最初のセッション
アンプのスイッチが入る音は、
思っていたよりも大きく響いた。
ヒナタは一瞬だけ肩をすくめ、
それから深く息を吸う。
「……緊張するな、これ」
「今さらかよ」
ドラムセットの前に座るハヤテが笑う。
スティックを指でくるりと回しながら、軽く床を叩いた。
「誰も見てないし、失敗しても問題ないよ」
そう言ったコウタは、ベースを構えたまま視線を落としている。
いつもの落ち着いた声だったが、指先はわずかに硬かった。
三人が向かい合う。
言葉はない。
最初に音を出したのは、ハヤテだった。
カウントもなく、直感的に刻まれるリズム。
それに合わせて、ヒナタがコードを鳴らす。
綺麗でも正確でもない。
ただ、今の気分に一番近い音。
一拍遅れて、コウタの低い音が重なった。
「あ」
コウタが、小さく声を漏らす。
音は不揃いだった。
噛み合っているとは言えない。
それでも、不思議と止めたいとは思わなかった。
ハヤテはリズムを変え、
ヒナタはそれに引っ張られるようにフレーズを探し、
コウタは二人の間を埋めるように音を選ぶ。
数分で終わるはずだったセッションは、
気づけば十分以上続いていた。
最後の音が消え、静寂が戻る。
「……今の」
ヒナタが言いかけて、言葉を探す。
「正直、ぐちゃぐちゃだったな」
ハヤテが先に言って、笑った。
「でも、嫌いじゃない」
コウタはそう言って、ゆっくり顔を上げる。
その一言で、ヒナタの胸が少し軽くなった。
「もう一回、やらない?」
誰が言い出したわけでもない。
けれど三人は、自然と構え直していた。




