工房の改造
ワイヤーアートとは、その名の通り、ワイヤーを自在に曲げることで形を作っていくものである。基本的に必要なのはワイヤー、ペンチ、ニッパーだけ。ワイヤーに通すビーズは既に持っている。
「ポイント引き換え、ワイヤーセット」
工房の中でそう告げれば、壁面に確認画面が表示される。同意すれば、工房スキルポイントが消費され、代わりに、目の前に金と銀のワイヤーが入った箱が現れた。
「……保管用の箱も付いてる」
ちょっとサービスしてくれたらしい。元の世界でもよく使っていたワイヤーが、色と太さごとに綺麗に並べられている。
「すごい。かなりの種類がある」
ワイヤーの太さは数字で表されることが多い。数字が大きいほど細くなるのだが、作ったことがあるワイヤーアートで最も太いものから、細いものまで揃っている。
「作るものは、ピアスかな。飾り部分をどうするかだけど……」
耳飾りの歴史は古く、世界が違うこの国でもピアスをつける文化はある。魔法が発達しているおかげで消毒もでき、かなり安全にピアスホールを開けられるらしい。私は開けていないけれど。
「ワイヤーアートならではの飾りとなると……」
ワイヤーが複雑に絡まって出来る形の方がいい。ビーズ部分が目立つのではなく、どちらも主役になるようなもの。
「小枝ピアス」
ワイヤーを木の枝に、ビーズを葉や花に見立てて、まるで小さな木のような飾りになるので、小枝のアクセサリー、と呼ばれることが多い。今回はシンプルに、ビーズは一色で作ることにする。
「……取り敢えず、緑かな」
金色の、かなり細めのワイヤーを取り出し、ペンチで適当な長さに切る。次に、緑色のビーズを一つ、切ったワイヤーの中央まで通し、ワイヤーを少し離して交差させる。
「ペンチ……」
交差させた場所をペンチで固定しておいて、片手でビーズの部分を持ち、ワイヤーをねじる。ねじりすぎるとワイヤーが切れるので注意が必要である。
「……このくらいかな」
ねじり終わると、ビーズと、少し離れて2本のワイヤーがある形になる。最初のビーズを木の頂点に見立て、ここから段々と幅が広くなるように作る。
「次のビーズ」
ワイヤーの片方に次のビーズを通して、分岐する枝を作る。1本でどうやってねじるのかというと、ワイヤーを折り、折った中央付近にビーズを持ってきて、分岐した地点までねじるのだ。
「同じ長さ……」
反対側も同じくらいの長さになるように調整し、段々と枝が広がっていくようにする。途中でビーズの色や大きさを変えても変化があって面白いのだが、今回は最後まで同じビーズで作る。
「5段くらいあればいいかな」
枝を次々と生やしていけば、かなり大きいものもできるが、今回は小さめのもので良いだろう。必要なだけ枝を作って、残りのワイヤーをねじり、一本にする。
「丸ペンチ……」
最後は、丸ペンチで金具を通すための部分を作り、残りのワイヤーは輪の根元に数回巻きつけ、めがね留めをしてから残りのワイヤーをニッパーで切る。
「もう1セット作ったら完成」
左右で同じものを作り、先程作った輪に丸カンを付けて、ピアスパーツと繋げれば完成である。
「安全第一、だよね」
ピアス部分もワイヤーで作ること自体は可能だが、もしものことがあってはいけないので、ポイントと引き換えて既成のパーツを使うことにした。
「緑の金の小枝ピアス、完成」
金色のワイヤーの枝に、深い緑色のビーズが映えて、シンプルだが可愛いピアスである。自分でも満足できる出来栄えに頷いていると、壁に文字列が追加され始めた。
『アイテム:小枝ピアス 製作完了』
『【工房】スキルポイント 50獲得』
『【ワイヤー】技能ポイント 50獲得』
ワイヤーとビーズを使っていても、メインとなった技能の方にポイントが入るようだ。小枝ピアスは、枝の段数に応じてポイントが増える、と下に小さく書いてあるので、今度は大きめのものを作ってみよう。
「……それにしても、機能、追加されてる?」
編み物で花を作っている時は、表示されるポイントと作ったものを見比べてポイント計算をしていたが、それが自動で表示されるようになっている。
「…………便利になってるなら良いか」
そろそろ寝よう、とちゃぶ台に手をついて立ち上がりかけたその時だった。がくん、と体勢が崩れ、床に倒れ込んだ。
「あ、足が……」
足の感覚がない。かと思えば、ビリビリとした感覚が膝より下に走っていく。そう、足が痺れたのだ。
「……た、立てない」
壁の方を向いたまま、床を転がる。畳なので寝転がることに抵抗はないが、足が痺れるとかなり辛い。最近、正座をする機会は工房でしかないのも原因か。
「…………椅子にしよう」
ポイント引き換えの中に、工房の設備追加があったはず。最初に見た時にはポイントがなくて諦めていたが、今は余裕がある。これを機に机と椅子に変えよう。
「机は50ポイント、椅子は40ポイントでかなり良いものにできるのか……」
ついでに、2畳しかなかった工房自体も広くしよう。5000ポイントいるが、思い切って使うことにする。後は、物が増えてきたので収納棚も欲しい。
「引き換え!!」
そう宣言すると、一瞬で部屋が真っ白な光に包まれる。光が収まり、ゆっくりと目を開けると、足元の畳が2枚から4枚に増えており、更には壁収納までできていた。
次回更新は5月1日17時予定です。