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三つ編みミサンガ

 ちらり、と店の入り口を見る。手芸教室を開くにあたり、自由に見学できます、との張り紙をしておいたのだ。とはいえ、外から中を覗く人はいても、店内に入ってまで見学をする人は中々いないようだ。

「アユム~」

「みんなえらべたよ」

終わる頃には興味を持って中に入ってくる人がいると良いけれど、と思いつつ、子供たちに向き合って説明を再開する。

「では、選んだ三本の糸を束ねます」

 適当に三色の糸を選び、揃えて一つ結びをする。一つ結びにはなじみがあったのか、全員自分で結ぶことができた。確認をしたが、あまりにも長さがズレている子もいないので大丈夫だろう。

「ここからが三つ編みです。最初に、三本が並ぶように置きます」

 そして、重石をのせる。子供たちが手を挟まないように気を付けつつ、しっかりと固定で来ていることを確認する。きちんと固定できているか確認しないと、途中で解ける可能性もあるので要注意だ。

「一番右の糸束を持って、真ん中の束の上になるように交差させます」

「できた!!」

「つぎは?」

「みんな上手だね。次は、一番左の糸束を持って、真ん中の束の上になるように交差させます」

 最初の動きは良かったのだが、此処で子供たちの行動に、かなり差が出た。三つ編みを知っているからか、トッド君とターシャちゃん、そして昨日初めて見た女の子はすぐに理解して正しい順序で交差させた。しかし、残りの二人にとっては難しいようだ。

「まんなかって、さっきのまんなか?」

「それとも、いまのまんなか?」

「今の真ん中だよ。君の場合は青い糸の上を通って緑の糸を交差させる。君は赤の上に白」

「「そっか」」

 そう、左右、中央という言い方をすると、どんどん糸が入れ替わっていくので理解が難しいのである。幸い、三色とも違う色を選んでいたので、糸の色で説明をすると理解してくれたが、次までには上手い説明を考えておきたい。

「アユム、つぎは?」

「同じ作業を繰り返すよ。今度は一番右の糸束を持って、真ん中の束の上に交差させる」

「みぎからまんなか、ひだりからまんなか?」

「おねえちゃんのかみのけといっしょ?」

「そうだね。ソニアちゃんの髪の毛の結び方と一緒だよ」

 すると、トッド君とターシャちゃんは簡単だ、とでも言うようにすいすいと手を動かし始めた。順番を理解しているようなら、子供の方が細かい作業が得意だったりするので大丈夫だろう。

「……おしえてください」

「はい。じゃあ次は、この糸を持って」

 二人の様にスムーズにはいかなくても、他の子たちも見様見真似でやってみたり、私に聞いて来たりして徐々に作業を進めていく。何度か教えているうちに、段々と理解できてきたようで、残り半分を過ぎた頃には全員自力で三つ編みができるようになっていた。

「……私が教える必要は無くなったかな」

 五人の様子を見守りつつ、説明のために選んだ糸で三つ編みを始める。慣れているので手元は見ずとも平気だ。そういえば、と再び店の入り口を見ていると、丁度中を覗いていた女の子と目が合った。

「…………見学されていきますか?」

 ソニアちゃんより少し年上、15かそこらと言った所だろう。できる限り優しい笑顔を浮かべて尋ねると、少しだけ視線を彷徨わせた後、小さく頷いた。子供たちが作業しているスペースの近くに椅子を準備すると、女の子はおずおずとそこに座った。

「好きなように見学されてください」

「ありがとうございます……」

 一人見学している人がいれば、他の人も中に入りやすいだろう。もう何脚か椅子を準備しておこうか、とカウンターの方に戻ろうとしたら、丁度横を通ったタイミングで呼び止められた。

「せんせー、じゅんばん、わからなくなりました」

「すぐ行くね」

「アユム、さいごってどうするの?」

「早いね?ちょっと待って、最後は皆で一緒にやろうか」

 仕方がないが、進度に差が出てしまっている。二回目以降、手芸教室を開くとしたら人によって進み方に差が出ることへの対処法も課題になるだろう。取り敢えず、今日はまだ終わっていない子の手が止まったら手を貸せるように見ておくようにする。

「できた!」

「できたね」

「やったねぇ」

「ぼくのほうがはやかった」

「きれいなほうがだいじだよ」

 最後の一人が三つ編みを終わると、待っていた子供たちは文句を言うでもなく、自分の事のように喜んだ。一部、張り合っている発言もあるが、まあ喧嘩にならない程度ならいいだろう。

「では、最後の説明をします」

「「「はい!!」」」

「最後は、最初と同じように一つ結びをして、紐の長さを揃えて切ったら完成です」

 片側に輪を作り、長さを調整できるようにしておく方法もあるが、今回は極力単純な作りの方が良いだろう。今迄編んだ三つ編み部分を崩さないように気を付けながら、それぞれ一つ結びをした。

「出来たら私の所に来てください。鋏があります」

 危ないので鋏は私が見ている時に、一人ずつ使わせることにしておいた。お行儀よく列を作って並び、順番に長さを整え、完成である。

「これで完成です」

「「「ありがとうございました!!」」」

「はい。気を付けて帰ってね」

 ぺこり、と丁寧に頭を下げて、子供たちは出来たばかりの紐を大切そうに持って帰って行った。やり切った。達成感に包まれつつ、片づけをしようと視線を挙げると、そこには、予想以上の数の見学者が立っていたのであった。


次回更新は3月9日17時予定です。

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