2章 22話 取引
「な、なんだこれは……」
闇の女神教の教会、その応接室のテーブルを前に並ぶ人たち。
順に、フェルメールの父であるラウテル子爵,その奥方,ラウテル家の料理長,跡継ぎのラウテル家長男、そして最後にフェルメールの5人だ。
声をあげたのはラウテル子爵。年齢は50手前と言ったところだろうが、年に似合わず白い髪と髭のダンディな中年だ。他の4人もすでに口にしているのだが、何も言えずにいる。
料理長に関しては細めに口に運び、味を確かめながらレシピを考えているみたいだ。
「間違いなく未だこの世には存在しない食べ物だ。
それに、何より美味い。
料理に関わるものなら、この料理のレシピは
喉から手が出る程欲しいに違いない」
ラウテル子爵と料理長が顔を合わせて頷いている。どうやら、レシピを購入することで決まったようだ。
「で、ウィリアム助、いや、ウィリアム司祭。
我々はこれをどのくらいの銀貨で買うことができるんだね?」
金貨ではなく、銀貨。そして、同じ貴族ではないのに上から目線の言葉遣い。そこに、誰もが反応した。俺が闇の女神教の司祭と知った上での行動だ、相当に俺を侮っているのがわかる。
真っすぐ見つめ返してみたが、ラウテル子爵は言を修正する気はないようだった。ため息をついてフェルメールの方を見た。
「某子爵殿であれば、即金で金貨100枚は出すでしょうね」
俺と目を合わせたフェルメールはその後実の父親に顔を向けて、言葉を修正して嫌味をぶつけるように、
「父上……いえ、ラウテル子爵。
私の話している最中に身の振り方を決めてください」
それだけ言った。
フェルメールの発言にラウテル子爵がなんのことだと言った顔をしていた。
「今後もウィリアム司祭を侮るようでしたら……土の女神教は、
ラウテル家の敵に回ることになります。
情報の入手が遅いようですから仕方なく教えて差し上げます。
土の女神教の教皇様からウィリアム司祭に協力するよう指示が
出ています。
なお、教皇様は土の女神よりお告げを賜り今回のことを
お決めになった様です。
もうおわかり」
「すまなかった!
いや……そのな。
世間で噂されているウィリアム司祭がどのような人物なのか
試してみたくなってしまってな!」
ラウテル子爵は最初、フェルメールの話を聞いてただただ驚くだけだった。
しかし、フェルメールが話を少しずつ大きくしていくに連れ、ラウテル子爵の驚きは衝撃に変わり、冷汗をかきだしていた。
女神の名前が出た時点で、冷や汗は滝のようになり手が震えだしていた。
女神の名前が出る前に、修正しておけよと本当に言いたい。
「はぁ……そういうことにしておきましょう。
もう一つ、改めて伝えさせて頂きますが、
今回のことはウィリアム司祭の好意で、ラウテル家が
レシピ販売の入口を任せて頂けることになったのです。
つまり、そういうことなんですよ」
フェルメールはラウテル子爵を本気で睨んでいた。実の父があそこまで判断を下せないとは思ってもみなかったのだろう。
実質、フェルメールが見捨てる寸前でようやく割って入ってきたような形だった。
「ウィリアム司祭、それで我がラウテル家はどのような条件で
今回の件をお任せ頂けるのでしょうか……」
大分口調が変わっていた。若干憔悴してるようにも思える。
しかし、これで良かったのかもしれない。最初から全てを知っているような態度で接してくる者より、少し……で済んだかわからないが、怖い目を見た上で協力することを約束してくれる方がこちらとしても使いやすい。
「純利益の1割」
「それは、私どもが他の貴族や商人に売った際の利益の1割と
言う意味でしょうか」
「いや、この商品に関する利益の1割」
「つ、つまり……私共が売った先の相手が商品として販売しようが、
そこにも1割がついてまわると?」
そりゃそうだ。闇の女神教は資金難で困っているんだから。




