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教室の意義

 ビジネスチャンスがあるのならば、それを活かさない手はないだろう。ジュディさんの話を聞いてから、手芸教室について私は真剣に考えていた。

「……単純に、子供たちが編み物に触れる機会を作ることって重要だよね」

 まだ、この国の風習などについて詳しいとは言えないが、親から子に作り方を教える文化があるのなら、女の子は出来た方が良い事なのだろう。ならば、親の事情で教える時間が取れないのならお金を払ってでも技能を身に着けさせたい、身に着けたいという人はいると思う。

「でも、今迄教会では無償で教えて貰っていたことでお金を取るのはな……」

 営業時間を削る以上、稼ぎを確保するためには講習料を取った方が良い。でも、金銭的に余裕のない家の子には教えない、というのは少々良心が痛む。偽善だと思われるかもしれないが、自分の近くの人の役に立つくらいのことはしたい。

「取り敢えず、去年まではどうやって教わっていたか、聞きに行こうかな」

 一番現実的な案は、教会で教わる程度の内容は無料で教えるという事だ。この時に、無料にするのは教会に来る年頃の子供たちだけにして、技術の復習などの為に来る大人からは講習料を取る。

「毛糸を自分で用意して貰ったら、私が出費せずに済むよね」

 作るものにもよるが、子供たちの毛糸代を出すのは少々厳しい。それに、ジュディさんの話を聞く限り各家庭に編み物の為の基本的な道具と糸くらいはありそうなので、多分大丈夫だろう。

「マフラー、ストールならクリップ、帽子ならブローチピンで追加装飾もできることを宣伝すれば、私の店の近隣の店も商品の幅が広がるかな」

 ストールクリップはシンプルなベルト系のものもいいが、間にビーズが入っているデザインでも華やかになって良い。ブローチは、ビーズ系、刺繍、レジン、編み物等、沢山の作り方がある。ブローチと一括りに言っても、それぞれ特色があって美しいのだ。

「余裕があったら作っておこうかな」

一応、次の休みに教会と他の店を回って、手芸教室の開催についての意見を聞きに行っておこう。その際にブローチやクリップの宣伝効果についても説明すれば、了承して貰えるだろう。そう考えている時だった。

「しまった……」

 次の休みの日は、カフェが休みの日。つまり、ランバート様が来ると言っていた日なのだった。自分から聞いておいて忘れかけていた。

「……とはいえ、そんなに時間はかからないかな」

 プリンターの改善案などを話すくらいだろう。その後に教会に行けばいいか、と自分自身を納得させる。次の休みに作業をしなくてもいいように、注文の品を早めに作っておこう。

「【工房】」

 工房に入ってすぐ、今日の手芸教室でのポイントを確認していなかったことを思い出し、壁を見る。今回は手芸教室という形だったが、組紐ジャンルでの初の依頼達成ボーナスが入るはずである。

『【組紐】初回講習ボーナス獲得達成』

『【工房】スキルポイント100獲得』

『【組紐】技能ポイント100獲得』

 どうやら、手芸教室を開くと今迄とは別の方式でポイントが加算されるようだ。貝殻のペンダントの時も作り方を教えたのに講習と数えられていないのは、元々は製作依頼だったからか、不特定多数に向けた教室ではなかったからなのか。

『イベント:三つ編み組紐教室 完了』

『【工房】スキルポイント250獲得』

『【組紐】技能ポイント250獲得』

「に、にひゃくごじゅう?本当に?」

 初回ボーナスの他に、普通にポイントも貰えたことは嬉しい。のだが、今迄に見たこともないポイントを貰って、一瞬理解が追い付かなかった。組紐は一つ作ると10ポイント。今回は、五人に教えたから5倍して50ポイントになるとして、何故更に5倍されているのか。

「自分が教えて、他人が達成することでポイントが高くなるってことかな」

 人に教える、ということは自分が完全に理解していないとできないことである。また、理解していても、人が理解できるように説明することは難しい。その辺りの難しさを考慮してポイントが付けられているのかもしれない。

「……教えられる技能があるなら、教えた方が得ではあるのか」

 普通に材料を仕入れに行ってもいいのだが、一応、私は王宮から脱走している身である。あまり外を歩き回らない方が良い。それに、工房では基本的なパーツ等は一度獲得すると無限に出てくる仕組みだ。工房で毛糸を買えば、お金の節約もできる。

「なにより、自分で作る楽しさを知ってもらえる」

 今日、子供たちの様子を見て思ったことだ。材料を選んで、一生懸命作って、完成した時の達成感と喜び。一人で作った時にはない、苦労や喜びの共有。それは、かけがえのないものだろうし、貴重な機会だろう。

「……編み物キットは1000ポイント」

 取り敢えず、編み物の基本キットを購入することを目標に頑張ろう。先程の、トッド君とターシャちゃんの笑顔を思い出しながら、刺繍糸を手に取ったのだった。


次回更新は3月11日17時予定です。

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