十、ゲーム対決
「和葉ちゃーん。ゲームしようよ~」
「あと一枚だから、待ってて」
「え~! 遊ぼうよ、和葉ちゃん」
「私が来なかったら、紘斗君、宿題しないでしょ?」
「そうだけどさー。せっかくの夏休みなんですよ? 彼女~」
扇風機だけが、涼しい風を運ぶ俺の部屋で、宿題である数学のプリントと、格闘中。
優等生な和葉ちゃんには、手緩い相手ですよ? 俺には強敵過ぎるんだよ。
早くゲームして、この数学のプリントから逃れたい。
「紘斗君。やっぱり、ゲームしよっか」
おお?!
「いいの? 和葉ちゃんは終わったの?」
「うん。あとは帰ってからやる。紘斗君とゲーム対決したい」
「俺も、和葉ちゃんと対決したい! 今、準備するから、待ってて」
***
「うおりゃあ! いっけー!」
「少し落ち着きなよ。まだ生き返れるでしょ」
「あと一回落ちたら、俺の負けじゃん! あぁ……」
テレビにSw○tchを接続して、俺の部屋で大乱闘。
それにしても、和葉ちゃん強すぎ! 全然勝てる気がしない!
「和葉ちゃん、なんでそんなに強いの?!」
「やり込んだからね。ほら、手ぇ止めてると落とすよ」
「ひどいよぉ~」
それから五戦したけれど、俺は一度も勝てて……。
「紘斗! いるか!」
兄貴だ。
でもなんで、こんな時間に、兄貴が戻ってきてるんだ?
今は仕事中のはずだし、なんであんなに慌てているんだろう。
「紘斗! 晶楽が!」
相変わらず、ノックはしない。
まぁ、今はドアを開けているから、ノックが出来ないのは許そう。
「晶楽君がどうかしたの?」
「あぁ。それはそうと、その子は誰だ? もしかして、和葉ちゃんだっけ?」
「そうだけど」
慌てていたのに、和葉ちゃんを見て落ち着いた様子。
「お邪魔してます」
「いえいえ。ごゆっくり~」
「それで、お兄さん。晶楽君がどうかしたんですか?」
この一言に、兄貴は真剣な表情を見せた。
「落ち着いて、聞いてくれるか?」
「うん。その前に、仕事は? どうしたんだよ」
「もうお昼を過ぎただろ。有給を取った」
「そんなに大事な話なのか?」
いい加減話してくれ。俺も和葉ちゃんも、待ちくたびれたぞ。
廊下と俺の部屋の間に立つ兄貴は、口ごもって、中々話してくれない。
「午前中に、水希から連絡があって。晶楽が、ひき逃げに遭ったらしい。しかも、意識不明の重体だそうだ」
この一言に、俺も和葉ちゃんも、表情が強張り、声を発することが出来なかった。
信じられない。
もうすぐ東名阪で夏ツアーが行われる。
俺たちは、チケットが取れなくて自宅待機するけれど、参加するファンは少なくない。
「水希君は、大丈夫なんですか?」
「水希なら、ツアーが始まる前日にアップする動画の、チェックをする為に、家に籠ってたんだ。だから大丈夫」
「KiRaってさ、二人でシェアルームしてるんだよな?」
「あぁ。水希が籠ってて、晶楽はスタッフ数人と、ライブの最終確認を、マンションの近くのファミレスで行う予定だった。そこに向かう途中に……」
「ライブ、どうなんのかな」
「晶楽のことは、まだ内密なんだ。水希は、『KiRaの関係者』にしか、連絡してない。公式サイトでの発表を待つしかないだろう」
今、俺たちに出来ることは、晶楽君の意識が戻ってくれることを願うだけ。




