王国の柱ペンノ=ペンドラゴン
ペンドラゴン家。それはエルドクラフト王国の七大貴族の一角、傲慢を司り、家紋がドラゴンの貴族である。そして普段何やっているの?と言われるくらい特徴がない。怠惰を司るシーナ家に『お前らが怠惰で良くない?』と言われたくらい今代の当主ペンノは、めんどくさがりだ。だが、ペンドラゴン家はとても大切な仕事を受け持っている。それは何かというと
「ペンドラゴン様、資料を持ってまいりました。」
「次から次へと来やがって。うん?ちょっと君、名前は。」
「えっ?あっはい。ジャックと申します。」
「君明日から宮廷の庭師して。」
「は?」
「じゃよろしく。」
まあ、かんたんな話スカウトだ。彼等ペンドラゴン家の祝福傲慢の能力の一つ、他人の能力と成長値を見れる。それを使って人材を確保しているのだ。
(うん。正直辛い。)
彼はいま、資料を見たり街を歩いたりしてあるものをさがしていた。そう、この度生まれた第五王子のエデンの付き人探しだ。
(というか無理だろ。王子と同い年くらいで将来楽しみな人材とか。ああ、シャルルは良いなあ。分家から優秀なの引っ張って来れるから。うちはそういうのないからな。俺がつくる手もあるが女の子だったときはエデン殿下が困るだろうからなあ。)
というわけでいろんなところをみて赤子を観ていたのだが。
(うん。もう無理だ、いるわけが無い。帰って休もう。)
今日もペンノは大変なようです。
「父上。エデン様の付き人まだ見つかってないですよね。」
「なんだ、アヤト。やっとお前が付き人をやってくれるのか。」
「それは残念ながらできないですね。ですが、先程から困っている父上に一つ提案をと思いまして。」
アヤトの声色が少し変わった。ペンノは自分の息子の顔を見る。
「ああ、やっと目を向けてくれましたか。」
「当たり前だ。お前が私の息子ではなく、アヤト=ペンドラゴンとして話かけて来たのだ。それに、仕事の話だ。真剣に聞かなければなるまい。」
ペンノの顔つきも変わる。そこには普段のやる気の無い顔ではなく、覇気が宿っていた。
「あなたの知りたいのは、仕事が楽になるやり方でしょ。…はぁ、ちゃんと話しますからそう睨まないでください。」
実際、あなたが真剣になるのは仕事を楽にできる方法を考えているときだけだ。と続けようとしたが睨まれたのでやめた。
「あなたが探してないところはバータリプトラ家の管轄区域でしたので、資料を纏めていたところ少し気になるものがいたので連れて来ました。」
そうアヤトが言うと、赤子が運ばれて来た。
「どうでしょう、父上。」
「どうでしょう、父上。」
ペンノはその子を見たとき背筋が凍る思いをした。
「どうしました?父上。」
「これほどまでとは。」
「え?」
これほど自分の息子は優秀だったのか。
「アヤト。お前この子のどこが気になった。」
「………勘ですかね。」
アヤトの言葉を聞いたとき、ペンノは決めた。いや、元々考えていた事だったが、この時ほど強い衝動に駆られたことはない。継承の時が来たのだ。
「アヤト、よくやってくれた。お前にはペンドラゴン家当主として褒美をやらなければなるまい。だが、金銀も宝石も地位も領地も今のお前には必要のないものだと思う。だから、今やろう。このペンドラゴン家の最大の財を。傲慢の祝福をお前に譲ろう。」
「―――傲慢の祝福をお前に譲ろう。」
アヤトは父から言われた言葉の意味がわからなかった。祝福はその名の通り神から受け取った特殊なスキルだ。そんなものをかってに譲渡しても良いのだろうか。アヤトは迷った。だが、父ペンノはそんな様子を感じ取ったのか、
「前に言っただろう。ペンドラゴン家の力は当主になって初めて開花すると。」
確かに言われた記憶はある。たが、いやだからこそアヤトはペンノの意図に気づけなかった。
「父上、それを譲るのは私が正式にペンドラゴン家を継ぐときではなかったのですか。私はまだ未熟者ですよ。」
「そんなこと知っている。だからこそ今お前に譲らなければならないのだ。ペンドラゴン家の祝福は傲慢。制御できるまでが長い。お前は今日から当主になるための教育を受けさせる。祝福の譲渡もその一環だ。」
アヤトは今、納得した。だが、自分の何をみてそう考えたのか。それがわからなかった。
「わかりました。しかし、祝福を失ってしまえば父上は仕事もできないのでは。」
「祝福などなくとも仕事に支障は出ないさ。出たとしても大丈夫だ。なんたってお前がいるのだから。」
ペンノはそう言い、椅子から立ち上がる。そして、後ろの壁に手をあてた。
「現当主ペンノ=ペンドラゴン。」
そう言うと、壁に魔法陣が現れた。だがそれは一瞬の出来事。アヤトが驚いているあいだに消えてしまった。
「今のは?」
「今のは、鍵だ。ついてこい。」
ペンノはそれだけ言うと雑務室から出る。アヤトも無言で続く。やってきたのは、一階の物置。物置と言ってもガラクタすらないただの空き部屋だ。
「さあ、着いたぞ。」
「どうしてここに?」
「アヤト、本当にわからないのか。」
ペンノが聞いてくる。ああ、懐かしい。とアヤトは思う。この表情は、昔よく見た。父は自分に失望しているのか。いや、違う。そうじゃない。そう自分に言い聞かせる。父はきっと期待しているのだ。自分が答えにたどり着けると。だからあえて、厳しい事をしているのだ。
「ここは、始まりの場所ですか?」
アヤトはそう尋ねる。自分の本能にしたがって。
「ああ、アヤトお前は私の自慢の息子だ。」
その時、アヤトは世界が壊れる音を聞いた気がした。なんだ、と思ったときにはアヤトの意識は暗闇に落ちていった。
「始まったか。」
ペンノは倒れたアヤトを見て呟いた。継承の儀式が始まったのだ。ペンノは部屋を見渡す。ここはペンドラゴン家にとって最も大切な場所だ。始まりの場所、とアヤトは言ったが、それは正しくはない。ここは、ペンドラゴン家になるための場所だ。祝福を受け取って初めてペンドラゴン家の一員に成れるのだ。
「これを考えた初代様は恐ろしく傲慢だったのだろう。なにせ、これくらいの事ができなければ、自分の子孫だと認めないと言っているにも等しいのだからな。」
そう言って部屋をあとにしようとする。が、足を止めて振り返る。
「アヤトよ、お前が真に俺の子ならきっとあの剣は認めてくれるはずだ。だが、自分を信じなければお前は永遠に帰ることはできない。しっかりやれ。お前はこのペンノ=ペンドラゴンが認めた男なのだから。」
そう言い部屋から出ていった。
それから3日後、アヤトは無事儀式を終えて帰ってきた。ペンノはそれを喜びたたえた。自分はこの儀式に五日間もかかってしまったため、3日で帰ってきた自分の息子の優秀さに驚いたのだ。
「父上。今まですみませんでした。あなたの事をただの怠け者だと思っていましたが、あんなもの受けさせられたら仕事なんてしたくないですよね。」
「おお、そうかそうか。だが、お前には早速してもらわなければならない仕事がある。…そう嫌そうなかぉするな。簡単な仕事だ。ほれ、この子に名をつけねばならない。お前が見つけたんだ。お前がつけろ。」
そう言いアヤトが見出した赤子を指す。
「こういうのは、母上が得意そうなのですが。でも、そうですね。私が名付けなくては。そうですね……カインにしましょう。」
そうして、王国の柱と呼ばれた男、ペンノ=ペンドラゴンは当主の座を降り、後に王国の守護者と呼ばれるアヤト=ペンドラゴンが当主の座に着いたのだった。