【番外編6】補佐官からのエール
※33〜34話のブラッド視点のお話です
(人の心って複雑なんだな……)
オティリエの同僚であるブラッドは、ついついそんなことを考えてしまった。
彼がどうしてそんなことを考えるようになったかといえば、オティリエとヴァーリックのせいである。
というのも、彼らははたから見ていて明らかに思い合っているというのに、当人同士にまったくその自覚がない。しかも、オティリエに至っては心読みの能力を持っているのだから、本当に不思議と言わざるを得ないのだ。
「二人は今、なにをしているんだい?」
ブラッドとは別の同僚と手を握り合っているオティリエを見ながら、ヴァーリックがそんなことを尋ねる。
オティリエがなにをしているかというと、自分の心読みの能力を同僚に分け与えている最中だ。けれど、そんな事情を知らないヴァーリックの心中は穏やかではない――自分の想い人が別の男性と手を繋いでいるのだから当然だ。
けれど、オティリエは心底不思議そうな表情を浮かべつつ「え? と、手を握っています?」なんて返事をするものだから、ブラッドは思わず笑ってしまった。
(無自覚って怖いなぁ)
おそらくオティリエは、ヴァーリックの質問の意図を全く理解していない。だからこそ、自分の行動そのものを回答すればいいと勘違いをしているのだ。
(もう少し! もう少し詳細を伝えてあげて!)
きっと自分以外の補佐官も心のなかでオティリエに助言をしているだろうと思いつつ、ブラッドは必死に念を送った。
「オティリエ、彼には婚約者がいるんだ。手を握るのはやめておきなさい」
「え? そ、それは知ってます。だけど……」
「ほら、もうおしまい」
けれど、ブラッドの思いは伝わらず、オティリエたちはそんな会話を交わしている。おまけにヴァーリックはオティリエを半ば強引に同僚から引き離す始末だ。二人が手を繋いでいるのがよほど嫌なのだろう。
(ああもう、焦れったいな!)
さっさと気持ちを伝えてしまえばいいのに――と思うものの、そもそもヴァーリックに「オティリエを好き」だという自覚がないのだからどうしようもない。
もちろん、ヴァーリックは無効化の能力者だから、オティリエに自分の心の声を意図的に聞かせないことができる。それでも、この様子ではまだ自分の感情を言語化するに至っていないのだろう。
そのうえ、ヴァーリックはこの国の王太子だ。誰かを好きになったところで、簡単に思いを伝えることはできない。妃選びを控えた今はなおさらだ。慎重になってしまうのもわからなくはないのだが。
(俺はオティリエさんと知り合って以降のヴァーリック様がとても好きだから)
元々ヴァーリックは完璧で非の打ち所のない男性だった。文武両道で努力家、品行方正そのものだし、まだ幼いうちから王太子として公務を担ってきた。補佐官たちはみな、そんなヴァーリックに憧れてきたし、彼を心の底から誇りに思っている。もちろん、その気持ちは今でも変わっていない。
けれど、オティリエと出会ってからは年齢相応の一面が垣間見えるようになり、以前よりも身近な存在に感じられるようになったのだ。ブラッドはそれが嬉しくてたまらない。おそらくはエアニーを含めた他の補佐官も同じ気持ちだろう。
(この恋が実るといいな)
まだまだ時間はかかりそうだが、それもまた一興。甘酸っぱくて可愛い恋模様を特等席で見守れるのだから、多少の焦れったさは我慢しなければならないだろう。
(二人とも、頑張れ!)
執務室に移動をするオティリエとヴァーリックを見送りながら、ブラッドは密かにエールを送るのだった。




