アイデア
アレクサンダー殿下が大会に出ると言う噂が公然の事実として扱われるようになった頃、恒例の図書室勉強会でセヴァラスが何やら紙を出してきた。
「この理論とシステムで行けると思う」
提示されたのは郵便システムのようだった。郵便を送る箱と受け取る箱にそれぞれ対の宝石を埋め込み、決まった時間に箱に魔力をこめて中の手紙を送るらしい。
「箱は王宮内や宿屋の中のような常時人がいる場所に設置して、夜は使用できないようにすればトラブルは避けられるだろう。心配な場合は送るのを目で確認すれば良い。金を多めに払えば即時送れるシステムを作っても面白いだろう」
『すごい! セヴァラス』
「まぁ机上の空論だけどな。試作を作るための魔宝石が手に入らない」
あぁ、そう言えばそうか。魔宝石って結構高価なんだよね。それに新しい作品を作ろうとしたら数も沢山欲しいだろう。こんな思いつきで沢山使うような財力はない。
『あ、待って。閃いた』
「なんだ、またろくでもない事だろう」
『もうちょっと優しくしてくれても良くない?』
実を言うと、来週私は密かに村に帰って両親の魔法の属性を確かめる予定だ。既に王宮から使いが来て、私の両親と叔父の魔力があるか確認したらしい。結果私の両親は何らかの魔力があることが分かったのだ。
光の魔法である可能性も極めて高いと期待されているらしい。スミス先生など、他の属性の魔法の使い手も一緒に行き一度にすべての属性を調べるらしいので、国を挙げての取り組みなのかもしれない。
来週には王国から使いが来て、私の両親とは別の村にいる叔父も魔力の検査をする予定なんだよね。今後平民の魔力検査をやるはずだし光の魔法チェックは私にしか出来ない訳だから、何か報酬がもらえるはず。王様に魔宝石くれないか交渉してみよう。
前回兵士の傷を治しただけでイヤーカフ貰えたし、まぁあれは保健室の手伝いをするためって言うのもあるけど。
来年以降は平民でも魔法学校に入学する年の子は調べる、みたいなことをするのかな?
人数にもよるけど、魔力持ちの平民を全員奨学金で学校に入れていたらお金が持たない気がする。
『まぁちょっと心当たりに頼んでみるから、まぁ期待薄かもだけど』
「……相手に借りを作ることになるかもしれないと分かっているのか?」
あれ、私もしかして心配されてる? と言うかこれ多分アレクサンダーかジョシュアに頼むと思われてるな。
『心配してくれてありがとう。だけど大丈夫。光の魔法を使って欲しいって頼まれている事があって、結構大変な仕事って感じだからそのお礼を考えといてって言われてるの。お金って頼むのも嫌だったし、新しい魔導具のための魔宝石って言ったらむしろ喜んでくれる人だと思うから』
国王だったら国がより発展するのは喜ぶはずだから大丈夫だよね。うん、嘘は言ってない。
「……無茶をするなよ。君は少しの言動も注視されているんだ」
『優しいね』
「巻き込まれたくないだけだ」
セヴァラスは本当に優しいなぁ。彼の能力が認められるんだったら、ちょっとくらい国王陛下に目を付けられても良いかなぁ。どうせもう目を付けられてるし。セヴァラスが国にとって有用かつ私と親しいってアピールが出来る方が大きいんじゃないかな。
『セヴァラスが国に有用だって分かったらプライス家も何とかしてもらえるかも知れないし』
「そう上手く行くかは分からないが、僕個人が生きていくのには助かる。……ありがとう」
セヴァラスは謙遜しているけど、転生している私から言わせればこの郵便システムは採用されるのが目に見えている。電気も車もないこの世界で、こんな画期的な郵便システムが重宝されない訳がない。
その開発者になれば絶対に蔑ろには出来ないだろう。しかも開発に協力したのが光の魔法使いなのだから、国王陛下は絶対に無視出来ないはずだ。
だけどそれを今セヴァラスに言う訳にもいかないしな。
「君はどの魔法を使うか決めているのか?」
『まぁ誰かに怪我させるわけにもいかないし、明かりの魔法かなぁ。あれ便利だから夜たくさん使ってるうちにどんどん自分で調節出来る様になったんだよね』
「まぁどんな魔法だろうが光の魔法だと分かれば優勝だろうな」
別に優勝しなくても良いんだけどなぁ……。
そんなん私と同じ学年の子は可哀想じゃないか。一回優勝した人は同じ競技に出るのは禁止にすれば良いのに。
「まぁとにかく、僕は箱の大きさや設置場所、システムについてもっと詰めて考えてみる。魔宝石があればすぐに実験出来る所まで用意すれば、アイデアだけでも買ってくれる魔導具師がいるかもしれないしな」
『うん、それでも良いよね。そしたらセヴァラス、そこに弟子入りしちゃうっていうのも良いんじゃないかな』
「魔導具師になるのが確定なら理想的だが、領地がどうなるか分からないと難しいだろうな」
それは確かに。プライス家の領地がどうなるのか宙ぶらりんなのは未来そのものが宙ぶらりんにされてるってことだもんね。
没収なら没収って言ってくれればどこかに婿入りするとかセヴァラスもやりようがあるだろうに。
『そうだね、セヴァラスが私の婿に来るっていう可能性もあるもんね!』
「……滅多なことを言うな。どんな噂が君にとってマイナスになるか分からない」
『いや、私はセヴァラスが婿に来てくれるなら嬉しいけど。光の魔法が使える限り生活には困らないだろうしさ。領地貰ったらセヴァラスに管理任せられるし』
私そういうの分かんないからさ、と笑うと彼は苦笑いした。
「平民は皆そうなのか? 贅沢がしたいとか、出世したいとか、王族入りしたいとか……。とくに王族2人は同年代だしハンサムだろう」
『前にも言ったけど王族はマナーとかしがらみとか面倒くさいから私には無理だよ。もう生まれた時からの意識が違うんだもん。特に王妃教育は出来る気がしないし、約束されていたその地位を奪う気もない』
贅沢もなぁ……。転生しているせいもあるけど、この世界の贅沢ってどうもピンと来ないんだよね。出世だって、光の魔法が使えたらもうあんまり出世しようがないじゃんか。周りに比較対象がいないんだから。
「アレクサンダー殿下は……君に興味があるようだ」
『あぁ、私の事を自分の天使みたいに思ってるらしいね。だけどそれで結婚相手みたいに扱われたらたまんないよ。こちとら平民ですから』
「愛妾になりたくて必死な人間もいるんだぞ?」
『じゃあセヴァラスが愛妾になれば?』
うーわ。そんな目で人の事見るもんじゃないよ。
私仮にもヒロインだよ? それでなくても光魔法の使い手だよ?
まぁそういうところが好きなんだけど。




