1章 8話 幼児期6
助祭としてやらないといけないことの2つ目は、慰問であった。
怪我を治したり病気を取り除くのは司祭,助祭の仕事である。特にここ最近闇の女神教では慰問が行われていなかったことも手伝って、祈祷の際老人の信徒からも言われたように信徒たちからの慰問の要望はとても大きかった。
祈祷が終わった日の夜、シスター達と集まって慰問に対しての話し合いを行った。
「今回の慰問で最も重要なことは助祭様のMPです。
助祭様のMPは、癒し,浄化の魔法を何度使用することが
できるほどでしょうか」
修道士長が口火を切る。シスター達の中でも最も長く教会にいるだけあって、大事なことをしっかり押さえている。
通常の教会であれば慰問を行う司祭,助祭の数は複数人になるが、今回慰問を行えるのは俺だけしかいない。つまり、MPの量によって診療所に招き入れる人数を抑えないといけないのだ。
俺は自分のステータスを確認した。
レベル:1
HP:10
MP:300
俺はヒール,クリーンそれぞれの魔法をMP消費5で唱えることができるから、単純に計算すると60回使用することができる。60回と言う数字は他の司祭,助祭と比べて多いのか少ないのかわからない。なぜなら俺の鑑定では他人のMPを見ることができないからだ。また、闇の女神教には俺しか助祭以上の者がいないから比べる術を持たなかった。
とりあえずMPを全部使い切ってしまうと問題がありそうだと思った俺は、MPの半分は使わない前提で使用できる回数を伝える。
「合わせて30回」
俺の口から出た言葉を聞いた修道士長は目を大きく見開いた。シスター達は特に驚いた風でもなく、ふぅん。と言った感じであったのに。
「そんなに使えるのですか?!
一般的な司祭や助祭でも、10回くらいですよ……」
しまった、そう思った。なんとか表情に出すのだけはこらえた。
どうやら俺のMPは一般的な司祭,助祭の6倍はあるらしい。レベルが1であることを考えるともっとかもしれない。MPが多い理由は確定だろう。職業:使徒による影響に違いない。
修道士長の発言を聞いてようやく他のシスター達も驚いていた。唯一リネットだけは嬉しそうに笑顔だった。
修道士長は俺の規格外の能力を聞いて頭を抱え、シスター達は俺を見て呆然としている。そんな状態のまま時間が過ぎ去っていく。最終的に修道士長が頭痛による退室を求めてきて話し合いどころではなくなってしまい、今日のところは解散して翌朝に再度行われることになった。
部屋を出て自身の部屋に戻ろうとすると、
「流石私のウィリアム助祭っ。」
廊下の途中でリネットが急に俺を後ろから抱きしめてきた。しかも結構力強くだ。
リネットの手を振り払うことができず、手足をバタバタさせていると更に頬ずりをしてきた。
リネットは自身が拾った俺が、女神に愛されて生まれてきたような存在であったことをとても喜んでいるようだった。
手足をバタつかせていてもリネットは俺を離す様子はなく、しばらく抱きしめて頬ずりされ続けるしかなかった。
しばらくして、
「もういい?」
昂った感情が落ち着いてきただろう頃に言った俺のセリフで我に返ったリネットが、ようやく俺を離した。
「うんうんっ。」
リネットは立ち上がって俺の後ろに立つ。
俺はリネットをうっとうしいと言う風にいつもより細めで見るが、過去何度もこの目で見てもリネットには通用しなかった。 鬱陶しい うっとうしい です
「水。」
仕方なく寝る前に体を拭くためリネットに水を持ってきてくれと簡易に伝えてリネットを追い出した。
「承知しました、助祭様。」
それでもリネットは嬉しそうに水を取りに行った。男爵家からこんなボロ教会に来させられて何をそんなに嬉しく思うことがあるのだろうか。
リネットがいない間に俺は部屋に入る。本来ならここで先に着替えをしておきたいところだが、俺は一人で助祭の服を脱ぐことができない。この服は帯のような物で後側できつく結ばれているため手が届かないのだ。
一度はリネットを追い出したものの戻って来るのを待つ羽目になった。
水の入った小さな桶と手ぬぐいを持ってきたリネットがそれらを床に置くと俺の服を脱がせに掛かった。一人で脱ぐことができなかった服はあっと言うまに折りたたまれて、俺は下半身の下着一枚だけになった。そして手ぬぐいを使ってリネットが俺の体を拭いてくれる。
この世界では風呂なんてものはほぼ存在しない。存在したとしても、それは王都の大貴族のような金持ちしか持っていない。体を洗うのは、一般的には水で拭くくらいだった。
リネットは俺の体を前から後ろから丁寧に拭いてくれる。普段から汗をかくようなことをしていないので、1日2日拭かなくても臭くなることはないような気もするが、リネットはそういうところは丁寧に毎日拭いてくれていた。
「寝間着をどうぞ。」
前までは着ることがなかった、前で合わせて紐で結ぶだけの服を俺に着させる。俺はそれを着て、リネットが後ろで紐を結ぶとベッドに向かって歩いた。
「ウィル、おやすみなさい。」
おやすみを言わずにベッドに上ろうとすると、リネットから声がかかる。
普段は助祭と呼ぶのに、おやすみと言うときだけ愛称で呼んでくるのは彼女なりに理由があったのだろうか。




