Run――実行⑨
呼吸が止まる。また少し超伝導量子干渉計が疼いて、頭痛がした。揺らめく炎と陽炎の中を、さらなる炎を生み出しながらドレッドノート級のメタルが這いずってゆく。
天川月乃が叫ぶように吐き捨てた。
『だからあたしに指揮を寄こせって言ったのにッ!! 藤堂正宗めッ!』
天川月乃とタランテラ、リサとベルベットの参戦で徐々に抑え込み始めていたドレッドノート級との戦いは、一瞬にして戦局をひっくり返されてしまった。もはやまともに動いている装甲人型兵器は、数えるほどしかいない。
成宮ルルがかすれた声で、震えながら呟いた。
『まだ……動いている機体があります……。た……、助けなきゃ……』
ドレッドノート級のメタルに、未だに攻撃をしている機体がある。
だけどもうパニック状態だ。グライドすることさえ忘れ、無様に走って逃げ回り、足を止めてハンドガンをデタラメに乱射している。
あれじゃダメだ。装甲の隙間を狙わないと効果はない。
『行くよっ! みんな、援護をお願い!』
タランテラとキャンディフロスが同時に飛び出してゆく。
『多連装ロケット砲装填。ロック――』
ベルベットが飛び出した。高速でグライドしながら、ドレッドノート級の装甲の剥がれた部分を狙って、己に注意を惹き付けるためにありったけの火力を放ってゆく。
次いで飛びだそうとしたぼくに、沈黙を保っていたマサトからの通信が入った。
『いまのでくたばってねえだろうなぁ、イツキィ!』
「マサトか! おまえこそ、良く無事で!」
『戦場にゃいねえからな。ぐだぐだ説明してるヒマはねえ。あのクソメタルを御苑北に誘い出せ! 座標を渡す! 準備完了だ! とびきりの一撃をお見舞いしてやる!』
成宮ルルが通信に割り込む。
『キャンディフロスより全機! 藤堂正宗が撤退指示を出した模様! いえ、待って――ドレッドノート級メタルに再装填音確認! ……目標、わたしたちじゃありません! 背を向けて逃走中の装甲人型兵器のみが全機ロックされていますッ!! こんな、どうしてっ!? こんなの、AIなんかにできる判断じゃないでしょうッ!?』
苛立ちを含んだ、悲鳴のような声。
目の前で装甲人型兵器を操っているのは、彼女のクラスメイトたちだ。
ああ、くそ、また頭が痛い……。超伝導量子干渉計が疼く……。
天川月乃が飛び跳ねてドレッドノート級の背中に乗り、装甲の上からミサイルの射出口へと剣を突き刺し、空けた穴に弾丸を数発撃ち込んで飛び退く。大爆発が起きて、ドレッドノート級がその巨体をわずかに傾けた。
『こっちにやつの注意を惹きつける! あたしは可能な限り砲門を破壊する! ロックされても回避はしないから、リサはあたしの迎撃もお願い!』
叫び、他の射出口にも同じように突き刺して破壊してゆく。
『ベルベット、了解。――ショット』
タランテラへと振り抜かれたアームを、ベルベットが正確に撃ち抜く。
藤堂正宗の真っ赤な機体ディヴァイデッドが、仲間の残骸から奪ったハンドガンでドレッドノート級のカメラアイを破壊した。
あいつ、無傷で生きてやがったのか――ッ!
「おおおおぉぉぉぉーーーーーーーーーーーーーッ!!」
ネイキッドでドレッドノート級の進行方向を変えようと、何度もタングステンナイフを振るって装甲を破壊する。だけど、表面装甲を削っても、内側から見えるのは新たな装甲ばかりだ。
どれだけ剥がせば核とやらが見えるんだ!?
「くそ、止まれ、止まれ止まれ止まれェーーーーーーーーーーーーーーーーッ!!」
キャンディフロスが装甲の割れた部分へと、何度も何度もハンドガンの銃弾を撃ち込む。
『やだやだやだっ、お願い、止まってーーーーーーーーーーーーっ!!』
けれどドレッドノート級のメタルは、逃げ惑う装甲人型兵器へと向けてデタラメに機関砲を掃射し、次々とその動きを奪ってゆく。
悔しいけど、カメラアイを藤堂正宗が壊していなかったら、ミサイル掃射を待たずに全滅していたかもしれない。
『――ッ!? キャンディフロスより全機! だめ、間に合わない! ミサイル二十八基、射出されますッ!!』
成宮ルルの絶望の声。天川月乃とタランテラの力を持ってしても、すべての射出口を破壊することは不可能だったんだ。
メタルの背面から、次々とミサイルが撃ち上げられてゆく。
『ロック、ロックロックロックロックロック――』
リサの声が聞こえる。けれど装甲人型兵器用の多連装ロケット砲は最大で六発。右手の狙撃銃で撃ち抜ける数も知れている。良くて八基撃墜。残り二十名は、……救えない。
『――ショット』
中空でリサの放ったミサイルや弾丸が、メタルの追尾ミサイルを撃墜する。けれど、やはりその数は――、
『……自動小銃装填開始。イツキ、成宮ルル。今射出された二基だけ、落として』
瞬間、ベルベットは手にした狙撃銃を迷うことなく投げ捨て、肩から頭部を覆うように装着されていた多連装ロケット砲をもその場に放棄した。
『ベルベット、全開』
背中から巨大な機関銃を取り出したと思った瞬間、ぼくの視界はベルベットを見失っていた。リミッターをカットしているのはわかっている。けど、もはやそういう問題ですらない。
装甲人型兵器の最高時速が二百キロだなんて誰が決めた?
まるで碧い閃光のように、重りを棄てたベルベットが撤退中の味方機を追ってグライドする。彼らを狙って空を走るミサイルへと、照準を合わせながら。
轟音とともに、南の空が真っ赤に染まった。
リサは、ぼくの想像を超えた。いともあっさりと。
『イツキさん! 二時方向上空!』
「あ、ああ!」
脚部をやられて這いながら撤退しようとしていた味方機へと、メタルの放ったミサイルが迫っている。ネイキッドとキャンディフロスが同時にハンドガンを引き抜き、照準を合わせて何度も銃声を響かせる。
一発、二発――!
あ、あたらない!
「くそ、あたれ、あたれあたれあたれ!」
『わあああぁぁぁーーーーーーーーーーっ!』
どちらが放った弾丸かはわからない。けれどその一発は、着弾まで一秒を切った位置に到達したミサイルの弾頭を、確かに貫いた。
ゴォっとカメラが炎の色に包まれて、ぼくらはその場を離脱する。炎と煙が収まってから視界を戻すと、這いずっていたグレーの装甲人型兵器はまだ無事に動いていた。
「もう一基は!?」
視線を回す。真っ赤な機体ディヴァイデッドがグライドすらせず、手にした短機関銃を空へと向けて立っていた。
ディヴァイデッドの銃弾に貫かれたミサイルが上空で大爆発を巻き起こし、空を赤く染める。
こいつ、やっぱり腕はぼくらより遙かに上だ……! それなのに……!
『……ふん、ゴミクズにしてはやるじゃあないか』
藤堂正宗の声。そうか、指揮を出す機体は確か、すべての周波数に声を送ることができるってツキノさんが言っていた。
「てめ――」
『ちょーっとアンタァ、藤堂正宗! どうしてあたしに指揮権を渡さなかったの!?』
メタルのアームを回避しながら破壊し、タランテラがドレッドノート級の背中から飛び降りて装甲に剣を叩き付けた。
ディヴァイデッドがグライドを始めて、短機関銃でドレッドノート級の、復元されたカメラアイに再度狙いを定める。
『なぜ渡す必要がある? 俺の作戦にミスはなかった。ただ、他のやつらが俺の予想をこえて、使えぬ無能だっただけだ。そのようなやつらは死んで当然だろう? これからも俺の足を引っ張り続けるのだからなァ』
さも当然のように、それも半笑いを含む声で、藤堂が大げさに嘆いた。
今やメタルはタランテラを最大の脅威と捉え、機関砲の集中砲火を浴びせかけている。ぼくはネイキッドを走らせてタランテラを狙ったアームをタングステンナイフで叩き壊し、タランテラと背中合わせに立つ。この人が倒れたら全滅する。
だが、ネイキッドのナイフもタランテラの剣も、もはや刃が欠けてボロボロだ。
『そもそもが、この俺と同格のやつが五人もいたら、この程度のメタルなど造作もなかったはずだ』
この野郎……!
「ふざけんなッ!! そういうのも引っくるめて考えんのが指揮だろッ!! てめぇのせいで何人死んだと思ってやがんだ!」
『ほう、ふは、ふははははっ! その声は貴様、高桜かッ!!』
「だったらどうだってんだ!」
『クズのクセに生きているじゃあないか。今までどこに隠れていたんだ? 脅えて震えて、虫けらのようにビルの隙間にでも挟まっていたか? ああ?』
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