ザリガニは目を醒ます
その男の顔を見た直後、少女の顔にひどく歪んだ笑みが張り付いた。
その少女の顔を見た男が瞠目し、戦慄きながら呟く。
「ざ、ザリガニ……!? てめえザリガニか……!!? 第四世代のクソガキが何故……!?」
「ぎゃひっ……ぎゃひひひひっ!!」
ザリガニと呼ばれた少女は不気味に笑って、ここ数年人前では一度も抜かなかった己の獲物を抜いた。
切れ味がよさそうな大ぶりの鋏と、細長い針のような形の鋏。
その鋏はどちらも両刃で、あからさまに武器として使用するために作られたものだった。
大ぶりな鋏を右手に、針のような鋏を左手に持ち、少女はしゃきんじゃきんしゃきんと鋏を開閉し音を立てる。
「よぉ、久しぶりだなあ、おっさん。何でここにいる? それはこっちのセリフだボケ。『街』の住民がなんでこんな真っ当なところに?」
「お、俺は元々本土の……」
「言い訳は無駄だ。おっさんは『街』に適応しきっていた。もう手遅れだ。こんな綺麗な場所では生きにくくて仕方ないだろう?」
「そ、それをお前が言うか、イカれた第四世代のクソガキがぁ!!」
男は銃を構え躊躇いなく少女に発泡する。
しかし少女はそれを軽くかわす。
ふわり、と少女の身体が宙に浮く。
男が気が付いた時には、彼の目の前で少女が笑って、左に握った鋏を――
「うぎゃあああああああああぁぁあ!!?」
「ぎゃひひっ、さあ質問を続けようじゃないか。誰の差し金だ? これ以上痛い思いをしたくなかったらさっさと答えることをお勧めするけど?」
躊躇いなく男の左目に針のような鋏を突き刺した少女は鋏をグリグリと動かして、小さく鋏を開閉する。
「ひっ……うぎぎぐぐぐ……!!」
男は想像を絶する痛みに呻き声をあげることしかできなかった。
「呻いてないで答えやがれ。なあ?」
少女は鋏をさらに奥へ突き刺す。
男は濁った絶叫をあげるだけで、何も答えない。
その様子に少女は小さく溜息をついた。
「……飽きた。もういい、死ね」
少女はあっさりと男の左目から鋏を引っこ抜き、右手に持っていた大ぶりな鋏で男の喉を挟み、何のためらいもなく――
じゃきん、と。
「なんでここにいるかと聞いたな。あの『街』の第四世代が何故ここにいるのか、と」
喉をぱっくりと切られ絶命した男の死体の前で、血濡れた少女は不機嫌そうに呟いた。
「簡単に言っちまえば誘拐された。私だってこんな不便なとことさっさと出て帰りたいのは山々なんだが、なかなかうまくいかなくてな」
物言わぬ死体への少女の独白は続く。
「なあ、聞けよ。元々あの『街』の住民でないお前にとっては当たり前のことだったのかもしれないけど。ここでは人殺しは重罪なんだぜ? あの『街』では蚊を叩き潰すくらい人を殺すのが当たり前のことでしかないのにな。正直言ってすごく生きにくい。だって敵でも殺しちゃダメなんだぜ? 敵を殺して自分の身を守ることすらできないこの場所が、私にとっては不便で不便で仕方ない」
やれやれと少女は肩をすくめ、溜息をつく。
そして、次の瞬間少女の目に宿ったのは強い光りだった。
「だから、帰るよ絶対に。こんな綺麗な場所は生きにくくてしかたがない。ザリガニは綺麗な場所では生きられないんだから」
ぎゃひひ、と少女は笑いながらそう宣言して、血に塗れたままその場を立ち去った。




