【婚約者】観察者
【ミハエル公爵視点】
聖女マリア・マーマレード伯爵令嬢の婚約者。
ミハエル公爵はとある部屋から、高級宿を双眼鏡で見張っていた。
俺の目線の先では。
一人の赤髪の少女が屋上プールのカウチに座って日向ぼっこしていた。
勇者パーティーの一員。
赤髪の光姫。
俺は彼女が婚約者のマリア・マーマーレード伯爵令嬢ではないかと疑っていた。
黒髪でブルー瞳の成人女性だった彼女とは大きく違う。
しかし・・・
どこか彼女を髣髴させるのだ。
雰囲気だろうか。
気配だろうか・・・・
俺の心は彼女はマリアであると感じていた。
不思議だ・・・
姿は全然違うのにマリアだと思ってしまうのだ。
何が何だか分からない。
だから俺は・・・
確証を掴むためにこうして隣の宿から双眼鏡片手に赤髪少女を観察しているのだ。
部屋には食料を待機している。
片手でパンを食べ、片手で双眼鏡を持つ。
今、目の前では赤髪の少女は寝返りをうった。
あの寝返りの仕方・・・
まさか・・・マリアか・・・
イヤイヤイヤ。
寝返りを打つマリアの姿など見た事ないから分からないか・・・
しかし・・・なんだかマリアっぽい気がする。
どことなく・・・そう思う。
何でかは分からないけど。
そう思うんだ・・・・
ガチャ
ドアが開く音がすると。
「ミハエル・・・またここにいるの?いつまでストーカーしてるの?」
この声は・・・ナターシャか。
たわいない・・・
俺は赤髪少女を双眼鏡で観察しながら返事をする。
「確証が得られるまでだっ!」
「はぁー。重症ね。そんな訳の分からない事してないで。
もっと重要な事があるでしょ。王城の調査をしないと」
「分かってる。そっちは執事のサイ爺に任せているから心配ない。
ナターシャ、君もいるだろ。俺はこっちの案件を全力で頑張る」
「はぁー。ほらほらっ」
んあっ?
突然視界が暗くなったと思ったら。
ナターシャに双眼鏡を取られた。
「な、何するんだ?」
「早く戻って。正気じゃないわ。小さい子をストーカーするなんて」
「違う、違う、誤解だ・・・彼女はマリアなんだ・・・」
「・・・そう。赤髪で小さい女の子が・・・全然似ていないよー」
確かにそうだけど・・・
俺は心で感じていた。
鼓動を感じていたのだ・・・
彼女がマリアだと・・・
「多分、色々な事情があるんだろう」
「・・・そう」
ナターシャが死んだ目で俺を見る。
完全にいっちゃてる人を見る目だ。
ぐぅ・・・こころが痛い。
伯爵としてのプライドが傷つく。
だが・・・彼女はマリアのはずなんだ。
「ということで、俺はもう少し観察する」
「はぁー。もぅー知らない」
ナターシャは部屋を出て行った。
俺はナターシャから取り返した双眼鏡で、赤髪少女を観察し続けた。
絶対に彼女がマリアだという証拠を掴んでやる。
強く心で念じた。