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Initialize/ZERO -そして少女は廃都に降り立つ-  作者: ぽんこつ少尉@『転ショタ3巻/コミカライズ3巻発売中』
第一章

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Run――実行⑬




 頭は冷静なのに、心が熱い。血潮が滾る。

 やってやる……。


「ふたりは御苑で武器を探してくれ。ぼくがメタルの動きを止める」


 ああ、ダメだ。鋼鉄の感覚になっているはずの首筋が、またしても疼く。メタルを破壊しろと、頭の奥の方で騒いでいる。

 誰にもわからないだろう。数え切れないほどの死を見つめながら、あの七日間を生き抜いた人間でなければ、こんな感情は。


 だけど、ぼくと接続されたおまえならわかるだろう? なあ、ネイキッド。だから、一緒に行こう。最後まで。


『このバカッ、アンタ何言ってるかわかってんの!?』

『そうだぜ! イツキ! できるわけねえ!』

「――行くぞ、ネイキッドォ!」


 大量の排煙を撒き散らしてキャタピラを動かし、徐々にドレッドノート級が這い出してくる。

 同時にぼくはふたりの制止を振り切ってバーニアを全開まで噴かし、あまりにもちっぽけなタングステンナイフを手に、ネイキッドを最高速度でグライドさせた。


 追ってくる声は、もう聞こえなくなっていた。

 瓦礫を崩したドレッドノート級が、機関砲を二門、こちらに向けるのがわかった。

 一門であればシールドで押し切れるが、二門同時では、そうはいかない。それでもぼくは、速度を落とさない。


 九年前のあの日、ぼくはその瞬間を見ていたから。早見士郎とキャスケットを見ていたから。それが不可能なことではないと、信じられる。まだ希望にすがっていられる。


 行け、行け、行けェーーーーーーーーーーーーっ!


 二方向から連射される鉛弾。ゆっくり、ゆっくりと迫る。ネイキッドの最高速度はさらに遅く、けれどもぼくの意識だけは高速で動いて周囲のすべてを知覚する。

 まるでスローモーションのように。


 命をわける一秒――……。


 無数の鉛弾が眼前に迫ったとき、ぼくは強化された視界をフルに扱い、最初の一発目をかろうじて屈んで躱した。ネイキッドの頭部を掠めて通過したのを確かめることもせず、次々と迫る鉛弾の射線を身をよじって回避し、バーニアにまかせて直進する。


 お・そ・い!


 自分の思考以外のすべてが遅い。

 緩慢な動作でネイキッドは二門目からの鉛弾を肩を掠めさせるようにして躱し、射線下を滑るように最高速度を保ったままドレッドノート級へと向かってグライドする。

 機関砲の方向転換など間に合うはずもない。


 その程度かッ、鉄屑めッ!


 すべての弾丸を回避した瞬間――、


「~~っ!」


 世界の速度が戻る。


「――がぁっ!?」


 同時に凄まじい頭痛に見舞われて視界が歪んだけれど、もうネイキッドの特攻を遮るものは何もない。


 痛みなら精神力で乗り切れる! 目を開けろ!


「うおおおおおおぉぉぉぉぉーーーーーーーーーーーッ!!」


 暴れまわるドレッドノート級の懐へと入り込み、タングステンナイフを、装甲を剥がされて剥き出しとなっていた右側前部のキャタピラへと突き刺し、一気に振り抜いた。

 金属が砕け散る音がしてキャラピラが剥がれ、やつの脚が滑って空転する。


『……なんだ、そりゃ……』


 マサトの声。

 ツキノさんに至っては、息を呑んだだけで言葉もない。


 ぼくは我に返って己のしたことを思い返す。機関砲二門からの攻撃を正面から受けながら直進し、そのすべてを回避した。まるで九年前に見た早見士郎のように。


 高揚する! 力が溢れてくる! 負ける気がしない!


「どうだぁぁぁーーーーーーーーーーーっ!!」


 なおも暴れまわる別のキャタピラへとタングステンナイフを突き刺し、破壊する。


 けれどこんなもの、本当は虚しい時間稼ぎだ。ドレッドノート級はあまりにも巨大すぎる。キャタピラの数など把握しきれないほど存在する。


 メタルは左側のキャタピラをフル回転させてわずかに回頭し、至近距離から二門同時に機関砲をネイキッドへと向けた。


「しまっ――」


 あるいは、マサトが命懸けで倒してくれたビルの重みがなければ、ぼくは死んでいたかもしれない。天川月乃やリサが、ドレッドノート級の大半の攻撃手段を壊してくれていなかったら、やはり死んでいたかもしれない。


 いくらスローに見えても、この距離では物理的に回避は不能なはずだった。


 けれど、みんなのおかげで偶然は重り、必然となった。ドレッドノート級の動きは鈍かったんだ。少なくとも、真っ黒な鉄塊を両腕に抱えてこの場に滑り込んできた空色の装甲人型兵器(ランド・グライド)、ベルベットよりも。


『……んうっ!』


 ベルベットは真っ黒な物体を無造作に四つめのビルの根本へと投げつけてから、体当たりでもするように細身のネイキッドを両腕部で抱え込み、最大までバーニアを噴かしてその場から離脱する。

 一瞬遅れでぼくらを機関砲の鉛弾が追ってきたけれど、ビルの重みに回頭しきれず、砲門は沈黙した。


「リサ!?」

『……ん』


 直後、四つめのビルの直下で、巨大な爆発が起こった。


「うがっ!?」


 あまりに近すぎる位置での閃光と轟音と震動に視界は眩み、ぼくの脳がネイキッドとの感覚器官のリンクを一瞬だけ遮断した。

 意識が暗黒に覆われる。

 だからぼくには、何が起こったのか理解できなかった。


 数秒後にカメラアイが復活して映し出された視界には、唖然として立ち尽くすタランテラとレギンレイヴが映っていた。

 ぼくの命を救ったリサは、こともなく、やはりいつもと同じ調子で呟いた。


『メタルの不発弾、見つけた』


 ベルベットはネイキッドをタランテラやレギンレイヴの側まで運ぶと、ゆっくりと両腕の拘束を解いた。


 ぼくが振り返ってみんなと見たものは、十字路に立っていた四つめの高層ビルがドレッドノート級のメタルを押し潰しながら砕け落ちてゆく瞬間だった。


「ふ、不発弾を運んできて投げたの?」

『ん!』


 いつもより若干誇らしげに、リサが答えた。


 ムチャをする……。途中で爆発したらどうするんだ……。


 倒壊しつつある高層ビルを全身で受けながらも強引に十字路を突破しようとするドレッドノート級が、コンクリートに埋められ、鉄骨に押し潰され、大量の砂煙の中で残った銀色の装甲を次々と剥がされていく。


『よっしゃあッ! へっ、ざまーみろっ! 鉄屑野郎が!』


 マサトが得意気に喚いている。

 戦線を離脱したと思ったら、どうやら戦況がこうなることを見越してビルに仕掛けを作っていたらしい。冷静な判断力と臨機応変には感服する。


 ぼくはネイキッドの鋼鉄の手で、マサトのレギンレイヴの胸を軽く叩いた。


「おまえ、最高だ! 悪巧みの天才だ!」

『だろ? 自分の才能が怖いぜ』


 マサトの立てた作戦とリサの不発弾、そしてぼくの稼いだわずか数秒間が、この場にいる全員の明暗を分けた。もちろん天川月乃がここまでドレッドノート級を弱らせてくれてなければ、あるいは成宮ルルの分析支援がなかったなら、それさえもできなかったけれど。


 このチームは、最高だ!


 震動が収まったとき、ドレッドノート級のメタルからはまだ作動音はしていたものの、いくら這い出そうとキャタピラを回しても、さすがに足場を崩されて総重量50万トンもの重みを受けては大地で空回るばかりだ。


 ツキノさんが長い安堵の息をついた後、あきれたように呟いた。


『ふぅぅ……。よくやった、マサト。アンタきっと、あたしよか作戦指揮に向いてるわ。だいぶ不確かで非常識な作戦だったけどね』

『へへ、この場で戦ってたのは兵器積載量の少ない新入生機がほとんど。弾薬が尽きたときに兵器になるもんっていや、装甲人型兵器(ランド・グライド)本体と高層ビルくらいなもんっしょ。あとは十字路に誘い出して、中央に倒れるように仕掛けをするだけですよ』


 メタルは背中の残った発射口を開くものの、全弾撃ち尽くしたせいでミサイルが飛び出してくる様子はない。機関砲も、今はコンクリートの下敷きだ。おそらくもう、砲身が折れ曲がって使い物にならないだろう。


 ぼくらの勝ちだ。


『つっても、詰めが甘かったぜ~。お姫さんが抜群のタイミングで戻ってきてくれてなきゃ、おれたちゃ揃ってお陀仏でしたからね。ハハハ』

「笑えないよ、それ」

『つーかイツキ、何だよ、さっきの! ミサイルならともかく、機銃を避けるやつなんて特進でだって見ねーぞ! やっぱおまえ、力を隠してただろ。あんなことできるのは、もしかしたら地球上でおまえと早見先生くらいじゃねーの?』

「あ、う、うん。いや、精一杯で何がなんだか自分でもわかんなくて。みんなを死なせたくないし、自分も死にたくないって思ったら……」


 ホントによくおぼえていない。

 おそらくだけど、本来であるならばタブーとされる幼少期の超伝導量子干渉素子インプラント・スクイドの埋め込み手術が関係していると思うけれど。あの頃はまだ、この技術の安全も確立されていなかったから、副作用だろう。


 やたらと首筋が疼く瞬間があって、世界が遅く見える。その後には決まって頭痛が来る。脳に直結する臓器と呼ばれる、超伝導量子干渉素子インプラント・スクイドが原因だとしか思えない。もっとも、確証はないしうまく説明もできそうにないけれど。


 でも、だとしたら、早見士郎の力の源は何だ? もしかして、早見先生の言っていた〝命をわける一秒〟の話は、この現象のことなのだろうか。


 考え込んでいると、レギンレイヴがネイキッドの背中を軽く叩いてきた。


『ま、この際何でもいい。本来なら照れくせえし恥ずかしい話だが、今だけは口に出して言わせてもらうぜ。……偶然からだったが、おれはおまえとチームを組めて良かったって思った。心底な』

「うん。でも、まだまだだ。マサトの作戦とツキノさんの援護と、最後はリサにまで助けられたからね」

『ん。ちゃんと爆発して良かった』


 リサが感情の欠けたしゃべり方で呟くと、彼女以外の全員が同時に笑った。


「ツキノさんも、ありがとう。あなたがいてくれて本当に助かりました」

『ホールね。モンブランとミックスタルト。今回の報酬金が入ったら余裕っしょ』

「……わかってますって……」


 被害状況を考えると、手放しには喜べないけれど。

 それでもぼくは、拳を固めて呟く。


「――まずは一機……っ」


 いつかメタルの世界へ行くことができたなら、ぼくは必ずやつらを滅ぼしてやる! 今日がその第一歩目だ!


楽しんでいただけましたなら、ブクマや評価、ご意見、ご感想などをいただけると幸いです。

今後、作品を作っていく上での糧や参考にしたいと思っております。

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