7話『邪法』
あくる日、オレは初めてレイと手を繋いだ。
「おにいちゃん?」
オレがスグルではないことに気づいたのだろうか?
丸い万華鏡のような瞳でレイが見つめてくる。
「大丈夫だよ」
極力スグルと同じ言い方をする。黄色い帽子ごしにレイの頭を撫でてやる。
「いこうか」
「うん!」
レイが手を強く握り返してくる。手が小さい。スグルが戦ったあの日を思い出す。闘った日々を思い出す。
スグルの父の眼を思い出す。スグルの母の背中を思い出す。
オレは泣かない。泣いてはいけない。まだ職業として医者をやるより前。まだ前世の若い頃、敵国の少年兵を殺した日々を思い出す。城壁を越え、女も子供も分けへだてなく焼いたあの日を思い出す。
オレに涙を流す資格などない。オレに誰かを守る資格などない。
そうこれはただのウサ晴らしだ。
宿主がぐっすり休んでいる間、久しぶりにシャバに出られたからな。ちょっと暴れる。それだけだ。
登校したオレは姿勢を伸ばして授業を聞いた。最近スグルは机と仲良しだからな、少しは担任からの心証を良くしておこう。でも手は上げない。
休み時間。オレは飯も食わずに席を離れた。
離れる前、すこし大げさに机を叩き、注目を集める。
あああいつだ。スポーツ刈りのガキと目が合う。
きっちりと目を合わせてからオレはゆっくり歩き出す。下に降りて、靴を履き替え、教室から見える中庭を通って校舎の側面。日陰で待つ。
ここは滅多に人が来ない。
オレは一人だ。さあ来い。
「おいS級犯罪者! ここはお前のようなゴミは立ち入り禁止だぁ」
「いち、にい、さん、し……」
バカが群れをなして集まってきた。
知っている顔を数える。いつものメンツだ。数は増減するがこいつらは複数いないと何もしてこない。学校内ですれ違っても単独の時はこっちが一人でも何もしてこない。精々何かを言っていくだけだ。
……五。
よしよし。中核メンバーは全員そろっている。
「六人か」
「無視すんじゃねぇ!!」
地面を蹴り上げて一人が砂をかけようとする。昨日ふった雨のせいで湿り気を帯びている砂、というより土はオレまで届かない。
「全員逃げるな」
オレは邪法を発動させる。手早く済ませよう。必要なことだけ速やかに。




