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始終無シ  作者: 朝霧


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夢想地獄

 夢で私は殺され続けていた。

 昨日は目玉をくり抜かれ、今日は巨大な何かで押しつぶされている最中だ。

 1週間前は腹わたを食い散らかされ、1ヶ月前は骨が溶けるまで茹でられた。

 殺される夢には痛みが付随した、この程度の痛みには慣れてしまっていたからどうでもいいけど。


 もう随分と目を覚ましていない気がする。

 だから随分と顔を見ていない。

 どういうつもりであいつは私をこの夢に閉じ込めたのだろう?

 殺したいなら殺せばいいのに。

 痛みを与えることが目的なのはわかっていた、そのくらい恨まれていることも。

 だけど、何故夢の中だけなのだろう?

 現実で拷問した方が心も満たされるだろうに。

 おかしな男、そう思った直後に私の体と意識はぺしゃんこに潰れた。


 気がついたら瓶の中に閉じ込められていた。

 透明な瓶だ。

 キュポンという音に顔を上げると、コルク栓が抜かれた音だったらしい。

 コルク栓を抜いたのは巨人だった。

 いや、この場合は私が縮んでいるのか。

 巨人は瓶の中に何かの液体を注ぎ込んだ。

 濡れるような感覚と同時に焼けるような痛みを感じた。

 どうやら液体の正体は硫酸であるようである。

 体がドロドロに溶けていのを感じた数秒後に私の意識はどろりととろけた。


 気がついたら手足に鋭い痛み。

 顔を動かして手足を見ると、細いピンで何かに標本のように刺しとめられているのがわかった。

 今度はなんだと思っていたら、足元に固い感触が、

 見ると、そこにいたのは蟻だった。

 私の手のひらよりも大きいくらいのそれは、私の足に噛み付いた。

 肉が引きちぎられる痛みにこれは長引きそうだと思った直後。

 いつの間にか私の体には大量の蟻が纏わりついていた。

 噛みちぎられることで、体の表面がボコボコの穴だらけになっていく。

 いつの間にか私の記憶は虫食いになった書物のように途切れていて、そこから先は何も思い出せない。


 真っ白な部屋の中で唐突に意識を取り戻した。

 真っ白な部屋の中には随分と見ていなかった懐かしい顔があった。

 酷い顔だった。

 憔悴しきったような、追い詰められた手負いの獣のようなそんな顔。


 久しぶり、と手を上げるとあいつはこちらに歩み寄って、私の顔面を思い切り殴った。

 そのまま馬乗りにされて、顔を何度も何度も殴られる。

 痛いことは痛いけど、この程度ならどうということもない。


 「……何故」

 何発殴られた頃だろうか、あいつが殴るのをやめてこちらの顔を見ていた。

 何故かその顔はとても歪んでいた。


 「何故、恐れない。何故、嫌がらない。何故、苦しまない。……何故貴様は、ここまで痛めつけても平然としている!!」

 その叫び声は引きつっていた。

 痛そうな声、なんでかそう思った。


 「だって、この程度なら昔、日常茶飯事だったし」

 そう返すと、あいつは私を呆然と見下ろした。

 だけど、本当のことだった。

 あの程度で根をあげていたのなら、根をあげられたのだったら、私はとっくの昔に壊れることができていたのだから。


 「……何をやっても、貴様が平然としているのなら……全て無駄じゃないか」

 「……さあ、どうだろうね」

 君の気がそれで済むのなら無駄ではないんじゃないだろうか、そう思ったけど黙っていることにした。

 だって、全然気が済んでなさそうだし。

 

 「何をしても……貴様が苦しまないのなら…………私は、お前を許すことができないじゃないか……!」

 とても小さな声だったからよく聞き取れなかったけど、あいつはどうやらそんなことを言ったらしい。

 おかしな男、私の事を許す必要なんて君にはないのに。

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