62. 帰国
「妹尾想太さん、以上をもちまして、アメリカでの撮影分は終了です。日本に戻って、秋になってから、いくつかのシーンを撮影しますが、一旦、こちらでは終了となります。お疲れ様でした」
スタッフの声がかかり、大きな拍手の中、想太は監督から花束を受け取る。
現地スタッフの笑顔と拍手がひときわ大きい。想太は琉生と一緒に、通訳の石川さんが手いっぱいのとき、日米両出演者・スタッフ間の通訳をし、大活躍した。人懐こくて、愛嬌のある想太は現地スタッフからも大人気なのだ。
本当は、琉生も今日終了予定だった。帰国のための飛行機のチケットも、明日の同じ便を予約していた。
「残念やな。一緒に帰りたかったわ。飛行機の中で、いっぱい今後の作戦会議したかったのにな」
想太が残念そうに言った。
「だね。でも、しかたないよ。撮り直しのシーンがでちゃったら、残るしかないよ」
監督の希望で、いくつか撮り直しのシーンが出た、という連絡を受けたのは、昨夜のことだった。
今朝、詳しく聞いた話では、撮り直しというより、監督がどうしても追加で入れたいシーンを思いついた、ということらしい。
「想太は、2学期の始業式、間に合うね」
琉生が羨ましそうに言う。
「そやな。琉生の撮影も早く終わったらええな。帰ったら、一緒にやりたいこといっぱいあるし」
「うん。 ごめんな。しばらく待たせるけど。なんなら、スワヒリ語とアラビア語の本、先に候補、さがしててくれていいから」
「OK。いくつか見つくろっとく」
翌日。
「空港、見送り行けなくてごめんな」
申し訳なさそうに琉生が言った。
「しかたないよ。ってか見送り来れるぐらいなら、一緒に帰ってるしな」想太も応える。
「それもそうか。ま、とにかく、がんばって早く帰るよ」
名残惜しそうに想太に手を振って、琉生は撮影に向かった。
琉生とマネージャーの三田はアメリカに残り、想太は一足先に日本に帰国するのだ。
3人での帰国予定から、1人の帰国になってしまって、想太はちょっと淋しい。
本当は、自分も帰国の日程を先延ばしにして、琉生が終わるのを待ちたかった。
けれど、2学期も始まるし、ドラマの撮影も、想太の帰国次第始まることになっていたので、それは叶わなかった。
『琉生より一足先に、帰国です(想太)』
事務所のファンクラブサイトにある、『琉生と想太のアメリカ日記』のコーナーに、想太は投稿する。
さっき琉生が撮影に行く直前、2人で顔を寄せ合うようにして撮った写真を添える。
2人ともキラキラの笑顔だ。
想太は撮影を無事終えられたことが嬉しくて。
琉生は今から撮影という、気合い十分の顔で。
いつもは、2人のメッセージが並ぶが、今朝は時間がなくて、琉生からのメッセージはない。
(ああ。そうか。このコーナーも、帰国したら終わりか)
想太はつぶやく。
アメリカで過ごした期間、ほぼ毎日、想太は琉生と一緒に、写真と短いコメントをこのコーナーにアップしてきた。ほんの2、3行ほどなのに、毎日続けることは、けっこう大変だった。でも、こんなコーナーをつくってもらえたこと自体が嬉しかった。タイトルロゴもすごく可愛い。
何より、”琉生と想太“という、2人のコンビ感を強く打ち出しているタイトルが、もしかしたら、という期待を想太と琉生に抱かせている。
はじめのうち、このコーナーに気づいていない人も多かったが、いつのまにか口コミで広がったのか、今はびっくりするほどの数の人が、アップするたびに“いいね”を押してくれている。
毎日の“いいね”のうち2つは、間違いなく自分の両親からのだ。そして琉生んちの分、レイさんと両親のでもう3つ。つまり身内票が毎日合計5つは入る。
でも、今はそれを遥かに超える数の“いいね”をしてくれている人たちがいる。
自分たち2人に寄せられた期待や応援を感じて、心に温かいものが湧いてくる。
応援って、本当に力になる。そう思う。
それに応えるには、どんな自分でいたらいいのか。何をしていけば良いのか。
ぼんやり過ごしたら、あかんな。
想太は思う。増えていく“いいね”の数字を見ながら、身が引き締まる思いがする。
もしかしたら、大半の人はもっと軽い気持ちで“いいね”を押しているのかもしれない。多分そうだ。
でも、だからといって、その数字を軽く扱いたくはないとも思う。
応援してくれる人たちを大切にしたい。琉生とそう話している。
でも。
想太は、心の中でちらっと思う。
もしかして、みなみも“いいね”してくれてへんかな。
ちょっと期待してしまうのだ。
ああ。未練がましい自分がナサケナイ。
でも。
「ずっと好きでいる」
そう言ってくれたみなみだから、きっと黙って“いいね”を押してくれているような気もする。
あれこれもの思いにふけりながら、想太はひとりの時間を過ごす。
帰りの飛行機では、この1ヶ月の疲れが一気に出たのか、想太は機内食も食べずに、ほとんど寝て過ごした。
夢の中で、想太は、琉生と2人、メインステージに立って歌っていた。
それは観客の熱気を2人で浴びながら思う存分ステージを駆け巡る、めちゃくちゃ幸せな夢だった。




