第十話「集え、戦友たち!」
二人が園前でチケットを買って中に入った後、僕は切り札を取り出した。
「これで」
この遊園地の年間パスだ。
これの良い所は『12歳以下の同伴者の分は無料になる』という点だ。
無論、駒貫ではなくユイナを連れて来たのはこのためだ。
顔パスみたいで気分がいいぜ!
おっと調子に乗るのもいい加減にしないとな。
「ユイナ、お金やるからそこのアイスクリーム屋でソフトクリーム買っていいぞ。僕の分はいいからな」
と言って僕はユイナに500円玉を渡す。
彼女は『わぁい!』と小躍りしながら店のほうへと走り去っていった。
「さあて。ユイナを待ってる間に見失ってしまっちゃ元も子もないからな。そんなときは、これだ」
僕が妹の親代わりを務めているのは周知の通りだ。そして親族の特権として時にこういうものを持つことも許される——そう。
『GPS機能』という文明の利器だ。この機能を使えば僕は携帯から妹が現在どこにいるのかを克明に知ることができるのだ! ふふふ。
ん。
でもこの位置——僕の、家???
ま、まさかっ!?
「ソフトクリーム、美味しいなぁ。あれ、おにーちゃん? どったの? 固まっちゃって」
「あいつ……携帯、家に置いてきてやがる……」
僕はがっくりと項垂れるしかなかった。
駄目だ。相手のほうが一枚上手だったようだ。
妹は僕がGPSを使うことを読んだ上で、連絡の便を犠牲にすることで一日の自由を得たのだっ……!!
「だが、しかしっ!」
僕は自分に活を入れるため、思い切り自分のほっぺを叩いた。
「僕もここ数日、入念に計画を練っていたのだよ、ふふふ。今こそ真の切り札を使うときっ!」
僕の切り札の名は『エマージェンシー・コール』……緊急招集だ。
うん。
普通に携帯で我が戦友に連絡するだけなんだけどね。
「あ、駒貫? 僕だけど、今暇か?」
『何だ何だ? 何か困ったことでもあったのか?生憎今次のエキスパンションに向けてバイトの最中でな』
そうか、と僕は切ろうとしたのだが。
『何か困ったことでもあったのか? っていうか、もしかしてお前今この遊園地に居るんじゃないのか?』
この……遊園地???
「おーい、こっちこっち!」
目の前で手を振っているのは……警備員の制服を着た、駒貫だった。
僕はあまりの奇遇に、ちょっとテンションが高くなってしまった。
「凄い偶然だなぁ。お前の新しいバイト先ってこの遊園地だったのか?」
「まあな。で、困り事っていうのは……ふんふん。妹ちゃんとその友達の居場所が知りたいと?」
「ああ。この遊園地に入ったばっかのとこで見失っちまってな。なんとかならないか?」
「よゆー、よゆー、まじ余裕。俺が巡回がてら捜してみるよ。警備員の先輩方にも声かけてみるから、期待して待ってろよ」
待ってろ、か。
いつもの僕なら、そこで適当に返事を返して、それで『果報は寝て待て』だろう。
けど、今は……!
僕は駒貫の肩をがっちり掴んでいた。
「……できるだけ、早く頼む。妹に、危険が迫ってるかもしれないんだ……!」
僕の態度の変化に驚いたのか、駒貫は一瞬口を開けたまま固まってしまった。
「何があったかは訊かねー。だって時間ねえんだろ? ここは俺を信じろって。親友、だろ? 俺達」
全く。僕の困ったときは、いつもこいつが助けてくれる。
「ありがとな、駒貫! 僕らは僕らで捜してみるっ!」
そう言って僕はユイナを連れて二人を捜索することにしたのだった。
のだったのだが。
「あ~、楽しかったぁ。さっきのコーヒーカップ♪」
「お前、スピード上げすぎなんだよ……おええ。まだ酔いが醒めない……」
これである。
あれからおよそ2時間。
ジェットコースターに始まり、お化け屋敷、観覧車、コーヒーカップ……この遊園地内のアトラクションはほぼ全部制覇したと言っていいだろう。
『せっかく遊園地来たんだから、もっと遊びた~い』
である。またいつものユイナの我がままに付き合わされたのである。
お、携帯がバイブった。駒貫からだ。
「もしもし、僕だ。ふむふむ……何っ!? すぐそこへ向かう! 場所はどこら辺なんだ!?」
どうやら僕の捜し人二人はトラブルに巻き込まれているらしい。
頼むぜ、神様! こんなときだけ都合いいかもしれないけど、間に合ってくれ!
僕の脳裏には『おねーさん』の言っていた、『妹に迫っている危険』という言葉が浮かんでいた。
僕達は人込みをかき分けながら、ひた走った。




