届く声
駅前の広場は、
夜のざわめきで満ちていた。
人の声。
靴音。
遠くを走る車の音。
街灯の白い光の下で、
ヒナタは、一度だけ深く息を吸った。
小雪の背中は、
もう人波の向こうへ溶けかけている。
このままでも、
終われる距離だった。
それでも。
胸の奥で、
ずっと鳴らさなかった音が、
今、はっきり形になる。
ひとつ、整えるように息を吐く。
迷いはなかった。
一歩、前に出る。
そして。
夜の空気を切るように。
広場に、
確かに届く声で。
名前を呼んだ。
「小雪」
小雪が、
驚いたように振り返る。
街の音が、
一瞬だけ遠のいた。
ヒナタは、
視線を逸らさない。
もう一度。
今度は、
この瞬間を逃さないために。
「小雪」
視線が交わる。
ヒナタは、
何も言わなかった。
ただ、
少しだけ目を細めて、笑った。
人の波が、
また二人の間を流れていく。
小さくて、
溶けそうで、
でも、消えなかった。
胸の奥に、
静かに積もっている。
ちゃんと、ここにある。
ヒナタは、
それ以上、言葉を重ねなかった。
呼んだ名前が、
胸の中で、
確かに鳴り続けていたから。
(Snow flakes 第一章 了)
Snow flakes 本編は、
第一章として、ここでひとつの区切りとなります。
ここまで読んでくださり、
本当にありがとうございました。
この先の日常は、
次章へと続いていきます。
その前に、
月の夜に置かれた、静かな短編を一篇挟みます。
本編にも関わる大切な一篇ですので、
あわせて読んでいただけたら嬉しいです。
三人の音は、
この先も続いていきます。
言葉にならない感情を、音に。




