2章 16話 土の女神教との協力
応接室に着いたが、司祭は決して先に座ろうとしなかった。俺は司教扱いになるので、他の宗教の者と相対していたとしても職位が上の者をさしておいて先に座るなどありえなかったからだ。
俺が先に椅子に座ると、それを見てから司祭も座った。
ここに来るまでに司祭はすでに外套を脱いでいて、内側に着ていた司祭のローブは少しも汚れておらずキレイだった。我が協会とは大違いだ。
「改めて、ウィリアム司祭様。
私、土の女神教で司祭を務める、フェルメール・ラウテルと申します。
今後、ウィリアム司祭様と交友をはかることになりますので、
よろしくお願いいたします。
まずは、我が教会の教皇より手紙を預かっておりますので、
確認をお願いいたします」
司祭改めフェルメールが、ローブの内側より封蝋された手紙を取り出した。封蝋の印は土の女神教でも最も位の高い者が使うものであることがわかった。
教皇からの手紙より先に気になったのは、この男がセカンドネームまで持っていたことだ。
セカンドネーム持っていると言うことは、貴族の者であることを示す。
貴族でありながら土の女神教の道を歩んだことになる。
子爵や男爵の三男以下の者であれば自身で食い扶持を見つけなければならないので、もしかしたらその口かもしれない。
テーブルに置かれた手紙を受け取り、封蝋を割って中を確認する。
書かれていたのはこうだ。
ウィリアム司祭,まずは昇格おめでとうと言わせてもらう。
5歳で助祭,6歳で司祭などと言うのは、過去を遡っても貴殿一人だけであろう。
それが仮に衰退している闇の女神教の中のことだとしても、やはり珍しいと言わざるを得ない。
話は変わるが、先日我らが信仰する土の女神様より聖女にお告げがあった。教皇自らが先導し、闇の教会に新たに現れる司祭に協力しろ。と言うものだ。
我が土の女神教は古来より闇の女神教とは協力関係にあった。これは、歴史書などを見ても明らかである。よって、土の女神様に言われるまでもなく、貴殿や闇の女神教に協力することはやぶさかではない。
ただし、先ほども言ったようにそなたの存在はとても珍しい。そして、貴殿に興味を持っている者はとても多い。我らに貴殿のことを見守らせて頂きたいと思う。
土の女神教の中ではやや異質でもあるフェルメール司祭をそちらに送り出す。
協力が必要な場合はフェルメールに是非申し付けて欲しい。
手紙の文章が砕けているので、教皇から俺への個人宛の手紙である。
しかし、見守らせて欲しい……ね。俺に興味を持っている他の者から守ると言う体の監視だなこれは。
内容の確認を終えたので。わかったと伝えると、フェルメールは宿屋におります。また明日訪ねますとだけ言い、頭を下げて部屋を出ていった。
俺も部屋を出て外に行こうとすると、ドアの向こう側には修道士長とリネットがいた。そしてその後ろには、こちらをジト目で見て来るノエリア。
「ウィリアム『司祭』様。どういうことなのか、
話して頂けますね?」
ノエリア……全部話したのか!
俺は修道士長とリネットに両手を掴まれ、宙に浮かされた状態でそのままお説教部屋に連れていかれることになった。逃げ道はなかった。
闇の女神の教会の食事、ここ最近は大量に収穫された混沌の実の料理ばかりなのだが、その最中に邪魔ものが飛び込んできた。
「ウィリアム司祭様! あなたは何と言うことを信徒に
させているのです!
半毒の実を食べさせるなんて!」
やってきたのは土の女神教の司祭フェルメール。宿屋から駆けてきたのだろう。息を切らして肩を上下に揺らしていた。
おやおや、翌日訪ねますと言った癖にその日中に来るとはせっかちさんですね、などと頭の中で考える。
宿での夕食に蒸した混沌の実が出たんだろう。どうせ宿屋の主人に問いただし、俺の名前が出たと言うところか。
「フェルメール司祭様、これは半毒の実ではありません。
混沌の実です」
蒸しただけの混沌の実を食べながら、リネットがフェルメールに告げる。
食事中に勝手に入って来ると言うのは、実はかなり失礼にあたる。特に他教の教会に無断で入って来るなど持っての他だ。そんな失礼な奴のことなどは構いもせずに、リネット以外の者は食事を続けていた。
「混沌の実?
もしかして、半毒の実とは似て非なる物と言うこ」
「同じ」
フェルメールの言葉を遮って俺が答えた。
この手の会話は放っておいたり他人に任せたりすると長くなるのはわかってる。
早く終わらすに限るので俺が出ることにした。
「自分の言ってることがわかっておいでですかっ。
名前を変えて信徒を騙すとは、司祭にあるまじき行為ですぞ!
皆さんも、食べるのをやめてください。
食べる物がないのであれば、すぐに土の女神の治める町から、
食べ物を持ってきますので!」
若干暴走中のフェルメールの言に応える者はいない。
それどころか、全員無視して食事を続けている。
「毎日食ってるぞ」
ノエリアがボソと告げた。
その言葉を聞いてフェルメールが固まった。食べれば間違いなく1刻以内には腹痛や眩暈の症状が出る有名なものだ。毎日食べて平気だと言うことは症状が出てないと言うことになる。
どうして大丈夫なのか全くわからずに、その場で考え出してしまっていた。
「それより、良いのか。
土の女神教の司祭は他教の教会に勝手に入ってきて
騒ぐのが趣味だと広まるぞ」
ノエリアの指摘にようやく戻ることができたフェルメールは、
「こっ……これは失礼をっ」
どうやら混乱してまともな思考ができなかったらしく、謝罪もそこそこにそのまま帰って行ってしまった。
「ウィリアム司祭様、あれ、いいのですか?」
アレ呼ばわりされるフェルメール。ま、どうせ明日には冷静になって改めて謝罪に来るんだろうし、いいんじゃないだろうか。




