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始終無シ  作者: 朝霧


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パシリにはなりたくない

 予知夢を見た。

 幼少期の頃何度か見たことがあるのだけど、今回は断片的かつ随分とはっきり未来が見えた。

 見えたのは主に二人の人間に関する未来。

 一人目は夏休み明けに転向してきた女子生徒、私はおそらく来週のホームルームで彼女と同じ班になってよく話すようになるらしいが、卒業間近に大喧嘩して喧嘩別れするようだ。

 二人目は名前しか知らない少年、三日後私は不良グループに絡まれて彼に偶然助けられるらしいけど、その恩を返せと長年パシリ扱いされるらしい。

 それからおそらく十五年くらい先の自分の未来も少しだけ。

 クソダサキモオタダメダメフリーターになっているみたいだった。

 どうも少年のパシリをやらされていたせいで受験やらなんやらで失敗して自暴自棄になって……みたいな感じだったようだ。

 ものすごくではないけど、そこそこ悲惨な人生だったので、そんな未来はささっと変えてしまおうと思う。


 少年と出会う日、私は本屋に寄った帰りに不良グループに絡まれたようなので、放課後本屋には寄らずにまっすぐ帰宅した。

 買いたかった本は通販で買った、お急ぎ便なので多分もう家に届いているだろう。

 転校生と友達になるきっかけとなる日、私は五限目のあと腹痛を訴え早退した。

 結果としてホームルームには不参加、私は転校生とは別の人数が足りていなかった班に割り振られた。

 これでとりあえず、予知夢の人生で私にそこそこ関わりつつも最終的には絶縁した二人を私の人生から追放した。

 転校生の方はまだ関わる機会があるかもしれないけど、私の方から積極的に関わろうとしなければ特に問題はないだろう。

 少年の方は偶然の出会いだったので、もう二度と会うことはあるまい。

 と、いうわけで、これからどう生きようか。


 未来の私はフリーターだった。

 それをどうにかできればいいけど、なにをどうすればいいのやら。

 というか、特になりたいものも仕事としてやりたいこともない。

 だからとりあえず勉強は頑張ろうと思う。

 あと、フリーターの私は結構忙しかった、だから好きなことをやるために睡眠時間を削りまくっていたようだ。

 この先どうなるのかはわからない、だけどああいう未来になってしまうというのであれば、まだ時間が取れる学生のうちにやりたいことをいっぱいやっておこうと思う。

 フリーターになった私はあの少年パシリと転校生のお友達をやっているだけで忙しかったらしいけど、今の私は時間がたっぷりありあまっているぼっち。

 だから、やりたいことをやってみようと思う。


 私は近いうちにパソコンを買うつもりだった。

 だけど未来の私は買わなかった、というか買えなかったらしい。

 転校生と遊ぶ時や少年のパシリをやらされる時の服を一式揃えたりなんだかんだしているうちに、パソコンを買う金がなくなってしまったらしい。

 だけど今の私はただのぼっち、遊ぶ金もパシリのための金も必要ない。

 というわけでお年玉とバイト代でそこそこいい性能のパソコンを購入した。

 これで、未来の私が出来なかったことのうちの一つが達成できた。

 あとはこれを使い倒すだけだ。


 最近のホームルームのテーマは修学旅行先の事前学習だった。

 修学旅行で行くのは北海道、自由にテーマを決めてそのテーマに沿った情報を集めてでっかい模造紙にまとめるという面倒な作業。

 私の班のテーマは『グルメ』だった。

 他の班は農業だったりアイヌ文化なんかをテーマにしているらしい。

 私が割り振られた班は、ぶっちゃけてしまうとクラスのあまりものグループだった。

 班員は私を含めて三人。

 私以外の二人は、ド派手なギャルとちょっと頭がおかしい感じの問題児。

 こうなることは、なんとなくわかっていた。

 ぶっちゃけ私はただのスケープゴートだ。

 ド派手なギャルは地元でも恐れられている暴走族のの幹部だか総長のヨメさんらしいし、問題児はなに考えてるのかわからない。

 課題を行う上でお荷物どころかでっかい爆弾を二つ抱えているようなものだった。

 ものすごく嫌だけど、機嫌を損なうような発言さえしなければ怒らせるようなことはない、と思う。

 なのでちゃちゃっと一人で課題を進めていく。

 サボっている二人を脇目にインターネットでささっと美味しそうなものを調べて、修学旅行中に食べられそうなものをチョイス。

 それに関して少し深掘りしつつパソコンで下書きを完成させる。

 問題は模造紙にまとめるというクソ面倒くさい作業だ。

 パワポだったら楽だったのだけど、紙にまとめなければならない。

 面倒くさいな、というか字下手だから嫌だな、と思ったので、A4でプリントアウトした紙を模造紙に何枚か貼り付けるという荒技を使うことにした。

 誰かしらに文句を言われたら実質一人でやっている事を盾に押し切ろうと思う。


 私の班はどこよりも早く課題を完成させた。

 実質一人だったくせに、というか一人だったからこそ早く終わったのだろう。

 というかぶっちゃけ、書くという手間を省いたのが原因だけど。

 のりでペタペタと模造紙にプリントした紙を貼りつけて、あとは乾くのを待つだけだ。

 まあまあの出来だった、不器用だからちょっとずれてるけど許容範囲内。

 教師に見せに行ったら手書きでなく印刷したものを貼り付けただけの手抜きだったので渋られたけど、メンツがメンツなので納得させた。

 これにて私の課題は完了、時間が余ったので数学の宿題をやっつけてしまうことにした。

「もうおわったの?」

 一問目に取り掛かっていたら、横から声をかけられた。

 顔を上げると同じ班のギャルが。

「ええ、無事に」

「一人でやってたのにずいぶん早いねー」

「印刷したのをはっつけただけだったので」

「へー、ずるっこしたんだ」

「まあ、そうなりますね」

「センセになんも言われなかったの?」

「ちょっと文句言われましたけど、OK出してくれました」

「ふーん」

 会話はそこで切れたと判断して、宿題を再開した。


 その日以降、何故かやたらとギャルから絡まれるようになった。

 昼食を一人で食べてたら急にドッカーンと机をくっつけられたり、朝授業が始まるまで机に突っ伏して寝てたら頭にチョップしてきたり。

 そしてある日の放課後、さあ帰ろうと立ち上がった瞬間に腕を掴まれ「ちょっと付き合えー」と引っ張られた。

「ちょ……」

「なに? どうせ暇でしょ?」

「いえ、今日中に片付けたいことがあるので」

「片付けたいことって?」

 嘘を吐くにしてもいい感じの嘘がない、本当のことを話すのしてもどう言えば納得してもらえるのかわからない。

「どろどろの立ち絵終わらせなきゃだから」

 どういったものかと悩みながら口を開いてしまったので、あちらからすると意味不明なことを言ってしまった。

「どろどろの……なんて?」

「……趣味でやってる作業なんであんまり気にしないでください。とにかく忙しいので、失礼させてくださいな」

「えー、よくわかんないけど趣味なら別にいいじゃん、ちょっとくらい」

「……というか今更ですが、なんの用ですか?」

「んー、集会にご招待しようかなって」

「集会、ってなんの?」

「うちのチームの」

「……まさかあなたが所属しているなんとかっていう暴走族の集会じゃないですよね?」

「いや、それ」

「なんで?」

「細かいことはいいじゃん、いいから来いよ」

「ご遠慮させてくださいな」

「あ?」

 嫌なことは嫌と言わないとろくなことにならない。

 予知夢で見た私はそのせいパシリにされて一生を棒に振った。

 だから今回はちゃんと抗う。

 というか今なんとかしないと開きかけのギャルのパシリルートが完全に開放されてしまいそうですごく嫌だ。

「すごまれても無理です。怖いので」

「こわくないよ」

「ぼっちのオタクには暴走族の集会は荷が重いんですよ。人がいっぱいいるだけでダメなのに集まってる人全員不良ってめっちゃ怖いじゃないですか。とにかくご勘弁を」

「えー……一回だけでいいんだけどなー、今回お断りされたら毎回しつこく付き纏うつもりだけど、どうする?」

 そう言われて、少し考える。

「ほんとうに、今日、一回限りでいいんですね?」

「うん」

「……わかりました、ですが今後はなに言われても付き合いませんから、それは絶対に納得してくださいよ」

「わかった」

 にっこり、とギャルは笑った。


 ギャルのバイクに乗せられて、なんかをよくわからない廃墟に連れてこられた。

「集会ってこんなところでやるんですか」

「うん」

 ふと嫌な予感が、ほんとうにこれ集会なんだろうか。

 裏ビデオの撮影場所とかだったりしないよな?

「ところで、無敵のひとってご存知ですが?」

「ん? 超強いってこと?」

「失うものがないからなんでもできる人のことですよ」

「なんで今そんな話をし始めたのかな?」

「ふふ。世間話ですよ、ただの」

「ふうん。やっぱあんた面白いわ」

 意図は伝わったらしいけど、ギャルは機嫌を悪くするどころか逆によくしたようだった。

 言外になんかあったらぶっ殺す、的なことを言ったつもりだったのだけど、なんで笑ってんだろう、そんなことはできっこないって思われてるんだろうな。

 とはいえ、殺すだけで済ませるつもりはないけど。


 ギャルに手を引かれて廃墟の中へ。

 廃墟の中には柄の悪そうな少年や青年がいっぱいいた。

「お疲れ様です。姐さん!!」

 ビシッと揃った不良達にギャルは「おー、おつかれー」と謎の強キャラ感を醸し出している。

「あ、ねーちゃんやっときた……そいつが例の?」

 奥の方からやってきた、ギャルに顔がそっくりな少年が私を指差してそんなことを言ってくる。

「うん、そだよ。……こいつ、うちの一個下の弟」

「ど、どうも……」

 頭を下げると弟くんは「おう」と短く返事をしてきた。

「そーちょーは?」

「まだ……あ、来た」

 弟くんが呟くと同時に、ギャルに手を引っ張られる。

 それと同時に不良達とギャル、弟くんが『お疲れ様です、総長!!』と一斉にコール&お辞儀。

 私は慌てて頭だけ下げておいた。

 コールに参加しなかったのは部外者の私だけだったっぽいけど、あとで首とか撥ねられたりしないよね。

 おそるおそる顔を上げると、向こう側からやってくる『総長』の姿が見えた。

 ……。

 あれぇ? なんかめっちゃ見覚えあるな?

 予知夢で見た私をパシリにしてた例の少年にものすごくよく似ている気がするのだけど、他人の空似であってるよね?


 予知夢の少年は、喧嘩がとても強かったけど暴走族とか特定のチームに所属していなかった。

 少なくとも私はそう聞かされていた。

 仮に暴走族に所属していたからと言ってそれを黙っている理由は彼にはなかった。

 これはどういうことだ? 私が予知夢と違う行動をとったせいで未来が変わったとか?

 などと考えているうちにいつのまにか集会が始まって、終わっていた。

 総長のなにかある奴はいないか、という問いかけにギャルが「はぁーい」と呑気に手をあげて、私の手を引っ掴んで前に出た。

「ちょ……」

「はい、ちゅーもーく。この子、ウチのオトモダチだから、よーく顔覚えろー? 手ェ出したらその粗末なもんをぶっ潰すから、そのつもりでよろしく〜」

 ニッコニコの笑顔で物騒なことを言ったギャルに、不良の皆様は声を揃えて「押忍!!」と。

 私はギャルの横でただひたすらあたふたするしかなかった。


「さっきのってどういうことですか?」

 解散するような雰囲気になったので、そこでようやくギャルにそう質問することができた。

「んー? 牽制的な? うちのが手ェ出さないように。これで少なくともうちの奴等があんたに手を出すことはないよ。課題全部やってくれたお礼ね」

「……そ、そうですか」

 お礼だったらメロンパン一個奢ってくれるとかそういうので良かったんだけどなー、と思った。

「……ところで最寄駅って」

「おい」

 ここから徒歩で何分くらいですか、と聞こうとしたら誰かが割って入ってきた。

 総長の人だった。

 私は咄嗟にギャルよりも後ろの方に引き下がった。

「あ、そーちょー」

 総長の人は後ろに下がった私の顔をじいっと見ている。

 ギャルの後ろに隠れてしまおうかと思ったけど、それをやると逆に顰蹙を買う恐れがあるので、下手に動けない。

「そいつが、お前の?」

「うん。オトモダチ」

「ふーん」

 総長の人が私を品定めするように見ている。

 やめてくれ、私はただの一般人だ、あなたにとって面白いことなんてなに一つない。

 どうしたものかと思っていたら、誰かが「総長!」と。

「あ?」

 総長の人が機嫌悪そうな顔で声をかけてきた少年に顔を向ける。

 やっと解放された、とそう判断した私はギャルに問いかける。

「最寄駅ってここから徒歩で何分くらいかかります?」

「え? 送ってくよ?」

「……いえ、バイクにははじめてのったのですが、その……ちょっと目が回ってしまって」

 運転が荒かったと言いたいわけじゃないんだ、ただ私にバイクは合わなかったというだけで。

 予知夢でも何度か総長の人激似の例の少年に無理矢理乗せられてたけど、そのたびに酔ってフラフラになっていた。

 一回例の少年の前で盛大に吐いた後は乗せられなくなったっぽいけど。

「そう? でも多分二、三十分くらいかかるよ?」

「そのくらいなら歩けるので……それじゃあ、私はこの辺りで失礼します」

「ひとりで帰る気?」

「ええ」

「この辺物騒だよ?」

「気をつけて帰ります。……大丈夫です、なんかあったらすぐに通報するので……それじゃ、失礼します」

「えー……あ、じゃあ駅まで一緒にウチも歩いてくよ」

「でもバイクはどうするのです?」

「んー、駅着いたら弟にバイクで迎えにきてもらってこっちに戻るからそれでオッケー」

「手間では?」

「いいの」

 ほら行くよ、と手を掴まれたので素直に送ってもらうことにした。


「ところでさー、さっき言ってたどろどろのなんちゃらってなに?」

 駅までの道中、ギャルにそう聞かれた。

「趣味で作ってるゲームの敵キャラの立ち絵ですよ」

「え? ゲーム作れんの?」

「そういうソフトがあるので……とはいってもはじめたばかりなのでわからないことだらけですけどね」

「ふーん。どんなゲーム作ってんの?」

「ホラー……というか脱出ゲームですね。見知らぬ学校に閉じ込められた主人公が謎のどろどろやら狂人から逃げ回って脱出しようとする感じの……」

「へえ……ウチ、アクション系しかやらないけど今度そういうのもやってみようかなー、そういえばそーちょーってゲームやるの?」

 と、ギャルは私の横を歩く人に向かってそう言った。

「……あまり」

 総長の人はぼそりと答えた。

 なんで総長の人がここにいるのかって?

 ギャルが徒歩で私を送ってくから後で駅まで迎えにきて、というような話をギャルの弟くんにしていたら、総長の人が歩いてくなら女子二人だとこの辺りは物騒だから自分もついてくって。

 それにギャルが「別にどんなのがどれだけきても全部のせるけど、着いてきたいなら着いてくれば」と答えてしまったので、総長の人も一緒に行くことになってしまったのだ。


 というかこの並びってなんなの、なんで私が真ん中?

 気まずい、ものすごく気まずい、どうしてこのメンツでギャルが真ん中じゃないんだろう。

 早く駅に着け、と思ってもまだまだ先であるようだ。

 予知夢見たやつの話。

 詳細はあまり覚えていないけどギャルとお友達になったり色々あったので多分フリーターはかろうじて回避する。

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