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3章 6話 異端審問事件2


「闇の女神教ウィリアム司祭。

 何か言うことはあるか」


俺に声を掛けている人物は王都の異端審問官。闇の女神教の村から最も近い街にある裁判所で今まさに異端審問の審議が行われていて、俺は審問官に話しかけられている最中だった。

先日光の女神教の貴族と司祭に呪いを掛けたと言う冗談を告発され、その告発を受けて異端審問官が動き俺は異端審問を受けるため最寄りの街にきたと言うわけだ。

当然ながら、俺は告発の内容を素直に受け入れるつもりはない。


「私が実体験したことと、審問官殿が仰られたことにはかなりの違いがあります。

 まず、今回の件の証言者として光の女神教聖騎士のシェリー・ダンフォードを

 招聘したいと思いますが構わないでしょうか」


今回の全てのやり取りをシェリーは見ている。シェリーは自ら証言者として出頭するため共に街に訪れてきてくれていたから、その招聘を願った。


「それはできない。

 光の女神教聖騎士のシェリー・ダンフォードがその場にいたことは

 我々もすでに聞いている。しかし彼女は光の女神教の信奉者だ。

 光の女神教に有意な発言をして貴殿を陥れないとも限らない。

 公平に審問するには、彼の者を証言者とすることはできない」


まさか招聘を拒否されるとは思わなかった。

だが、彼女ほど今回の場の証言者としてふさわしい人物はいないと俺は思っている。


「光の女神教の教義は秩序,正義です。

 そして彼女は光の女神教に認められた聖騎士でもあります。

 嘘を言うようなことはありえないでしょう。

 また、もし彼女が闇の女神教に不利なことを言うとしても

 私は気にしません。

 それでも招聘はできないのでしょうか」


「ダメだ。諦めてもらいたい」


正直この審問官の思うところが読めない。

もしかするとこの審問官は光の女神教の貴族や司祭にすでに買収されているから、シェリーを招聘することを認めないのだろうか。それとも本気で彼の中の最善の行動だと思ってのことなのか。

俺はシェリー以外に呼ぶ証言者がいなかった。同様の流れで、闇の女神教の修道士も拒否されることが推測できるからだ。

何も言うこともないためそれを告げると審問官が改めて審問の開始を告げた。


「では審問を開始する。

 まず最初に、今回の告発の内容の確認になるが、

 光の女神教の司祭、そして貴族が貴殿より呪いをかけられたと

 聞いている。

 呪いは各宗教の有職者の者が使えるものではない。

 邪教の能力であることが過去よりわかっている。

 よって貴殿は邪教徒の疑いがかけられている。

 呪いをかけたと言ったのは間違いないのだな?」


この国の異端審問は、ある魔道具によって行われる。真理の目と呼ばれる魔道具で、対象者の嘘を見抜くことができると言われている。


「それについては間違いありません。

 確かに言いました。

 しかしそれは……」


「ウィリアム司祭、口を慎みなさい。

 私が聞いたことにまず答えるのだ」


俺は決して嘘を言っていないので、魔道具は反応しない。しかし、それを逆手にとって理由の説明をしようとしたところで、審問官に遮られてしまう。 

審問官の心象を悪くしてしまうことはできないので、仕方なく今は黙ることにした。


「では次だ。

 光の女神教の貴族と司祭がウィリアム司祭や闇の女神教の修道士に

 迷惑をかけたと言う話も聞いている。

 興奮してしまっていて、礼を失した態度を取ったと。

 しかし、それはその場でウィリアム司祭に許されたとのことだ。

 これも間違いないな?」


嵌められた……そう思った。この審問方法を逆手に取ったやり方だ。後で俺の口からそのことを言われることがない様に、事前に議題としてあげておいて俺が許して問題ないことを認めさせるつもりなのだ。

確かに俺はあの時、貴族と司祭の失礼な態度を許すと言ってしまった。そして、俺はこの問にYESかNOで答えなければならない。

NOと言えば間違いなく魔道具が反応するので、YESと言わなければならない。

仕方なくYESと伝えると、審問官はふむ。とこちら顔を覗き見るようにするだけでそのほかは何も反応しなかった。


「本日の審問は以上である。

 また翌日呼び出すため、本日は町に逗留され、明日また来られよ。

 なお、念のため逗留予定の宿を後程事務官に伝えてもらう」


それだけ言うと審問官は出て行ってしまった。

あまりに一方的な内容に俺は歯がゆさを覚えた。翌日からの審問に対し何か対策をしなければならないため、事務官に宿の場所を伝えると早々に立ち去ることにした。




「なんと言うことだ!」


俺の話を聞き、真っ先にシェリーが怒りの声をあげた。

自分たちに都合よく告発した貴族と司祭もそうだが、審問官の態度も許せないものだったらしい。


「しかし、呪いの一言があれほどの決め手になるとは

 思わなかった……」


冗談で言ってしまったあの時のことを深く反省するも、現状反省はほとんど意味をなさなかった。


「それについては、闇の女神教は仕方がなかったのかもしれない。

 実は、数年前に闇の女神教を除く5つの宗教が集まり、邪教について

 会議が行われたことがあるのだ」


シェリーが俺たちの知らないことを話してくれた。

闇の女神教が衰退し、助祭以上の者がいなかった時に6宗教……正しくは5宗教で邪教についての会議が行われたらしい。

邪教は何百年も前から存在しており、毒物の使用や病気の意図的な蔓延などのテロ行為を行う犯罪組織としても有名だった。

邪教徒の明確な定義として、呪いを使うと言う内容もそこで追加されたようだったのだ。

闇の女神教は出席できる職位の者がいなかったので、連絡がおざなりになっていたと。

一体連絡しなかったのはどこの誰だと思うが、仮にその件があったとしても今回のことはかなり分が悪い。邪教の対策会議の内容が闇の女神教に伝わっていなかったことを告げるとして、どこまでそれの意味あるのかわからない。

他に、俺にも手がないわけではないがそれ単体では弱いのでもう1つ何か欲しいのが現状だ。


「であれば、どうだろうか。

 フェルメール殿を通じて、土の女神教より言伝をして

 もらうと言うのは」


本日審問官がシェリーの招聘を認めてくれなかったのは、光の女神教が今回の関係者であることも含んでのことかもしれない。。

土の女神教のフェルメールであれば今回の件とは無関係であるし、会議の場に闇の女神教がいなかったことと伝達されてないことについても聞いてもらえるかもしれない。


「そうだな。それで行こう」


しかし、少しは審問官の印象がよくなるかもしれないが根本的解決にはなっていない。

まだまだ俺たちが不利な状況にあることを覆せてはいなかった。


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