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始終無シ  作者: 朝霧


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薙刀乗りの白翼竜

 そうだ、旅に出よよう。

 黒雲立ち込める空を見上げて、唐突にそう思った。

 私は陛下のことが大好きだけど、陛下は私のことが嫌いだ。

 好かれなくてもいいからせめて少しは喜んでもらいたいと色々頑張ってきたものの、結局喜んでもらったことは一度もない。

 出来損ないで戦う力のない白い竜が何をやっているのだと呆れられるだけだ。

 それでも私は陛下が好きだった。

 強くて格好良くて、何よりあのドブ沼のような場所から引き上げてもらった大恩がある。

 だから大好きだ、でも陛下は私のことが嫌いだ。

 そりゃそうだろう、だって私は白い、尊き黒の翼を持つ黒翼竜の中の異端中の異端。

 遠い昔のおまじないのような取り決めによって、陛下は私みたいな出来損ないを側におくしかなかったのだ。

 嫌われて当然だ、好かれないのは道理だ。

 でも、そういう取り決めだから仕方がないらしい。

 基本的にやりたい放題のあの陛下でもその取り決めは覆せないのである。

 だけど陛下は私が嫌いだ。

 陛下が私を嫌うのなら、視界に置くのも億劫だというのなら、私が陛下のためにできることは一つなのだと今更ながらやっと気付いた。

 私がいなくなればいいのだ。

 そんな簡単なことに10数年も気付かなかった私はただの馬鹿である。

 陛下が覆せないというのなら、私が覆してしまえばいい。

 出来損ないの白風情がと怒られそうな気がするが、立場的に陛下の方から私を切り捨てることは難しいらしいし。

 私が一人でいなくなるなら陛下に何かお咎めがあることはないだろう。

 だから、旅に出ますと置き手紙をして城から脱出した。

 城から気付かれずに脱出するのは至難の技ではあったけど、戦う魔法以外は割と使えるのでなんとかした、小細工も沢山仕掛けたから多分数日は私が存在しない(いない)ことにも気付かないだろう。

 戦闘面で無能だからと色々身につけておいてよかったと今思う、戦えなくても頭を使えばなんとかなるということを知ることができたので私はまた一つ賢くなれた。

 この調子で馬鹿を卒業したいものだとしみじみ思うけど、それはきっと難しい。


 さて、とりあえず人間の国に向かうことだけは決まっているけど、行った後にどうしようか。

 最終的にそこそこ豊かな街か村で診療所でも開いて悠々自適に暮らせれば1番良いけど、いくら治癒魔法が得意とは言ってもそう簡単にはいかないだろう。

 正式な医者になるには資格が必要であるらしいし……資格なしの治癒魔術師として働いてもいいけどその場合お給料がぐんと低くなるようだ。

 と、いうわけで、最終目標達成のためにやるべきことを考えてみると、何をするにしてもまずお金が必要だ。

 そして今の私はほぼ無一文。

 とにかくお金を稼がないと資格を取るどころか飢え死にの可能性が大。

 と、いうわけで。

治癒術師(ヒーラー)、治癒術師はいらんかねー。日雇いで5000C、全身複雑骨折程度なら1時間くらいで治せますよー」

 そんなことを言いながら人の住む国に続く道を歩く。

 人の国にはギルドという仕事案内所があるらしいけど、辿り着く前にできれば少し稼ぎたい。

 と言ってもダメ元だけど。

 しばらくは治癒術師として活動しつつ、武器、できれば東方でよく使われているらしい薙刀という槍に似た武器を手に入れて治癒術師と同時進行で魔物の討伐の仕事も受ける……というのが理想だけど、そんなにうまくいかないか。

 そもそも人の街に入れるかすらわからない。

 翼をしまっておけば見た目はほぼ人間だけど、何処の馬の骨ともしれぬ自称治癒術師を簡単に受け入れてくれるかどうか……

「治癒術師、治癒術師はいらんかねー。日雇いで5000C、軽傷ならあっという間に、生きてさえいれば死にかけてても多分治せる便利な治癒術師はいらんかねー。日雇いで5000Cで……」

「その話、本当か!?」

「うわっ!!?」

 歩いている道の脇から突如として人影が転がるような勢いで出てきた。

 思わず悲鳴をあげた私にその人影はずいずいとにじり寄ってくる。

 若い女だ、自分と同じか少し年下だろう。

「嘘じゃねえだろうな? 誇張した売り文句だったら殴るぞ」

「ほ、本当です……」

 陛下が部下や罪人に行き過ぎた罰を与えた時にその人の治療をするのが私の仕事だった。

 死傷者も何人か治したことがある。

 だから一応本当だ、人と竜じゃ元々持ってる再生力が違うだろうし身体の構造も違うから、人間相手だと少し難しいだろうけど……

「本当、だな? なら治してやって欲しい奴がいる。金はいくらでも積める……だろうからなんとかしてくれ」

「え、えぇ……わかりました……」

 食い気味に、とても必死な形相で詰め寄られたから歯切れの悪い返答になってしまったけど、すぐに仕事が見つかったのは幸運なことだろう。

 幸先いいなあ……

 おそらくこの人間は嘘をついてはいないだろうし。

 嘘だというには必死すぎるし、藁にもすがるようなその表情から本当にいけない状況であることは察せられる。

 むしろこれで演技だったらすごい、人間を本気で怖いと思う。

「助かる……!」

「助かったのはむしろこっちの……いえ、与太話は後にしましょう、怪我人はどちらに?」

「こっちだ!」

 若い女が元来た道を引き返す、私もそれについて行った。

 ほとんど獣道のような、道とすらいえない木々の隙間を女は器用にすり抜けて走っていく。

 女の足は早かった、私は必死について行った。

 置いてきぼりにされることはないけど、結構疲れる。

 息が上がる、私は馬鹿な上に体力もない駄目な竜なのだ。

 自分の身体能力は人間にも劣ると改めて思い知って少し凹んだ。


「おい! まだ生きてるか!?」

 唐突に女が叫び声をあげる、先を見るとかなりひらけたスペースがあることに気付いた。

 そのスペースにおそらく女の仲間である人間が数人。

 その中央に、地面に寝かせられた重傷人がいた。

「こ……これはひどい……」

 思わず呟いていた。

 構造理解するまでもなく、全身の骨がぐちゃぐちゃに折れているのがわかる。

 ……いや確かに全身複雑骨折でも治せるという謳い文句は言ったけど、だからと言って本当に全身複雑骨折の重傷人がいるなんて。

「ノエル! 見つかった!!?」

「薬草はなかったが通りすがりの治癒術師見つけた!!」

 目を真っ赤に泣き腫らした騎士のような格好をした赤毛の若い女の声に若い女ーーノエルという名前らしい女が答える。

「よくやったノエル! 治癒術師殿、報酬はいくらでも出す、どうか私の部下を……!」

 身なりのいい、美女にも見違えるような美しい青年がそう言って頭を下げた。

 他の人間の様子やらなんやらを鑑みるに、おそらく彼がこの人たちのリーダーなのだろう。

「ええ。わかりました。損傷がかなりひどいようなので時間がかかりますが……」

 そう言って私は本格的に患者を視ることにした。

 歩み寄って患者の近くに腰を下ろし、そっとその胸に手を当てた。

 ――構造理解、開始。

「……これ何があったんですか? 全身の骨が折れてる、っていうよりも砕けてる、っていう方が正確ですね……折れた骨の欠片がいくつか内臓に突き刺さってますし……なんらかの治療薬を投与された形跡があるからそれのおかげでなんとか持ってる、という感じですね」

 傷の状態、それから患者の身体の構造を視て思わず顔をしかめた。

 傷の状態はハッキリ言ってしまえば最悪だ、これでよく死なないものだと感心する。

 幸か不幸か、身体の構造そのものは黒翼竜とさして変わらない。

 大きな違いは翼の有無くらいで、他は強いか弱いかの違いくらいしかない。

 これならなんとかなるだろう。

 だけど油断はできない、竜よりも人の身体の方が弱い。

 いつもの調子で治すと患者の身体が追いつかずに危険な状態に陥る可能性がある。

 だから、いつもより丁寧かつ慎重に。

 砕けた骨を元の形に再生しつつ、その骨によって傷付いた内臓や軟部組織を修復する。

 一言で言うのは簡単だが、これが中々大変な作業だった。少し前に陛下からもらった5000ピースのブラックパズルの方が余程ましなくらい難しくてややこしい作業だった。

 出血は骨が飛び出ていた左脚と右腕以外にはないが、念のため自分の魔力で患者の魔力を複製して流し込む。

「……これで終わり、です」

 最終的に治療を終えるまで1時間半もかかってしまった。

 この後人里に降りた白翼竜は治癒術師として活動したり、魔女が箒に乗るような感じで薙刀に乗って爆速で空を飛び回ったりしている。

 そのうち陛下が放った追っ手と追いかけっこになったりするけど普通に逃げ切る。

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