逆転版 ポップコーンちゃんとつまみ食い男
↓のセルフ二次創作。タイトル通り逆転パロ。
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商業施設の一角で見かけた猫のマスコットのガチャガチャ。
可愛いなと思って一回だけ回してみたら、一番可愛いと思っていた黒猫が当たった。
そんなわけでルンルン気分で商業施設の中を闊歩する。
ここにきた目的の新発売の漫画と小説も買えたし、なんとなく引いたガチャでは大当たりが出るし、今日のあたしはついている。
この後はアイスでも食べて帰ろう、確か月初に新しいフレーバーが出たばかりだったはず。
そんなわけで上機嫌のまま歩いていたら、左の方から巨大な影が迫ってきた。
次に左腕に痛み、大きな手が自分の腕を掴んで握りしめていた。
「いけない女だ」
悲鳴を上げる前にボソリとした低い声が。
左の方を見上げると、表情が抜け落ちたような男の顔がかなり上の方に見えた。
でかい、こわい。小さな蝋燭の火にプールの水が全部ぶっかけられたようにルンルン気分が一瞬で消えた。
声が出ない、怖い、というかこの男、思い違いでなければ──
「魅了なんぞ振り撒きおって。……どういうつもりだ?」
なんのこと?
魅了の魔術なんぞ使えないし使おうとも思わない、そういうのが得意な同族は知っているけれど。
あたしが使えるのはちょっと光る手品よりもしょぼい魔術だけである。
男は真っ暗で真っ黒な目でじとっとこちらをみている。
どうしようどうするべきか、考え違いでなければ多分『そう』なのだこの男が、見ればわかると聞いていたが本当だったらしい。
腕は掴まれっぱなし、ならばと思って心の中で強く強く念じる。
すると何かが『繋がった』、そんな感覚が。
成功したということは、どうやら本当にそうだったらしい。
「今、何をした?」
結構上の方からそんな声、何かされたという感覚が向こうにあったらしい。
「腕を離して、痛い。それと、自殺及びあたしに危害を加えることを禁じます、また、世界を滅ぼす行為を行うことも禁じます。これは命令です、はい」
すると男の腕が離れていった、どうやら最低限の保証はうまくいったらしい。
これからどうしよう、アイス食べたかったのに。
と、思っていたら顔面、主に口周りを掴まれた。
「なるほど、洗脳か。この手の能力が効いたのははじめてだ。さっさと解け、でないとお前の可愛い顔を握り潰……」
そこで男は言葉を止めた、多分力を入れられなかったからだろう。
危なかった、初手で『危害を加える』を禁じておいて本当に良かった。
そうじゃなかったら平和な商業施設で謎の死体が二つ発見されることになっただろう。
ぱっと顔から手が離れる、睨むように見下ろされたのでとりあえずものすごく簡単に説明した。
「ひとまず、魅了も洗脳もしていない。あたしはただ普通に歩いていただけ。それとあなたがあたしに危害を加えられない理由だけど……」
どう説明したものかと悩んだ、ここはたくさん人がいる商業施設だし人に聞かれるとまずい話もあるし、そしてこんなところで魔術だなんだと言われても信用してはもらえないだろう。
……とりあえず、滅茶苦茶大雑把にしてしまおう。
「大雑把にいうと、あたしは特定の危険人物の行動を縛る……そういうチカラを持っている。あなたは残念ながらそれに該当してしまった。……このチカラは効果がかなり限定的な分、とても強力な効果を発揮する。……残念ながら解除はできない、チカラの使い手であるあたしがどれだけ解除したいと思っても無理。あと副作用のせいであたしとあなたのどっちかが死んだらもう片方も必ず死ぬから、気をつけて」
魔術やら終末の災やらを省いて最低限の説明だけしてみた。
「……は?」
相変わらず表情はない、けれども先程よりも恐ろしげな雰囲気で佇むそれに思わず情けない声が口から漏れた。
そして突然の危機および恐怖のせいで頭が現実逃避を開始、これ以上関わりたくないし、お話しするのも怖いから逃げちゃおっかな。
アイスも、食べたいしな。
よし逃げようそうしよう、それでアイス食べに行こう。
「とにかく、そういうことだからごめんね。……ちょっと待ってて」
鞄の中に手を突っ込んで手帳を取り出し、そこに住所を書いて、一枚破いて男に押し付けた。
「あたしはさっき以上の何かをあなたに強要するつもりはない。互いに死にさえしなければそれでいい。だから……ええと、だから、後はご自由に。なんかあったらそこに書いた住所のところに来て。『四番目』の紹介だって言えば通してもらえるようにしとくから。それじゃ、解散!!」
そのまま男に背を向けて、脱兎の如く駆けた。
振り向くことなく走って、息が苦しくなってきたので走るから歩くに変更する。
こんなことなら身体強化系の術も覚えておけばよかった。
「ついてない、本当についてない……なんだってこんなみんな楽しい商業施設で終末の災に遭遇するはめになるわけ……というか魅了って何よ、まともに使えるのは光だけなのに」
あたしがまともに使えるのは夜道で役に立つ程度の光の魔術だけ、エレクトリックパレードみたいなことも頑張ればできるけど、それができたとしてもなんだっていうんだ、という非常にしょうもない術。
他にも道具なしで綺麗に紙を切れる程度の切断魔術とか、ささくれを治せるレベルの治癒魔術とか、本当にしょうもないものばかり。
なんて自分のしょぼさに気落ちして、そのままフラフラと歩きながら前方を見る。
「アイス……どっちだっけ?」
適当に走ってしまったせいで全然別の場所に来てしまった気がする、考えなしに走りすぎた。
多分曲がる場所を間違った、一回引き返さなきゃ。
くるりと振り返って、大きな人影が自分のすぐ後ろにいた。
ついさっきお別れしたはずの、終末の災が。
「か、解散って言ったでしょう?」
「こちらの命と行動を縛っておいて、あの程度の説明だけで済むとでも?」
ド正論だった、終末の災のくせに。
よくよく見なくても滅茶苦茶でかい、そして怖い。
「……大まかにはさっきので全部だから、あれで納得してくれたりは」
「納得するとでも?」
凄まれた、超怖い。
納得してはくれないらしい、当然と言えば当然か。
もしも逆の立場だったらあたしだってあれだけの説明では納得しないだろうし。
どうしよう、いっそ命令して追っ払ってしまってもいいけれど後が怖い。
あと、後々いろんな人から怒られそうな気もした。
だから諦める、アイスはまた今度にしよう
「わかった、ちゃんと説明する。けど、ここでは話せないこともあるから……」
「どこならいいと?」
「さっき渡したメモに書いてあるところなら。……不審だからついてきたくない、っていうんだったら別の……誰もいないところなら」
そう聞いてみると男は少し考えるそぶりを見せて、それでいいと。
「そう、じゃあ……ええと、買い忘れたものとかある? ここから電車で二十分くらいの場所だけど」
「問題ない」
そう答えられたので、じゃあこっちと出口に向かう。
男はあたしの後ろをついてきた、ちょいちょい抜かされそうになった。
身長に差がありすぎるんだ、こちらの歩幅に合わせるのはイライラさせてしまうかもな、と思っていたらギリギリ後ろの方からぼそっとした声が聞こえてきた。
「ああ、そうか足が短いのか」
今すごく失礼なことを言われた。
確かに自分の身長は低い、平均を下回っている。
だからといって、言っていいことと悪いことがある。オブラートに包むという言葉を知らないのだろうか。
「いっそ抱えた方が早いか」
そんな言葉が聞こえた直後、足が浮いた。
随分と簡単に、ひょいっと抱えられた。
しかもいわゆる姫抱きというやつである。
ここはお子様からご老人まで誰もが楽しめる商業施設なのに。
ざわ、ざわと声と視線が、顔がかあっと熱くなる。
「ちょっと!? おろしてよ!!」
「お前の短い足の歩幅に合わせていたら日が暮れる」
滅茶苦茶失礼なことを言われた。
流石にそこまではかからない。
「この、おろして」
「暴れるな。それとも危害にならない程度の酷い目に遭わされたいか?」
なんかやばそうなことを言われたので一旦おとなしくすることにした。
すごく嫌だけど。
けど体格差がありすぎて正攻法だとどうにもならなそうだし、これ以上騒ぐと余計に目立つので仕方ない。
「ひとまず出口に向かえばいいのだな?」
小さく頷くと男はすたすたと歩き始めた。
高い、早い、ちょっと怖い。
「そう怯えた顔をするな。落としたりはしない」
「べ、別に怖くなんか……」
「そうか、ならもう少し速度を上げても」
「それはやめて」
プライドか何もかも捨てて咄嗟にそう言っていた。
結局、目的地に着くまで降ろしてもらえなかった。
すごく恥ずかしかった、しばらく町を歩けない。
変装の仕方でも調べるか、気配を消す魔術でも覚えるか、どちらがマシなんだろうか。
そして着くなり偶然すれ違った同族のエロ女に滅茶苦茶笑われた、しばらく揶揄われそうで本当に嫌だ。
それでひとまず代表のところに行ったら代表にはドン引きされるしメイドにはニヤニヤと微笑ましいものを見るような目で見られるし、なんというか散々だった。
それで、代表達も交えて魔術師とそれから終末の災いについて説明を。
自分が世界を滅ぼす災害級の能力者だと説明された男は訝しげにしつつ妙に納得しているような顔をしていた。
ちなみに男の能力は戦えば戦うほど、そして殺せば殺すほど強くなる、というような能力であるそうだ。
多分、強化系の能力の中でも最上位のものなのだろう。
他の終末の災と比べると地味な能力な気がするけど、それでもこの大男が世界を滅ぼせる存在であることに変わりはない。
そうでなければあたしと彼が契約で結ばれることも、その命を共有することもなかったのだから。
おおよその説明が終わって解散ということになった。
彼は普段、強敵を求めて世界中をうろうろする旅行者であるらしい、どこかに定住しているわけではないそうだ。
この後どうするのかと聞いてみたら、特に決めてない、しばらくはお前の元で様子を見る、と答えられた。
それで、そういうことなら空いている部屋を好きに使えと代表に言われた男は、それならお前の隣で、と言い出したので案内することになってしまった。
もう一度抱え上げられそうになったけど、流石にもう抱えられての移動は嫌だったのでどうにか拒絶した。
エレベーターに乗って最上階へ、降りた直後にこんなことを聞かれた。
「そういえば、お前も魔術師とやらならどんな魔術が使えるんだ?」
そういえば話していなかったっけ。
特に隠す必要もなかったので、簡単に見せることにした。
「あたしがまともに使えるのは光の魔術だけよ」
こんな感じの、と手のひらに光の球を作る。
「……地味だな」
極悪フラッシュをお見舞いしてやろうかと思った。
下手すると失明、失明しなくともしばらく目が使い物にならなくなるのでやめておいた、慈悲深いあたしに感謝しろ。
「地味で悪かったわね地味で」
この程度だと思われるのも癪なので光を蝶の形に変形させた上で増やす。
色も少しだけ変えて薄青と薄紅、薄紫へ。
ひらりひらりと薄青を彼の目の前に飛ばして、指パッチンを合図に破裂させる。
いつもの目潰しとは程遠い、少し目がチカっとする程度にとどめておいた。
「地味だけどこの程度の目潰しなら。魔術師って世間では絶大な力を持つ、なんて言われてるけどそんなのは大嘘で、本当は手品程度のことしかできないの」
「……そうか、なら死なせぬように守ってやらねばならないな」
「守ってもらわなくて結構よ。魔術師は頑丈で打たれ強い生物なの。そう簡単に死んだりしないわ」
だから安心しなさいな、とそう言おうとしたところでスッと腕が伸びてきて、喉を掴まれた。
危害は加えられない、命令による最低限の保証はある、けれどもいきなり急所を掴まれて恐怖を覚えないほど鈍くはない。
「こんな容易く潰れせそうな首でよく言う」
うっすらと、本当にうっすらと笑いながら彼はそういった。
これ、命令がなかったら多分死んでたなあたし。
「何故避けなかった? いいや違うな、避けるどころか予測すらできていなかったか。脆い上に鈍いのか。ますます心配になる」
貶されている。
事実だから否定はできないんだろうけど、こうも身体能力系で貶されて続けると腹が立つ。
さっきの足が短い発言もまだ怒っているからな、あたし。
くつくつと笑い声が聞こえてきた、そんなに不格好で惨めに見えるのか、そう思って睨み上げてゾッとした。
笑みが深くなっている。
けれど蔑みのそれではない、だからといって普通の笑顔でもない。
なんだこれ、とにかく普通じゃない、あと怖い。
「お前は本当に愛らしいなあ。ここまで愛らしい生物は見たことがない。初めて目にした時はあまりにも魅力的すぎて魅了を疑ったが……そうでないのなら単純にお前がただ可愛らしいだけなのだろう」
「ひえ……」
今度は歯が浮くようなセリフを言われてもっと怖くなってきた。
なんだ、愛らしいって。
鏡に映る自分の顔を思い出す、少なくとも魅了を疑われるような顔面ではない。
ひょっとして、人と違った美的センスの持ち主か、それとも何でもかんでも可愛く見えるタイプの人なんだろうか。
けれどもさっきまでいた商業施設で彼が声をかけたのは多分あたしだけだろうし。
魔術師が終末の災をそうだとわかるように、終末の災も魔術師に対して何かを感じる事があると聞いたことはある。
けれどもそれは恐れに近い何か、まるで天敵にでも遭遇してしまったかのような感覚らしい。
ひょっとしてそういう危機感的なものを魅力的なものと誤認しているのでは。
そう思った瞬間、喉から手が離れていった。
それにホッとして気が緩んだその時に、顎を掴まれ顔が上を向く。
真っ黒な目でじいっと見つめられる、その顔を見て「これ絶対やばい奴」と頭の中でけたたましく警鐘が鳴り響く。
逃げるか、命令して動くを止めるか、とにかくどうにかしなければ。
けれどもそのどれかを行動に移す前に、真っ黒な目が本当に目の前に、そして唇に何かが重なった。
余談の人物紹介
ポップコーンちゃん
光系統の魔術を使う。表向きは光の能力だと偽る。
本編同様『施設』にいた、ある時無理矢理危険な組織に引き込まれてそうになるが、その直前で保護された。
危険に巻き込まないように『施設』の関係者とは連絡をとっていないが、本編よりもちゃんとしたお別れができた。
つまみ食い男
戦えば戦うほど無限に強くなる能力を持つ。
戦闘狂であり、ただひたすら戦い続けていた。
ある日偶然ポップコーンちゃんを見かけ、勝手に一目惚れしたが自分が異性に興味を持つのはあり得ない→魅了系の能力を使われたと誤認し近寄って腕を掴んだところで契約状態に持ち込まれた。
本編と違いポップコーンちゃんに虐げられた過去がなく別に狙われてもいないので本編よりも過保護さは低いが、本編と違って出会ってすぐ彼女への好意を自覚しているのでかなりストレートにその思いをぶつける。
代表
ちょっとした催眠系の魔術をメインに扱う。
自分の災いには嫌がらせでメイド服と敬語を強要している。
メイド
洗脳系の能力を持つ。能力によってあらゆる人間を強制的に超ハッピー状態にすることができる。この能力の餌食になればたとえ死にかけだろうと目の前で大切な人がズタボロにされようと強制的にハッピーな気分になる。




