まだ続いている音
大学最後のライブは、思っていたよりも静かに終わった。
満員ではない。
でも、空席もない。
ステージに立つ三人を、
客席はちゃんと「知っている顔」で見ていた。
「次で最後です」
ハヤテが短く言う。
ヒナタは、いつものように頷いた。
コウタは、目線だけで合図を返す。
名前のない曲。
この頃のスノーフレークスを象徴する一曲。
音は安定している。
演奏も、迷いがない。
客席の反応も悪くない。
むしろ、いい。
それでも。
最後の音を鳴らし終えた瞬間、
ヒナタの胸には、言葉にできない空白が残った。
拍手が起こる。
アンコールはない。
それでいい。
ステージを降りると、
スタッフが声をかけてきた。
「また出てください」
「次も楽しみにしてます」
名刺を渡される。
連絡先を交換する。
楽屋に戻り、三人は機材を片づける。
「……悪くなかったな」
ハヤテが言う。
「うん」
コウタも頷く。
「学生のうちに、
ここまで来れたのは、正直すごい」
ヒナタは、少し遅れて口を開いた。
「やめる理由は、もうないな」
それは宣言ではなく、確認だった。
大学を出れば、生活が変わる。
時間も、責任も、今までとは違う。
それでも。
「続けるなら」
コウタが言う。
「ちゃんと、インディーズとしてやろう」
「中途半端は、もう無理だな」
ハヤテが笑う。
「社会人バンド、ってやつ?」
「肩書きはどうでもいい」
ヒナタは静かに言った。
「音が止まらなきゃ、それでいい」
帰り道、三人は並んで歩く。
学生の頃と同じ道。
でも、少しだけ足取りが違った。
簡単じゃない。
それでも、
名前を外す理由はなかった。
大学が終わっても、
音楽は終わらない。
まだプロではない。
でも、遊びでもない。
音を鳴らし続ける。
言葉に触れないまま、
あの感覚を抱えたまま。




