1章 1話 名付け
今日は後1話投稿します。初日のみ一気に3話投稿です
「ねえ、リネット。
その子は一体どうしたの?」
闇の女神の教会で、年老いた修道士長が見習いシスターに尋ねた。
夜回りをしてきたはずの見習いシスターが、なぜか赤子を抱いているのだ。
「修道士長。
実はこの子、裏口に捨てられていたんです」
「まあ、そうなの……
今はうちの教会も厳しいし、ちゃんと育ててあげれるかしら……」
修道士長がそう言うのには理由があった。
現在の闇の女神の教会は信徒も少なく、寄付も少ない。
栄養があるものを与えることがなかなかできないため、生きて5歳を超えることもできないかもしれない。
そんな教会でも孤児院としても機能しており、他に養わないといけない子供もたくさんいるのだ。
「でも……見てください。
この髪。そして目を開いてくれたらわかりますが、
闇の女神様と同じなんです」
そう言ってリネットが抱いた赤ん坊を見せて来る。
少し生えた髪の毛は確かに黒髪だ。この世界に黒髪の子供はほぼ生まれない。髪も目も黒となれば、今までにそのような存在は皆無だった。
「そうね。
どのみちこのまま捨ててきなさいなんてこと、言えないもの。
うちで育てましょう。
でもね、リネット。連れて来た責任をもって、あなたが育てるのよ。
わかった?」
孤児院も兼用している教会が孤児を捨てることなどできない。
連れて来た本人が責任をもって育てることを、修道士長は口頭で約束させた。
「はい!がんばります。
この子を立派に育てます」
リネットはまだ若く、今年10歳になったばかりである。
今までは他のシスターの手伝いとして孤児のお世話をしていたが、今回の赤ん坊はリネットの責任で育てることになってやる気を出していた。
「で、どうするの」
「何がですか?」
「その子の名前よ」
「はい。
実は、こういう時のために考えていた名前があって……」
まだ名前もない孤児を拾ってきた場合、この世界では育てるシスターが名前をつけるのが通例となっていた。
リネットはいつか自分にもこんなときがくるだろうと思い、昔から考えていた名前があった。
「・・・って名付けようと思うんです」
「なんて言ったの?聞こえないわ」
修道院長はリネットの声が途中からしか聞こえず、聞き返す。決して年をとったことで聞こえにくくなったわけではない。
「ですから、・・・・・・。
あれ?声に出てない……」
言おうとして、声に出てないことを理解したリネットは驚いた。
「さっきから、声に出して発しようとしてるんですけど、
声に出ないんです……」
リネットが真剣な顔でやっているのを見て修道院長は自身でもやってみることにした。
「この子の名前は・・・・・。
あら、本当ね。
名前をつけれないわ」
修道院長は、試しにアーサーと名付けようとしたのだが、名付けようとしたときだけ声が出ない。
「不思議ねえ。今までそんなことなかったのに。
本当に闇の女神様の授かりものなのかもしれないわね」
このような不思議なことがあっては、黒髪黒目であることも踏まえて闇の女神の授かりものなのかもしれないと改めて思ってしまう。
「けど、名前が呼べないのでは不便よね」
困ったと修道士長が手を顎に当てて困っていると、リネットの中に名前が浮かんだ。
「ウィリアム……あれ?」
今まで呼べなかった名前が、急に呼べるようになった。なんとなく、この子の名前はウィリアムで間違いないと言う実感がリネットに湧いた。
「ウィリアム……この子の名前。ウィリアムにします」
赤ん坊の名前を呼べたリネットに修道士長は驚く。
「ウィリアム……呼べるわね。
その子の名前はウィリアムで間違いないようね。
リネット、これからはウィルをよろしくね」
はい!とリネットは元気に返事をする。
リネットの頭の中に浮かんだウィリアムと言う名前。それは、男爵家でもあるリネットの実家、シールズ家の末っ子として今年の頭に生まれるはずの子供の名前だった。




