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魔王の妻、始めました  作者: 橘花穏
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18/21

執務室(魔王side)

「はぁ…」


今日何度目か分からないため息をつく。

疲れた。

なんでこんなに書類仕事が多いのだろう…

机には沢山の書類がうず高く積まれている。

しかし、机だけにはとどまらず、床にもところ狭しと書類が積み上げられていた。


「はぁ…」


イレーナは何をしているのだろうか。

会いたくてたまらない…



机に頬杖をついて、考えていると頭に鈍い衝撃が走った。

顔を上げると、分厚いファイルを持った笑顔のエリックが仁王立ちしていた。


「魔王様…私がこの部屋を出てから書類仕事が進んでいないようですね?」


笑顔に見えたが、エリックの額には青筋が浮かんでいた。


「エリック、怒ると寿命が縮むぞ?」


俺が雰囲気を和ませようと、冗談めかして言ってみる。


「はぁ…貴方がちゃんと仕事をしてくだされば、私の寿命は縮まないのですがね…」


エリックはため息をつくと、「仕事をしろ」と言いたげな顔で、分厚いファイルを机に置いた。

余程重いのか、机に置いた瞬間ドスンと音がした。


「エリック…お前、こんな恐ろしい凶器で俺の頭を叩いたのか…」


「魔王様…こんなことでは死なないでしょう?」


いや、死なないけど…

仮にも俺はお前の上司だぞ!


「ほら、イレーナ様に会いたいならお仕事してください。ね?」


真っ黒な笑みを浮かべたエリックは、自分の席に戻るとものすごい勢いで書類仕事を始めた。

もし、前世があるとしたら、エリックは絶対働き者だったと思う。



そんなことを考えていると、不意に扉が開いた。


「も、申し上げます。イレーナ様がいなくなりました!」


イザベルは美しい細工のされた小瓶をぎゅっと抱えて、震えた声で叫んだ。

顔は血の気がなく陶器のように白くなっていて、目には涙が溜まっていた。


「最後に見たのは?」


静かに問いかけると、イザベルがビクリと震えた。


「す、数分前です。」


どもりながら、やっとのことでイザベルが答える。

言い終わると、瞳からポタポタととめどなく涙がこぼれ落ちる。


「イザベル、座ってください。」


エリックがイザベルを座らせ、背中をさすって落ち着かせた。

しばらくエリックに背中をさすられ、落ち着いたイザベルが、俺の方をみて「ごめんなさい」と消えてしまいそうなほど小さな声で謝った。



俺はため息をひとつつき、「怒ってない」と短く告げる。

イザベルのことをエリックに任せ、自室に向かう。



⿴⿻⿸

自室に着くと、大きなため息をついた。

あれだけイレーナに、城の外に出ていったり、知らないメイドとかにはついて行かないように言っておいたのに…

まあ、そういうところも含めて大好きなんだけど。



イレーナがふにゃりと笑う姿を思い浮かべ、笑みが零れる。

イレーナが危ない目に会う前に迎えに行かなければ。



イレーナを探すために、自室にある水晶に手をかざす。

本来、この水晶は電話の役割を担う代物だ。

しかし、魂が結びついている結婚相手や眷属の魔力を辿って、今の状態を水晶に写して確認することができる。



イレーナの魔力を水晶に込めるとすぐにイレーナが写った。

イレーナは怪我した様子もひどい扱いを受けている様子がなく、ほっとして笑顔が零れる。

しかし、イレーナがいる場所を見て一瞬で笑顔が消える。



水晶で自室からエリックとイザベルのいる執務室に連絡をとる。


「エリック、いるか?」


少し経ってから、エリックが水晶に写る。


「はい。どうなさいましたか?」


「少し出かける。」


「分かりました。イレーナ様をちゃんと連れて帰ってきて下さいね。あ、暴れすぎないように。」


「嗚呼、分かってる。」


くすりと笑い、水晶での通信を切る。

指を鳴らし、イレーナのいる王宮への空間の道を繋げる。



待ってろイレーナ。

今すぐ助けに行くから。


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