2章 17話 フェルメール・ラウテル
今回、一人称の言葉で書きました。
リネットやニルダの時には三人称で書いたつもりですが、こうしたほうがいいと思ったのです。
【フェルメール・ラウテル】
私の名前はフェルメール・ラウテル。土の女神教の司祭で、現在年は25歳だ。
私の自己紹介を聞くと、誰もが2つの疑問を抱く。
1つは、私にセカンドネームがあること。私は貴族だ。貴族がわざわざ司祭になったのかと驚かれるのだ。
それもそのはず、貴族の長男,次男であれば跡継ぎのための教育を受けるから教会の関係者になどならないし、三男,四男でも家が裕福であれば援助してもらい、様々な職につくことができるのだ。
私は四男として生まれたが、家はそこそこ裕福であったから多くの道から自分の人生を選ぶことができた。実際、三男の兄は王都の学校へ通い教師になって生徒の人気も上々らしい。
貴族の教師と言うものは存外重宝される。先生を通しての貴族同士の顔つなぎもできるし、先生が知り合いであれば何かと融通も利くと言うものだ。
しかし私は全く別の道を通ることにした。なぜならば、私は土の女神教を誰よりも信仰していたからだ。
我がラウテル家は土の女神教を信仰している。よって家の本棚には土の女神教の本が多く置いてあった。
土の女神教の聖書や、偉大な先達たちの旅について書かれた本。それらを読んでるうちに、いつしか自分は土の女神の教会で教皇を目指すのだと感じていた。
教会へは子供の頃から足しげく通い、司祭様に顔も覚えてもらって、たまに会話をするようにもなった。
万を持して15歳で教会へ入り、17歳には助祭に任命された。地域を束ねる司教様からは、あなたのように若くして敬虔な信徒は珍しい。きっと教皇になるのも不可能ではないでしょうと言われ、嬉しかったのを覚えている。
その後助祭として教会の仕事の従事し、領内の村人や領主,商人などとも縁を結び、23歳になると司祭にも任命された。
司祭への昇格の式では、土の女神教の教皇にもお目通りが叶い、あなたの祝福された人生に幸あれと、簡単だったがお言葉も頂くことができた。
世間は私のことを何十年に一人の逸材と噂していたが、決して驕ることなく次は司教を目指して邁進している最中、
「おい、聞いたか。
闇の女神教に5歳の助祭が誕生したらしいぞ」
そんな声が聞こえた。
最初は5歳の子供が助祭なんて何かの冗談だろうと思っていた。しかし日にちが経つに連れ噂はどんどん大きくなり、贔屓にしていた商人からも聞くこととなった。
「闇の女神教の助祭様ですか、実際におられますよ。
一度見たことがありますがとても5歳とは思えない聡明な方でした」
ショックだった。今までの私の神への信仰とは一体なんだったのだろうか。そう思った。
だが、私にはまだ心の支えがあった。助祭から司祭へ至るには辛く長い下積みが必要となる。私でさえ、6年かかったのだ。もしかしたらこの幼い助祭では流石に6年で司祭に至れないのではないか、いや無理だろう。
そう思うことで私の中の葛藤を鎮めることができた。自身の方が優れていると思うことで、心の安寧を得たのだ。
しかし、私のショックは更に大きいものとなった。
生まれて初めて教皇様から手紙が届いた。実際にお会いしたことがあるものの、それは私が若くして司祭になると言う異例のことに対しての結果に過ぎないし、交わした言葉も儀礼的なものだった。
あの時以外に教皇様と交流を持ったことなどなかったのだ。だから、私は正直教皇様からの手紙にとても気分をよくしていた。
だが、違ったのだ。この手紙は私の普段の信仰に対してや、私が領民への施しを行っていることには関係がなかったのだ。
手紙の内容はこうだった。
我が女神より聖女にお告げあり
闇の女神教に新たに司祭が誕生した。その者は通常の司祭より力が強い。その者と交流を図り、困っているようであれば我が教会の力を持って助け、協力ができるのであれば友となること。
その司祭は必ず我が土の女神教に繁栄を齎す。決して害さずに、共に歩くこと。
このお告げを受け、我が土の女神教内は闇の女神教と共に歩くことを決めた。このことはトップシークレットだ、同じ教会内の者だとしても決して漏らすことのないよう。
また今回の任につくに当たり、必要な金額は全て教皇名義で請求してよい。
我が教会、異例の存在であるそなたに全て任せる。
なお、我が女神より闇の女神教の司祭は力が強いとされている。使徒の可能性があるため、職位は司教同等として接すること。
闇の女神教に誕生した司祭とは、間違いなくこの間まで助祭だった子供だ! たった一年で司祭となったのだ。
冗談だと思いたかったが、我が教会の教皇様から直接知らされたことだ、疑いようがない。その教皇様も女神様からのお告げで知ったと言うのだから、もう疑ってはいけないレベルだ。
私はこの手紙を持ってきた教皇様からの使いの者に、すぐさま金貨5枚分の銀貨を要求。そして、今持っている手持ちの銀貨で、移動のための護衛を冒険者ギルドで募集した。
依頼の金額を通常の1.5倍にしたことで依頼の相手はすぐ見つかった。どうやら、闇の女神教の村までの道のりは比較的安全らしいので、冒険者からすれば割りの良い依頼だったらしい。
また、教皇様の使いの者からは1日かからずして要求した倍の金貨10枚分の銀貨を手渡されることになった。これは、闇の女神教の村での生活費も込みのことであるらしかった。
すぐさま馬車で闇の女神教の村に向かった。
急いで向かったことで朝に辿り着いてしまい、時間が余ったので冒険者たちには宿を押さえてもらって私は闇の女神教の教会の下見に向かった。
まだ日が昇ってそれほど時間も経っていなかったが、闇の女神の教会の庭から音がした。
そちらに向かうと、今回の目的である闇の女神教の司祭――助祭のローブを着ていたが――と武芸の訓練にいそしむ二人のダークエルフの姿があった。
今年6歳になったばかりの子供は、助祭のローブを着ていた。この子供……周りの人間に、自身が司祭になったことを話していない。しかも、わざとだ。
その瞬間、私はこの子供に身の毛もよだつような恐ろしいものを感じた。何か意図があってこのような真似をしている、このようなことのできる大人でさえ少ないのに、この子供は……。
我が教会は、この子供と共に歩んでいく中でなければならない。私はその重大な任を賜ったのだ。それがよくわかった。
朝まだ早く失礼に当たるかもしれないと思ったが、私は少しでも早くこの子供と話してみたかった。
気づけば私の足は司祭に向けて歩き出していた。
まず二人のダークエルフが私に気づいた。こちらを見た顔を見ればよく似ている。双子なのだろう。
そして、そのダークエルフの反応を見て子供が私に気づいた。
私の目と彼の目が合って、私はもういてもたってもいられなくなってしまい、ローブを……フードさえ被ったままなのを忘れて、話しかけてしまった。
「あの……闇の教会を訪ねて来たのですが、
ここで合ってますでしょうか?
何しろ初めて来たもので……」
私の口から出た言葉は、とてもわざとらしいものだった。出してしまったものは仕方ない。この話を皮切りに進めるしかない。
しかし、私の言葉に対し二人のダークエルフが警戒を露わにした。そこで初めてフードを被りっぱなしなことに気づいて、なんとか落ち着き払ってフードを脱いだ。
心臓がドカンドカンと鳴っているのがわかる。我が教会の教皇を前にしてもこれほどになったことはないと思う。
緊張を自制し、落ち着き払って次の言葉を出すことができた。自分を褒めてやりたい気分だ。
「ここに闇の女神教の『司祭』様がおられると聞いて、
やってきました。
私は、土の女神教の司祭です」
私の言葉を聞いてダークエルフの片方が目を大きくひらいたのがわかった。
やはりこの子供、司祭になったことを誰にも告げてない。人は他人の驚いている様を見ると冷静になることができる。私もそうだった。このダークエルフが驚いてくれたおかげで冷静になることができた。
おかげでこの後の会話も普段通りに行うことができた。
この後教会の応接室に通してもらい教皇様から預かった司祭宛ての手紙を渡した。応接室はとてもきれいだとは言えなかった。掃除はされていたが、家具や壁は経年によるシミなどが目立っていた。
無事最初の任を終え、宿屋に戻って冒険者たちと合流した。
そして宿屋で夕食を取ろうとしたとき。なんと、半毒の実が食事に出たのだ。
「店主はどこだ! いったいどういうつもりなのだ。
私を土の女神の司祭と知って、殺そうとしているのか!」
半毒の実は、知らない者もいるが食材として適していないことは有名である。特に飲食に携わるものであれば、知っていて当然のことだ。闇の女神教の村だからと言って、知らないことなどありえない。
「あーこれは失礼。
闇の女神教の信徒の中では、混沌の実と呼ばれていて、
とてもありがたい食べ物なんですよ。
助祭様が闇の女神の祝福を受けた食べ物だと広めてますから。
美味しいですし、巷で言われているような毒にかかることも
ありませんよ」
助祭だと!?
半毒の実を私に食べさせようとしたのは、あの子供の仕業か!
後で思い返せば、私はこの宿屋の店主の話を最後まで聞かなかった。半毒の実を食べさせられそうになったことで頭に血が上り、正しい判断ができなくなっていた。
遅い時間だと言うのに気にせずに走って闇の女神の教会に向かい、正面のドアを開けた。
そのまま人の気配がする方向に向かい、司祭と先ほどのダークエルフ、そしてシスター達が食事をしていた部屋に入った。
私は相手の反応を待つこともしなかった。
「ウィリアム司祭様! あなたは何と言うことを信徒に
させているのです!
半毒の実を食べさせるなんて!」
私が話した言葉は、思っていたより大きかった。それほど私は激高していた。
しかし私の言葉には誰も反応しなかった。そして、そこでの会話で思い知らされた。土の女神教だけじゃない、全ての宗教の者、国の者が毒だと判断した食べ物をこの司祭は食すことができる物に変える方法を持っていると。誰もできなかったことを、たった6歳の子供がやり遂げたのだ。
そして、思い知った後で食事中に押し掛けると言う無礼を指摘されてしまった。
私はもう恥ずかしくて恥ずかしくて、逃げ出すように宿屋に戻った。夕食を食べることもせずに部屋に戻って布団に突っ伏した。
思い返せばどれだけの失礼を重ねてしまったことか。
明日、謝罪に行かなくてはならない。それも、最上級の謝罪をせねばならない。そう思うと、明日が来ることがとても辛かった。
「ウィリアム司祭様、そして教会の皆さま。
昨日の数々のご無礼、どうかお許し下さい。
そして、ご無礼の謝罪と共に寄付をさせてください。
どうか……これを……」
教会に関係する多くの人たちの前で、私は最上級の謝罪をした。そして、寄付金として持ってきたお金の内の半分の差し出した。
その時の私はどんな顔をしていただろうか。今となっては思い出すこともできない。
しかし、ウィリアム助祭は、教会の皆さんは、私の謝罪を受けいれてはくれなかった。むしろ、謝罪するほどのことではないと快くお許しくださった。
なんと心の広い方々だろうか。私はこの司祭に誰よりも大きい興味を持つことになった。どのような生き方をすればこのような人物に育つことができるのだろう。そう思うと心が落ち着かなかった。
お許し頂いたことに感謝し下げていた頭を上げたとき、私がテーブルに置いた寄付のお金をひったくるように最も年を取ったシスターが持って行った。
改めて知ったのだ。広い心を持つことと、貧乏に瀕していることは関係ないのだ。
「ふぅ……」
私は闇の女神の村に来るにあたり、日記をつけることにした。
最初の2ページを埋めた辺りで少し疲れを感じ、深く息を吐き休憩に入った。
私はこれから今まで以上に驕ることなく生きていく、そしてこの闇の女神教がこれからどう変わっていくのかを見届けるのだ。
司祭の行く道を見守ることが、土の女神教の教皇となる道に繋がる。そう思えた日だった。
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また、別作品である「1から始めるダンジョンマスター」の方もよろしくお願いいたします。




