第九話「遊園地へ行こう!」
拝啓、今は亡きおばあ様へ。
僕は今日、ある意味正当であり、ある意味悪いことを妹にしようとしています。
しかし全てはこれから起こるであろう『危険』から妹を守るため。
そのためにはこうして地道に尾行して危険となる障害を兄である僕が取り除いてやるのが一番だと思ったのです。
「何、ぶつぶつ言ってるの? アキラおにーちゃん」
そしてこの子は人足として連れてきた。人手は多いほうがいい。
駒貫を連れてくることも考えたが、高校生男子二人に小学生(?)が一人では周りに不審がられそうなので止めたのだった。
まあこんな仰々しい恰好(二人とも顔はマスクとサングラスで隠している)をしていれば、それだけで怪しまれそうではあるが。
妹達に正体を疑われなければ、それでいいのだ僕は。
尾行開始から10分ほどで叶絵は最寄りの駅……『星蛍駅』に着いた。
日向君は先に来ていたようだ。
「ごっめ~ん、待ったぁ?」
「ううん、今来たとこだよ」
と、いかにもラブラブな空気を振りまく二人。
「じゃあ行こっか」
と、日向君は既に切符を買っていたらしく、叶絵に切符を渡すと改札口を通って中へ入っていった。
「よし、ユイナ隊員。これを渡しておく。切符の代わりだ」
そう言って僕はあらかじめ作っておいたSAICA(電車旅で便利なアレ)をユイナに渡した。
もちろん、僕も自分の分がある。切符を買うとそこからアシがつく恐れがあるからな!
そうして僕達も叶絵達の後を追って駅内に入っていったのだった。
けっこう近くに張ってはいるが、こちらは厳重に変装しているからバレることはないはずだ。
ユイナは服は普段着のワンピースだが、顔は前述の通りサングラスとマスクで覆っているのでパッと見本人だとは分からないだろう。
僕にいたっては変装している上にカムフラージュとしてスポーツ新聞を持参しているほどの徹底ぶりだ。
しかし向こうの二人が何を話しているかはさすがにこの距離じゃ分からないな。
くそう、楽しそうにしやがって。僕なんて女の子とデートしたことなんて一度もないんだぞっ。
中学生のくせに生意気なっ、実にけしからんっ!! ゲフゲフ!
しかし尾行って案外楽しいな……寝不足のせいもあってか頭が凄くハイになってゆくのを感じる……。
「ねー、おねーちゃん達、デートなのぉ?」
いきなりユイナが日向君の袖を引っ張り出した。
( 何をやってるんだ、この子はあああああああッ!!)
僕もさりげなく三人に近寄っていった。
「あはは~、駄目だよぉ、ユイカちゃ~ん。おねーちゃん達の邪魔しちゃあ。向こう行こう、向こう」
そうして僕はユイナの袖を引っ張って二人から少し離れた位置に連れていった。
ユイカとはもちろん、咄嗟に出た偽名である。誤植ではないのであしからず。
(いいか? 尾行っていうのはターゲットにばれちゃ駄目なんだよっ。分かった?)
(ぶー。つまんないなぁ)
(つまらなくても、それがルールなの!)
全く、子供の相手は疲れる……しかし妙だ。
この子の相手をするのは疲れるはずなのに……何故か嫌な気がしない。
そうこうしているうちに電車が到着し、僕達はそれに乗り込んだ。
僕達の今目指している遊園地……『星蛍ポートピアランド』は地元ではちょっと名の知れたデートスポットだ。敷地はそれほど大きくはないが、学生割引や年間パスもあり、小遣いの少ない学生カップルにはありがたい遊園地なのだ。
しかしあの二人……やけに楽しそうに話しているな。
何を話しているのか気にはなるが、あまり近寄ってはバレるかもしれない。ここは慎重に……!
「もしもーし、初めてのデートはどーですかぁ~?」
「だから、近寄るんじゃねええええええっ!!」
僕はユイナの腕を強引に引っ張ると叶絵達からかなり距離をとった。
(ユイナ、何でお前はそう落ち着きがないんだよ! 二人に気づかれたらこの尾行旅も終わりなんだぞ!)
(ぶー。だって電車の中、タイクツなんだもん)
(分かった分かった。じゃあ遊園地に着いたらソフトクリーム買ってやる。だから頼むからあの二人に近づくのは止めてくれ、後生だから)
このヒソヒソ話だけでも周りから見たらかなり不審者だろうな、僕達……。
うわあい! と途端に上機嫌になって飛び跳ねるユイナ。
こいつは人足として機能しているんだろうか? 人選を誤ったかなぁ……。
しかし不思議だ。
この子と一緒に居ると、何故か何でも気兼ねなく話せてしまう。
そんな親近感が、この子には感じられるのだ。
そういえば『夢のおねーさん』もこの子にどことなく雰囲気が似ているような……?
「なあユイナ。お前、お姉さんいるのか?」
「ううんー、いないよ~? ユイナには、おばーちゃんしかいないー。けど去年亡くなっちゃった」
「じゃあ去年までは一緒に暮らしてたのか?」
「ううん。ユイナは10歳のときにシュギョーの旅に出されたから、それからお葬式まで会わなかったよ?」
ああ、そうか。
僕は今までこの子に対して大きな思い違いをしていたのかもしれない。
この子が普段必要以上に明るく振る舞うのは、この子が長旅で培った処世術なのだろう。
普段ああやって荒唐無稽なことばかり言っていれば変な大人も警戒して寄ってこないはずだ。
僕は途端にユイナが可哀想に思えてきた。
「ユイナ、もしよかったら……」
ずっと一緒に、暮らさないか?
そう言いたかったが、車内放送でそれは遮られた。
遊園地のある駅——『星蛍ポートピアランド前』駅に着いたのだ。
「わーい、やっと着いたぁ!」
「あ、こら! 走ったら危ないぞ!」
ユイナは一目散に電車を駆け降りていった。僕も降りなければ。




