るなり廊下で寝転ぶ。
「麗人さん?って人と勝負してたんだよね?どうだったの?」
「オレが800万で麗人が3200万超えてた、4倍だった!悔しい!」
「すごい額だね…それって大丈夫なの?お客さんすごくお金使ってる…」
「だいじょうぶだいじょぶ、強要してないからさー」
「そうなの?」
「うん、オレ煽ったりしないよー?ホスト嫌いだしー」
「別に…や、やらなくていいんじゃないかな…?」
「んー、ホスト?だめだめ、麗人に跪かせんのー。それまではやるー」
「そうなんだ…そこまで熱くなれるんだったらいいけど…」
「うー、悔しいー、今日はシャワー浴びてねる!」
締め日の緊張感が抜け、酔いが回ってきたオレは花に手伝ってもらいながらベッドに潜り込んだ。
「おはよう」
「おはよー」
「うぅ、頭痛い。オレ昨日どうやって寝たの?」
「酔ってたからちょっと手伝ったよー、大変だったんだから笑」
「ごめんね、花に迷惑かけてばっかりだね。そうそう、そういえば家決まった。再来週には引っ越すよ。ありがとう」
「そ、そうなんだ…」
「さすがに花に甘えてばかりじゃいられないからね」
「別にいいのに…」
「ん?なんか言った?」
「ううん、なんでもない!」
「引っ越したらまた改めてお礼させてよ。その時は自分の引っ越し祝いもかねて笑」
「それなら引っ越し祝いに私が出す!」
「そんなわけにはいかないよ」
花には本当に世話になった。お礼の食事会とは別に少し謝礼を置いていくつもりだ。
ピロン
スマホに通知が来る。天沢からだ。
「社長に許可取ったってホント!?」
「うん、本当だよー」
「すごい♪じゃあさ、俺も動画に出してよ!」
「もちろん、出てもらう予定だったよ」
「やった♪」
「撮影、今日でもいい?」
「大丈夫⭐︎」
オレはすぐさま天沢と合流した。撮影はもともと計画してたこともあり、スムーズに終わった。
「これ、こんな感じにまとめたいけど編集大丈夫そう?」
「任せて☆」
「じゃあ、出来たら教えてー。また店で」
一条ハジメの許可を得たことによりだいぶ動きやすくなった。
次のステップに向けて準備を進めることにする。




