Run――実行⑪
「リサ!」
『……弾薬、尽きた……っ』
メタルが生命体であるのならば、おそらくはこいつも必死なはずだ。タランテラの活躍によってそのほとんどの射出口を奪われ、無数のアームを振り回すことしかできていない。
それも次々とタランテラに破壊されてはいるけれど、ぼくらにももう、こいつの装甲を破壊するだけの装備は残されちゃいない。
どうすりゃいい……? いや、待て……。
「ツキノさん、北方面にドレッドノート級を誘導する!」
メタルの背中で暴れていたタランテラが、半分に折れた剣でアームを叩き割って、地面へと飛び降りた。そのままグライドに移行し、機関砲の集中砲火を逃れる。
御苑の地面が次々と爆ぜ、タランテラを追うように穴が空いていく。
『っとにもう! どうするつもりなの!?』
「説明してるヒマはありません。マサトの作戦を実行します」
『そんな具体策も示されてないものを! アンタいい加減にしないとホントに死ぬわよ!? あたしがメタルを惹き付けるから、イツキはありったけのハンドガンをかき集めて――』
無視無視。いつもの復讐だ。
どのみちハンドガンなんかでは、装甲の隙間を狙ったところで効果は知れている。
「――リサ、カウントゼロで離れて。ぼくは一瞬遅れで行く。キミは成宮ルルを拾って御苑北方面を経由後、メタルの索敵範囲外に出たら全力で帝高に撤退だ。ベルベットの出力なら、キャンディフロスを抱えていてもメタルに追いつかれることはないはず。それに、一刻も早くルルをキャンディフロスから引き剥がさないと、彼女の脳が保たない」
鋼鉄の肉体は、脳を介して肉の身体にリンクしている。外傷がなくとも、足が壊死することも考えられる。
『……ん。わかった。ルルを置いたら、すぐ戻る。――イツキ、死なない?』
「とーぜん、生きてる」
『ん。了解。カウント3から開始』
3……2……1……!
きっかり三秒後、リサがメタルから手を放して離脱、動かなくなったキャンディフロスをかっ攫うように肩にかついで御苑を北方向へとグライドする。
「……っぐ、ううぅ……!」
とたんにネイキッドへと増す圧力。ギシギシと両腕が軋む。早くしないと、ぼくが腕ごとやられてしまいそうだ。
踏ん張れってくれよ、ネイキッドッ!!
背中のバーニアが赤い翼のように、炎を噴出する。
限界が近いのはわかっている。ネイキッドには、リサのベルベットほどの出力はない。だけど、せめてベルベットが、御苑を出るまでくらいは耐えなければならない。
数秒後、ベルベットの機影が視界から消失する。
「よし、頼むぞ、ネイキッド……っ」
メタルの装甲を蹴ってバックグライドに切り替えた瞬間、猛烈な勢いでメタルがネイキッドに迫った。
……っ、ダメだ! 回避できない……!
衝撃を受ける覚悟を決めたとき、横から飛び込んできたタランテラがネイキッドを押しながらバーニアを噴かした。
一瞬遅れでドレッドノート級が、暴走列車のようにぼくらの真横を通過する。
「た、助かりました」
『いーえー、どーいたしましてっ。言うこと聞かない新入生くんっ』
呼び方が初期状態に戻されている。痛烈な皮肉だ。あとで雷が落ちるに違いない。
『でも、どうやら運がよかったようね。さっきの六基でメタルのミサイルは打ち止めだったみたいよ。機体内には多少残ってるでしょうけれど、簡単に修復できない程度には射出口を壊してやったからね』
メタルが回頭するより早く、ぼくらは高速グライドを始める。クレーターだらけでデコボコになった地面を飛び越えて、炎の上がる植物をなぎ倒し、まっすぐに北のビル街へと向かって機体を滑らせる。
「速度を調節して、付かず離れずで誘導します!」
『はいはい、もう好きにして!』
投げやりな天川月乃の声に、こんな瞬間だったのに、ぼくはわずかに笑えた。何だか命のやりとりが楽しく思えてきた。不思議な感覚だ。
ゴゴゴゴと地鳴りが迫ってくる。ドレッドノート級がぼくらを追跡してきているんだ。燃え残った木々を、営みの消えた建物を、街角のオブジェを、道路標識を、折れた信号機さえ圧し潰して平地へと変化させながら。
『機銃来るわよ! 砲門方向を確認しながら機体を左右に振れ!』
「はいっ」
機関砲の音がする。ぼくらは機体を高速グライドさせながら左右に揺すり、さらに速度を上げた。ネイキッドの左右で地面が次々と爆ぜてゆく。
『落ち着いて回避するのよ。ドレッドノート級はAI性能が低い。行動予測ができないから必ず照準してから撃つ。だから左右に動き続ける限り、この距離なら機銃はほとんど当たらない』
冷や汗が伝うのに、高揚が止まらない。
「はは……ほとんど、ですか」
言ってはみたものの、確かに当たる気がしない。こんなにのろい鉛弾なんて。
『何笑ってんのよ! 焦って操縦をトチらないでよ、イツキ! 遮蔽物の多い場所でこの速度なら大丈夫だから!』
「はいっ」
大丈夫。ドレッドノート級のメタルよりは、装甲人型兵器の方が機動力は上だ。
北のビル街へと飛び出して、さらに一段階速度を上げた。追いつかれたらさすがに終わりだ。装甲人型兵器は建物を回避しながら進まなければならないが、巨大なメタルはそんなことにはお構いなく、直進しながらぼくらを轢き殺そうと追ってくる。
『で、次はどーすんの?』
「マサトに聞いてください!」
数秒間の沈黙。
機関砲の銃弾が撃ち出される音と、アスファルトを砕いて跳弾する物騒な音だけが、辺りに響き渡る。
『ふふ……』
笑った。怖い。かなり怒っていらっしゃる。
黄金色のタランテラが機体を左右に振りながら額に手を当てた。
『ふふ、ふふふ……ふう……』
「すみません!」
『ハ、やっぱりねっ! だと思ったっ、おーもーいーまーしーたーよっ! 無策! いいね! このパープリンコンビ! …………………………アンタら、あとでおぼえてなさいよ!? あたしがダダこねて泣いたら手がつけられないんだからね!』
「……ご勘弁を」
すでに涙声になっていらっしゃった。
引き離しすぎてもダメだ。マサトの元へと、付かず離れず誘導しなければならない。調節は極めて困難だ。
ゴミゴミとした街並みが、ドレッドノート級の巨体によって押し潰されてゆく。
『イツキ、遅えぞ!』
「ごめん、マサト! 手間取った!」
『次の角をツキノさんは左、イツキは右だ!』
この一角はまだあまり崩れちゃいない。
『ああ、もう! 何しようとしてんだかサッパリわかんないけど、了解よ!』
タランテラと並んで、鉛弾で爆ぜてゆくアスファルトの道路をグライドする。やがて十字路を越えた遙か先にハンドガンを構えて立つ、マサトの機体、エメラルドグリーンのレギンレイヴが見えた。
十字路には四つの高層ビル、そしてその直下には半壊した無人の装甲人型兵器が不自然に多く転がっている。
あのバカ、足を止めて何やってんだ!? 標的にされるぞ!
「マサト、ハンドガンなんかじゃ――ッ!」
『黙ってろ……おもしれぇもん見せてやんよ……』
疑問には思ったけれど、ぼくは十字路に突入してネイキッドを右へと曲げた。少し遅れてツキノさんは左に。
「――ッ!」
曲がる瞬間にレギンレイヴが、ハンドガンから四発の銃弾を放った。
ぼくらを追って、街を破壊しながら迫っていたメタルが十字路にさしかかる直前、さらに銃声が数発響いた。
マサトが叫ぶ。
『ハッ、こっちだっ! てめーの相手はおれだ屑鉄野郎!』
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