2章 13話 闇の女神の一時的な顕現
もう忘れ去られてそうな人が久しぶりに登場です
現代でも異世界でも、朝に意識が覚醒してからベッドの中でぬくぬくすると言うのは最高で、とても貴重な時間であることは言うまでもない。
しかも今日に限ってやけに柔らかいものが顔に当たり、気持ちいいクッションとなって俺の体を起こさせなかった。
(気持ち良いなあ……でも、こんな柔らかいクッションなんてあったっけ……)
明らかにいつもと違うことは理解できたが、まだ眠い気持ちのほうが勝っていたので目を開けずにいると、
「うぅん……」
ちょうど頭の上辺りから女性の声が聞こえる。この声いったい誰だ? 記憶にない声だな……。しかし、女性の声が聞こえると言うことは、俺の顔に当たっているこの柔らかいものはまさか……。
流石に寝続けるわけにはいかなくなったので仕方なく起き上がり、隣を見る。
いたのはニルダやリネットではなく、髪の毛が黒色の……闇の女神だった。
しかもこいつさりげなく俺を抱き枕にして、勝手に添い寝してやがった。
普段祭壇に置いてある闇の女神の像を見ても特に何も思わないのだが、生のこいつを見た瞬間今までの色んなことが思い出された。
現代では出社前にドアを開けた瞬間土下座され、そのままの姿で異世界に転移するのかと思いきや赤ん坊に転生させられたこと。
こっちの世界に来たら来たで闇の女神教が衰退しすぎていて、色々な苦労があったこと。
それらが思い出されるに連れて、俺の中の怒りも徐々に湧き、そして、
「いだぁーっ」
のんきに寝てるこいつの頭にゲンコツをくれてやった。
「痛いぃ……ちょっとぉ、ひどいんじゃないですかぁ。
久しぶりじゃないですかぁ、もうちょっと別の対応でも
良かったんじゃないですかぁ」
ゲンコツで起こされた闇の女神が涙目で俺に怒ってくるが、怒った顔が割と可愛くて全然怒られてる気がしない……いや、危ない。そんなこと考えている場合ではなかった。
俺はこいつに、ひどい目にあわされたんだった。
で、今まで音沙汰なかった闇の女神様がなんで添い寝なんかしてるんですかねえ。と敬語で怒って見せると、闇の女神は自身が俺に何をしたのか思い出したらしく、申し訳なさそうに小さくなった。
「起こすのは悪いかなぁーって思ってたらぁ、少し私も眠くなってぇ、
ちょっとだけちょっとだけって思ってたらいつのまにかぁ……。
ごめんなさいなんでもないですぅー!
実はぁ、今回あなたの前に現れたのはぁ、
助祭から司祭に昇格させてもらおうかと思ってぇ」
最初変なことを言ってた気がするが、こいつの話全部に付き合ってたら埒が明かなそうなので最初の部分だけは流してやることにする。 女神に拉致られているとしたら……拉致が正しい? うーん。
助祭から司祭になるとヒールとクリーンの効果が高くなり、さらに解呪の魔法,身を守るための魔法,攻撃魔法が使えるようになる。
俺の場合、使徒の職業効果で更に効果が高くなるため相当な威力になることは間違いない。
よって司祭に昇格することは間違いなく良いことなのだけど、どうしても裏があるとしか思えない。
ふぅん……で? と、続きを促した。
「そのぉ……私のために頑張ってもらってるのにぃ、
助祭のままなんてぇ、絶対に都合が悪いと思ってぇ。
本当ならぁ、教皇とかになってもらってぇ、
以前と同じくらいの勢力を取り戻すくらいまでぇ、
頑張ってもらいたいんだけどぉ……」
教皇になって勢力を取り戻すまで頑張って欲しい。つまり、都合良くこき使いたいと言うことか……。
最後の方は、チラチラとこちらの顔を伺いながら言ってきた。
「痛いぃーっ!」
闇の女神の頭に2つ目のゲンコツを落とした。
子供の力で殴ったのにものすごい痛がってるのはどういう理由なのかはわからない。
涙をボロボロと落としながら、ゲンコツ落とした部分を両手で押さえ、こちらを見てきた。
あまりに痛がり方が尋常ではないので、少しだけ溜飲が下がる。
なんでこのタイミングなんだ? 最初から助祭じゃなくて司祭にすれば良かったんじゃないのか? と、今回のことへの矛盾を聞くと、
「異世界転生させるのってぇ、ものすごい力を使うんですよぉ。
最初はそれで残りの力も少なくてぇ、助祭にするだけで
いっぱいいっぱいだったんですぅ。
その後少し休ませてもらったおかげでぇ、ほんの少しだけ
力を取り戻したのでぇ、無責任の償いとぉ、司祭への昇格の
ためにぃ、顕現したんですぅ」
もっとひどい返事が来ると勝手に思っていたので、もしかしてこいつ思ったよりまともなこと言ってる? と、俺の中の闇の女神像が崩れた。
きっと俺はすごい変な顔をして闇の女神を見ていただろう。そんな俺の顔を見てとても不満そうな顔をしていたことだけが鮮明だった。
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