8話
『誰か、なんとかしてくれ』
『オレがいるぞ』
オレとスグルは久しぶりに話をした。
「シュウ。お前まだいたのか?」
「いるさ、消えちゃいない」
「なぁ俺、どうしたら、俺の……」
「みなまで言うな。状況は全部わかってる。解決法もな」
「嘘だろ。こんなんどうやって」
「明日はオレが学校に行く。お前は休んでいろ。席……代わるぞ」
「全員逃げるな」
オレの真言がバカガキ共の耳に入る。
「逃げるだァ? これから逃げたくなるのはお前のほうだ」
「お前メンチきったんだ、ダダで済むと思うなよ。今日は徹底的にやってやる。いや、今日だけじゃないぞ。これからは今までが天国だったって思うほどの地獄をみせてやる」
「いや、今日で終わりだ」
まず一人目、オレの背後にいたゴミの頭を掴む。
「はなしやが……」
言い終わる前に意識をうしなって倒れる。
「何しやがった!」
「え? え?!」
慌てふためくクソ共、オレはゆっくりと歩く。誰からでもいいが、リーダー格のスポーツ刈りだけは最後にするため、奴の横を通り過ぎ、次のガキの頭に触る。
「触るなぁぁぁ」
必死にオレの腕から逃れようと、手を振り回して腕をはじく。
「動くな」
二回目の真言。この世界じゃ催眠とかマインドコントロールって言うらしい。あっちと違って多少は科学的に解明されているようだ。
動けなくなった二人目は無抵抗に頭を掴まれ、一人目と同じように昏倒した。
三人目、四人目。
どいつもギャーギャーうるさいったらありゃしない。お前らがスグルにしたことに比べたらオレは大したことをしていない。
「なにをしたぁ!!」
たまらず叫ぶクソザル。お前で五だ。
「なぁに、ちょっと夢を見てもらっているだけだ。健康に被害はないし、一時間もしれば起きる。多少人間がマシになるボーナスつきだ。うれしいだろ?」
いい気分だ。思わず顔がゆるんでしまう。
「誰かー助けてー助けてくれー」
逃げるという発想がすっぽり抜け落ち、オレの右手が迫ってきても動くという司令を脳が発しない最後の一人、なるほど助けを呼ぶというのはいい手だ。だが無理だ。
スグルがどんな目にあっても誰も助けに来なかった。
ここでは弱者を助けようとする者はいない。そんなことをすれば強者の牙が自分に向きかねないからだ。どこでもいっしょだ。
「黙れ……。どうせ忘れる貴様に説明してやる。わからないほうが怖いと意見もあるだろうが、オレは逆だと思ってな。一定の情報はより恐怖を引き立てる」
口も聞けなくなった奴はブルブル震えながら耳を塞ぐことも出来ない。よだれと涙と鼻水をたらしながら、みっともない姿をさらしている。
「これは邪法という。神の摂理、自然の摂理に叛く術だ。と言ってもちゃんと理屈や理論はあるのだが、あーまぁ専門的な解説は省こう。人の体には電気が流れていることは知っているか? 筋肉が動くのも脳の活動も全て微弱な電気が支配している。あとはわかるな? オレはな、手で頭部に触れることで相手の記憶や人格を書き換えることが出来る。脳に刻まれた命令ってのは絶対だ。脳が自分で自分の首を絞めるって司令を出せば腕は逆らいようがない。これからするのはつまりそういうことだ。生まれ変わるがいい」
恐怖が限界を超えたのだろう。
白目を向いて立ったまま気絶した。
「生まれ変われ。少しはマシな人間にしてやる」
次の日、邪法を施された六名は出席してこなかった。無断欠席ではない。各々ちゃんと学校に連絡をしている。欠席の理由はこうだ。
「今まで私は、色柄優君をイジメていました。反省しています。もうイジメはしません。そして私を見るとスグル君が嫌なことを思い出すでしょうから学校を休学します」
全員が全員同じ理由の述べ、学校を休んだ。イジメを黙殺していた学校側としても本人達が言い出したのだから認めざる得ないだろう。
だがしかし。
「センセー。高岸君達が一斉に休んでますけど何かあったんですか?」
朝のホームルームの時間。昨日の六人の内、四人は同じクラス。当然の疑問をクラスメートが先生に投げかける。
「高岸達は、あー体調不良だ。そろいもそろって夏風邪だろう」
茶化したように担任が言う。
わっと笑いが起きる教室。「バカは風引かないって言うだろ」「いやいやバカは夏風邪引くんだよ」
誰もが好き勝手なことを言う。
は?
昨日スグルは眠ってはいたが、事のあらましは伝えてある。
『シュウ、これは成功とみていいのかな』
『昨日も話したが、少なくとももう、あいつ等がちょっかいを出してくることは二度とない、お前は嫌がるだろうが学校側が問題をおおやけにしてくれるのがオレとしては良いと思ったが。どうやらそれはなさそうだ』
『うん。俺としては、そのほうがいい。そっとしておいてくれれば』
スグルはそう言った。
何もないのならば、オレもそれでいい。何もなければ、な。




