外に出たいよ!ヴィルヘルムくん!
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気がつけばヴィルヘルムくんも連載一年経過というまさかの自体。
ん?あれ?全然話進んでなくね?と今更ながら焦ったのはいい思い出です。
今後ともゆっくりではありますが更新して行きますので、よろしければブックマーク登録、評価、感想などお待ちしております!
ハッと息を呑んだヴィルヘルムくんは、これまでにないくらいに真剣な表情を浮かべて私を見つめる。
箱庭から出る。
それも箱庭の主から許可を得ずに。
龍神をなんちゃらギガワットで叩き落としてみせた彼が、私の提案を聞いて言葉を詰まらせたのだ。
大した力も知識もない弱者がどれほど恐れ多いことを口走っているのかと改めて痛感させられ、彼の頬に添えた手はみっともなく震えた。
「っ!?カンザキ!?」
『ーーーーーッ!!』
「ど、どうしたんだカンザキ!?寒いのか!?ひ、火を!!火を!?も、も、燃や!!」
『ーーーーッ!』
「さっきから鬱陶しいぞ貴様!!龍神だかなんだか知らんが、俺は一にカンザキ、ニにカンザキ、三、四もカンザキ、五もカンザキだ!!!」
言い出しっぺの私がこんなに狼狽えて、普通なら愚か者だと一蹴されてもおかしくない。
それでもヴィルヘルムくんは決して馬鹿にせず、むしろ私を傷つけないように言葉を選びながら龍神の攻撃を交わしている姿に格の違いを見せつけられた。
こういう人が1000年に1人の逸材と呼ばれるのだろう。若干龍神に対して敬意が足りない気がするけども。
それに比べて私はなんて、なんて情けない。
(このままじゃ、クロに顔向けできない。)
裏庭に残してきた可愛い相棒を思い浮かべ気合いを入れ直した私は、龍神に向け盛大に魔法をぶっ放し続けているヴィルヘルムくんに声をかける。
「あのね、さっき飲み込まれそうになった時にあの子の想いが流れ込んでき……ヴィルヘルムくん聞いてる?つ、追撃しすぎじゃない?」
「あぁもちろんだとも!!」
ヴィルヘルムくんは狼狽えた様子で早口に告げる。
「丁度いい種火を見つけたからもうしばらく耐えてくれ!!気を確かに!眠ってはいけない!!」
「……え、なんの話?というか種火ってまさか」
「クソッ、飛び回って照準が定まらん!!いや落ち着け俺…!!いつも通り的確に脳天を狙って1発で仕留めるんだ……!!」
「やめなさい!!」
途端に荒ぶり出した彼の頬を全力で摘んだ私の判断は間違ってないと思う。
◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇◇
「なるほど、つまりはアレの深層心理を見たのだな。」
龍神をしばき倒そうとしたヴィルヘルムくんの頬を真っ赤になるまで引っ張り、冷静さを彼が取り戻したところで私が体験したことを伝えると苦しげな表情を浮かべながら頷いた。
「飲み込まれかけていたから見えてしまったのか、変換系魔法の影響か…どちらにせよ意図せず他人の中を覗くことになって辛かっただろう。好きなだけこの頬を弄んでくれて構わない。」
「お、おう…そっすか…いや、うん、そんな気を使ってくれなくて大丈夫だよ……というか引っ張りすぎてごめんね…」
「ん?あぁ気にするな。………ちなみに俺の頬は元来、引っ張られるためだけに存在している。カンザキならいつでも大歓迎だ。」
「そんなことよりヴィルヘルムくん。」
「そ、そんなことより…」
残念そうに顔をしかめるヴィルヘルムくんは置いておいて、こちらの様子を上空から伺う龍神を見つめながら私は言葉を続けた。
「龍神がずっと探している愛の旋律を奏でてあげないことには、黒い霧を晴らせたとしても救えたことにはならないと思うんだ。」
「……あぁ。それでセイレーネスか?あの錯乱状態の奴に届くかは分からないぞ。そもそも海の声かどうかもはっきりしていないなかで、セイレーネスが手を貸すかどうかも怪しい。あの種族は愛を誓った相手のためにしか歌わない、知ってるだろう。」
「そうだね。でも…」
ハープを演奏していた儚げなセイレーネスと、夕焼けに染まる世界で見た彼の愛し子の後ろ姿を重ねて思い浮かべる。
やはりセイレーネスに会わせるべきだと結論づけると、ヴィルヘルムくんは穏やかな笑みを浮かべて頷いた。
「分かった。ならば俺はサポートに徹しよう。」
驚きで口が半開きになっている私の頭上に手をかざしたヴィルヘルムくんは、何語かも分からない呪文を唱える。
そして一際全身が輝いたかと思えば、途端にキリッとした顔つきで私に向き合ったヴィルヘルムくんは口を開いた。
「俺は龍神の注意を晒す。その間に箱庭を維持するために奴の魔力を濃く纏った憑代を探し出してくれ。」
「……見つけたらどうすればいい?」
「破壊するんだ。」
『ーーーーーーッ!!!』
ヴィルヘルムくんの言葉に反応したかのように大口を開けた龍神は低空飛行で私たちの真横を掠める。
強風と衝撃に思わずよろめくと、私を守るように淡い水色の壁が周囲を取り囲んで転倒を防いだ。
驚いてヴィルヘルムくんに視線を向けると、彼は楽しそうに頬を緩ませて立ち上がる。
「龍神も死ぬもの狂いで反撃してくるだろうが、俺が必ず抑える。カンザキは思うがままに突き進め。」
「つ、突き進めって…」
何処に?
その疑問に彼は答えず、しかし満面の笑みを浮かべて私の頭を撫でた。
「頼むぞ相棒。」
その言葉を合図に走り出したヴィルヘルムくんの背中を見て、私も弾かれたように走り出した。
爆風と爆音に背中を押され、守ってくれているヴィルヘルムくんを信じて、決して後ろを振り返らずにひたすら足を運ぶ。
どうやって憑代を見つけるのか。
そもそも見つけてどうやって破壊するのか。
何一つ疑問は解消されていないが、いつのまにか辿り着いていた岬の先で私は深く息を吸い込んだ。
思えば龍神は、この想い出の岬で愛の旋律を探していた。
見える光景のほとんどがあの記憶と瓜二つであったが、ひとつだけ決定的に違うものがそこにはある。
「なんか、このベンチだけ、浮いてるんだよね…!!」
想い合ったカップルがこの場所に辿り着くと、引き寄せられるように海の底から彼は姿を現わす。
もしこのベンチに腰掛けることで龍神に想いが伝わるとしたらどうだろうか。
そこまで思い至って手元に必死に力を込める。
チリ、チリッと頼りない小さな火花が舞うが、まだまだ叩き壊すほどの威力には程遠い。
「いい加減にしなさいナギサ・カンザキ…!!アンタだって魔法使いの卵でしょうが…!!このくらい燃やさなくてどうするの!」
そう思わず悪態をついた時に、かつてヴィルヘルムくんに言われた言葉を思い出した。
『大分体幹は鍛えられている。あとは不自然な力みを取り除けば……』
「自ずと魔法をぶっ放せる…。」
若干脱力するぐらいが私には丁度いい。
そうだ、丁度クロとお昼寝してる時ぐらいの心持ちで気持ちを落ち着かせよう。
腰を落として自分に言い聞かせた私は、肺に酸素が行き渡るように深く深く息を吸い込んだ。
たっぷりと酸素を取り込むと身体の中心から魔力が溢れてくる流れを感じて目を閉じる。
そのまま思うがままに拳を天高く掲げ、持てる最大限の声量で唱えた。
「ファイアカモォォオオオオオォオオオオオ!!!?」
言葉につられるように口元から熱い何かが溢れ出す。
慌てて目を開けてみると、大きく開けた自身の口元からとんでもない熱量の炎の渦が出現してベンチを燃やし尽くしていた。
間違いなく、あの時クロが使っていた魔法と同じ類のものである。
「完璧だカンザキ。炎魔人越え待った無しだな。」
バチバチッと木片が焼ける音に混じって背後から聞こえた賞賛の言葉に思わず振り返る。
しかし褒めてくれた相棒の姿をこの目に捉える間も無く、真横から襲いかかる荒波に攫われた。
長かった龍神との対決もそろそろ終わります。
というか終わらせます笑