1章 9話 リネット=シールズ
個人的に好きな回です
今回はリネットの一人称視点となります。
「ウィル、今日も可愛かった~っ。
流石闇の女神様と同じ髪,目なだけあるわっ。
し、か、も!他の司祭の数倍の能力があるのよ。
これは将来偉大な人になるのは間違いないわ!」
私は自身が拾ってきたウィルの自慢を他のシスターに話していた。
ウィルは赤ちゃんの時から他のシスターから評判が悪かった。目つきが悪くて愛想がないだとか、行動が子供っぽくないとよく言われていた。
実際他の孤児は複数人で外で元気に遊んでいたのに、ウィルだけは教会の中で本を読むだけだった。
そんなウィルがたった5歳で助祭になり、お祈りのお仕事も大人の司祭よりもしっかりをこなし、他の司祭の何倍もの能力を持っていることが素直に嬉しくて仕方ないのだ。
「あんたねえ。
自分が拾って自分で育てた子だから、可愛いのはわかるわ。
だけど、もっと驚きなさいよ?
5歳で成人している司祭よりもすごい能力を持っているのよ。
はっきり言って異常と言ってもおかしいくらいよ。
先日のお祈りでの言葉も、熟年の司教様の様だったわ……」
着替えながら私の話を聞いていたシスターからウィルの不評を言われてしまった。
「それに、子供でもあれだけ目つきが悪いと、
流石に可愛いとは思えないわよ?」
別のシスターからもウィルを悪く評されるが、私は気にはならない。
だってウィルは凄いんだ。他の人はまだわかってくれないだけだから、今は仕方ないんだ。
そう思ってシスター達に反論もせずにいると、二人ともため息を深くついて諦めるように寝間着に着替えて部屋を出ていった。
最後まで残ってしまった私は、急いで着替えると自身の部屋に戻る。
私たち修道士の部屋はとても狭い。なんとか体が収まる程度の大きさのベッドに、机と椅子、そして必要最小限の荷物が入る程度だ。これは男爵家から行儀見習いとして来ている私でも同じだった。
私はすぐにベッドに入ると、もっと幼い頃のウィルを思い出す。そして幸せな気持ちになるのだ。
これは私の毎日の日課だった。抱きしめると、少し暴れてから諦めたように困った顔をするウィル。自分でできないことを仕方なく私に手伝ってもらうときの仏頂面をしたウィル。本を熱心に読むウィル。外に出て、食用可能な植物をこっそりと台所に置いていくウィル。病気の他の孤児を深夜にこっそりと治すウィル。言い出せばキリがない。もう可愛いすぎて仕方ない。
私がウィルのことを他のシスター同様に不審がらないのには、理由があった。
自分が育ててきたこと、闇の女神様と同じ髪,目だったこともあるが、ウィルが深夜にこっそり起きて開かずの扉に入って何かしていることを偶然見つけたからだ。
当時のことは鮮明に覚えている。深夜にふと起きて台所に水でも飲みに行くところだったのだが、子供たちが寝ている大部屋が開くような音が聞こえたので、もし子供が悪さをするようであれば脅かそうと隠れていた。
廊下を歩いてきたのはなんとウィルだった。ウィルはシスター達に不評ながらも決して私たちに迷惑をかけることだけはしなかっただけに、この行動には驚いた。そのまま後をつけてみるとウィルは開かずの扉の前で止まった。あの扉は大人の力でも開けられない不思議の扉だったはずなのだが、ウィルはいとも簡単に開けて中に入ってしまった。ウィルが入った後、扉が閉まると私は扉に近寄って開けようと試みたのだがやはり開かなかった。
この時、ウィルは他の人にはない力をもっていると思った。
そして何度か開かずの扉を訪れるウィルの姿を見守っていると、今度は大部屋で病気だった子供に手をかざすウィルを見た。ウィルの手から発生した淡い光を放つ何かは病気の子供の胸に吸い込まれていった。ウィルはその後すぐ自身の布団で寝てしまった。
翌朝、孤児の病気は治った。それだけでなく、孤児の体や孤児が寝ている布団が浄化されていた。
ウィルは4歳の時点で助祭としての力を持っていたのだ。
ウィルはこのことを誰にも言わなかったから私も敢えて言わないでおいた。ウィルはとても聡明な子だから誰にも言わないのには理由があるに違いなかった。自分とウィルだけの秘密だと思うとなおのこと嬉しかった。5歳になってようやくウィルが打ち明けてくれたときも、本当は知ってたよ。って言いたかったけど敢えて知らない振りをした。自身の本当の子供のように思えて、ウィルのことが余計に愛らしく感じた。
そんなことがあったから私はウィルが本当は優しい子であることは知っていたし、私たちに迷惑をかけないようこっそり動いていたことも知っていた。
だから可愛くて愛らしくてたまらないのだ。
(闇の女神様。
私のような者をウィルと会わせてくれて、
本当にありがとうございます。
私は本当に幸せです)
毎日そうやって寝る前に女神様に感謝した。