3章 10話 アリス・ホワイトウッド
アリスは王都にあるホワイトウッド家の子供で、男3人,女2人の5人兄弟だ。年齢が高い順に、ルーク(男),ザラ(女),ブライアン(男),クリスティアン(男),アリスだ。
長男のルークは、アリスと同じプラチナブロンドで白に近いグレーの目をしている。現在22歳で未婚、婚約者もいない。この世界では結婚が遅れている年齢だ。父親や周りからはせめて婚約者だけでも決めて欲しいと言われているのだが、本人は仕事が忙しいと言って断っていることをアリスも知っている。ちなみに、顔は悪くはないどころか、上から数えた方が早いほどのイケメンである。
アリスとは12も年が離れているが、雰囲気が似ていると言われていてとても仲がいい。
二番目のザラだが、ルークやアリスと同様にプラチナブロンドの髪で、色の濃いグレーのきつい目をしている。21歳でやはり未婚である。ただし、ザラはルークと異なり、婚約者がいる。
アリスはいつもいじめられているので、ザラとは仲が悪い。いじめられていると言っても悪口を言うなどの精神的ないじめばかりだったが、つい先日物理的ないじめに発展した。アリスが部屋えくつろいでいたところザラ付きのメイドにベッドに押し付けられ、ザラ自らハサミでアリスの髪を強制的に切ったのだ。その時のザラは怖い目をしていて、肉体的にも精神的にもアリスはどうすることもできなかった。
全てがハサミを放り出した後に、私が思った通りあなたは短い髪の毛が似合うわなどと言っていたのだが、そんなことは微塵も思っていないのはとてもわかる。
アリスが4歳の頃亡くなった母親がいつも褒めてくれた髪だった。母の物は何一つ残してもらえなかったため、形見とも思える髪を切ったザラのことを嫌悪している。
三番目はブライアン。これまたプラチナブロンドの髪で、赤に近い茶色の目の持ち主だ。年は18、未婚で婚約者もいない。ザラほどではないが、アリスはブライアンとも仲が悪い。ブライアンはザラみたいに直接的に何かを言ったりしてくることはないが、いつもアリスのことを軽蔑の目で見てくるのだ。顔合わせれば舌打ちをするほどだ。
例えばアリスはまだ年若く、食事やお茶会のマナーもそこまで上手くできていない。そんなとき、真っ先に嫌そうな目をするのがブライアンなのだ。だから、アリスはブライアンのことも大嫌いだった。
四番目はクリスティアン、兄弟の中で唯一異なる髪を持つ。黄色が濃い金髪で、目は青みの入った黄色。年は16歳で、兄弟の中ではアリスともっとも年が近い。と言っても6つも離れている。
クリスティアンはアリスのことを物理的にいじめてくる。アリスの大事なものを隠したり壊したり、時にはこっそりげんこつを頭に落としてきたり、足を踏んできたりだ。仲良くしてもらったことなんて一度もない。だから、アリスはクリスティアンのことも大嫌いだった。
つまり、アリスは兄弟でルーク以外全員嫌いだった。
ここまでの話であれば単に仲の悪い貴族の兄弟程度で済む話なのであるが、この兄弟は貴族と言うような家柄ではなかった。
アリス達はライズ宗教国家の王族の、ホワイトウッド家の者なのだ。つまり、アリス達は王位継承権を巡って争う敵対者だった。
ではなぜ争っているのにルークはアリスと仲がいいのか。これには理由があった。
1つ、宗教的後ろ盾。
2つ、ルークの後ろ盾である光の女神教の教義。
3つ、アリスの性格。
1つ目の宗教的後ろ盾についてだが、アリス達兄弟は全員宗教の後ろ盾がある。ルークは光の女神教、ザラは水の女神教、ブライアンは火の女神教、クリスティアンは風の女神教だ。
ではアリスの後ろ盾は土の女神教か闇の女神教と言うことになるのだが、ご存じのように闇の女神教は衰退しているため後ろ盾になれず、土の女神教はなぜかアリス達兄弟の後ろ盾になることを拒否して中立の立場を選んだと言う。
よって、アリスは今後ずっと後ろ盾がない状態と言っても過言ではない。ルークはその性根の優しさもあって、後ろ盾のないアリスを想って優しく接しているのである。
2つ目のルークの後ろ盾である光の女神教の教義は、秩序,正義でありルークはその言葉の通り教義を守っている。単に妹であるアリスに誠実に接しているだけなのである。兄弟なのにいじめるなどと言う正義を欠いたやつらとは違う、それだけのことだ。
3つ目のアリスの性格だが、アリスは本来人懐こい性格をしている。素直にアリスと接することができる人間にとっては、とても可愛く感じられるのだ。ルークからすればザラ,ブライアン,クリスティアンと他にも妹や弟がいるわけだが、幼い頃からルークのことを王位継承権の敵として見るように育てられた彼らなど可愛く思えるはずがなかった。
よって、素直に自分に甘えてくれるアリスが可愛くてたまらないのだ。
だからこそアリスはルークだけと仲が良かった。
実はアリスが兄弟たちにいじめられる理由もあった。
1つ、アリスの容姿。
2つ、ルークと仲がよいこと。
1つ目の容姿についてだが、アリスがアリス達の父親であるライズ宗教国家の王の容姿と似ていることだ。王はプラチナブロンドの髪で碧眼である。おわかりだろうか。
アリスだけが王と唯一同じ髪,目をしているのだ。クリスティアンに至っては髪,目の両方ともが異なる。完全に側室である母親に似てしまっていた。
2つ目のルークと仲が良いことだが、ルークが突然死んでしまった際に光の女神教が急遽アリスの後ろ盾につくことが考えられるからだ。
ルークと仲の良いアリスであるから、ルークの後ろ盾になっていた光の女神教の申し出を受けるだろう。と言うのが他の兄弟の見解である。もしルークが亡くなって、厄介な者がいなくなったと一安心した後、今まで最も権力的に弱かったアリスにルークの椅子に座られては困ると言うわけだ。
そう思えばこそ、アリスの存在は兄弟からすれば可能なうちに排除したいのだった。
他にもあるが、そのようなことからアリスはいじめられているのだ。特に髪と目に強烈な嫉妬を感じているクリスティアンが暴力に訴えることもある理由がわかりやすいと思う。
このような家族であるため、アリスは話す相手が少なく無口な子供に育ってしまった。
王族であればお付のメイドがいるはずだから、メイドと仲良くなれば……と思う人もいるかもしれないが、アリスは毎日メイドからもひどい扱いを受けていた。
アリスに付くメイドは常にザラによって選出されていて、そのメイドは通常より高い給料をもらってアリスを精神的に追い詰めようとしてくるのだ。今までに何度もその現場を他の者に知られ、メイドが辞めさせられることがあった。だが、その辞めさせられた理由はアリスのわがままに応えられなくなった(耐えられなくなった)と噂になり、アリスのイメージは最悪になっていった。一度だけアリスの身になってくれたメイドもいたが、ザラの手により死にそうな目にあってからと言うもの出仕しなくなってしまった。
そしてまた別のメイドが来ることになった。
ザラの手がかかったアリス付きのメイドは、決してアリスに声を掛けたりはしない。声をかけられれば最小限の回答のみする。身の世話も最小限、着替えなども最小限。機械的な対応だけする。決して構ったりもしない。アリスが部屋の外に出ていると、さも監視していると言った対応だ。
よって、アリスは部屋の外にも出なくなってしまったのだ。
部屋で読書好きだったアリスの母親が残してくれた本を読む、そんな毎日を送っていた。本を読み、たまに窓から外を眺めながら、
(いつか、私をこんな場所から出してくれる人が現れるのかな)
物語に出てくる勇者に恋焦がれるお姫様のように、アリスはそう思うようになった。
だが世の中は人が思うより非情である。アリスを部屋から出すために現れた人物は、勇者ではなく暗殺者だった。
ある時アリス付のメイドは兵士に嘘の情報を流し、夜のある時間だけ兵士のいなくなった門より暗殺者を招き入れた。事前にルークが兄弟たちの動きを怪しく感じ、アリスにこっそり護衛をつけたおかげでアリスは一命をとりとめることとなったが、アリスにしてみればトラウマとなる事件となった。
アリスの部屋で発見された暗殺者の死体から、王城に暗殺者を侵入させた者がいると噂になり……しばらくして、川にアリス付のメイドが浮かぶことになった。
この事件を皮切りに、アリスに対する兄弟の行動はどんどんひどくなっていった。
ルークはこれ以上アリスを王城に残しておくことはできないと考え、闇の女神教へと預けることを考えた。




