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緑森霊

よし、じゃあそろそろ出発するか、あまりノンビリしていると最悪森の中で一泊という事になりかねない。

今考える事じゃないけど、夜寝るのが一人じゃないと言うのは良いものだ、なんか安心できる。

女子相手では緊張するが、それでもこの世界に来て今までずっと独り寝だったからな。

コーコとミレイちゃんには本当に感謝している。

だからと言っていきなり外泊などレベルが高すぎる。


「遅くならないうちに出発しようか、暗くなる前には帰ってきたい。」


偵察して帰って来るだけなら大丈夫だろうけど、わざわざゆっくりする必要も無い。

俺が先頭になって進む、真ん中にミレイちゃんで殿をコーコに任す。

参道に入る瞬間コーコが緊張する。

別に何も変化はない、コーコの見立て通り、入るだけなら大丈夫な様だ。

しかし、精霊も大変なんだな、光精霊のままだと転移門からは弾かれるわ、森には入れないわで、結構規則が煩いみたいだ。


意外にも参道は歩きやすかった。

但し、歩きやすい様な所を参道として整備してある為か、道は大分曲がりくねっていた。

これでは十分な視界が確保できない。

道の先が見えないから、陰に何者かが潜んでいても気付きにくい。

例の魂統合とやらで、やたら変なスキルを身に付けてしまった。


前世とかの記憶は受け継がれて無いが、魂に刻まれる程の技術は受け継いだ。

その中に気配を察知するものがあるが、そんなあやふやな気配とかで敵意を持った何者かが、居る居ないを判断するなど危険すぎる。

目で見て確認しなければ安心できない、警戒は必要だ。

例え結界内で安全だとしても、敵は魔物や猛獣だけとは限らない・・・。


「なあコーコ、この結界ってどの程度のものなんだ?」


確認するのが遅い気もするが、女神結界に慣れていたから、うっかり結界って言葉に安心してたけど、あれがかなり上級の結界であろう事くらいわかる。

なら、この結界がどこまで外敵を排除してくれるものなのかを確認したい。


あれ?コーコがなんか気分悪そうだぞ。

顔色も悪いし、いや顔色どころか髪の色も若干くすんでる?

半眼になった目も綺麗な金色からむしろ黄色っぽくなってる。

例の相性とやらの問題か?


「コーコ、気分が悪いなら少し休むか?」


「すいませんますたあ、思ったより厳しいです。」


「そんな、コーコ様に私の回復魔法が効くでしょうか・・・。」


ここまでおよそ十キロくらいは歩いただろうか、あまりに道が曲がりくねっているので、距離感がイマイチだ。

大体半分くらいまで来たと、見当をつけておくか。

だったら一度休憩を入れるには悪くないタイミングのはずだ、ここまで脅威となるものは何も出てきていないんだから、休憩中に突然なんか出てくるということもないだろう。


「ミレイ、ここで一休みしよう、それと念のため回復魔法をかけてやってくれないか?効くかどうかはともかく、やれる事はやっておこう。」


回復魔法とやらがどんな効果のある魔法なのかは知らないが、字面から怪我以外の体調不良にも効くかもしれない、精霊とはいえ、実体化中なら人間の魔法も効果があっても不思議じゃないし、信者のミレイちゃんの魔法なら効果の上乗せだってあったっていいだろう。


「うー、ますたあ・・・面目ありません・・・。」


「構わないよ、何なら今日はこれで引き上げてもいい。」


少なくともコーコに大ダメージが入るという情報は手に入った。

後、魔物とかも恐らくは出ないだろう。

それから・・・気のせいだと思いたいけど、誰かが後を付けて来ている・・・それも複数人。

殺気は感じないが、そんな感覚的なことに全服の信頼は置けない、まず付けて来ている奴が居るという事から疑ったほうがいい。

休憩中にも襲ってくる気配がない、もし居るとすれば見張りか?

となるとゴドルフの手の者かな。


・・・多分隊長さんの差し金だな、俺たちが依頼を完遂するかどうかの見届け人ってとこか、やっぱ何か企んでるよな、隊長さんとしてもここは失敗して欲しくないってことか、だとすると俺の推測の裏ずけが一つ取れたな。

そうだとするなら、単に見張るだけでなく、ピンチになった時の助っ人要員でもあるかもしれない。

さすが隊長さん、汚いおっさんとはいえ、悪人になり切れないくらいには良い人だ。


隊長さんだって情報は薄いだろう、あの村長さんはそれなりに隊長さんと面識があったのだから、もし隊長さんが何か掴んでいるんだったら、村長さん経由で俺たちに伝えれば、少しは成功率も上がるだろうに、それをしないって事は、そういう事だよな。

だったら、俺たちを捨て石にすれば、情報を手に入れた上、教団側の切り札を消し、ついでに俺の装備を身ぐるみ剥いでと、手を汚さず大きなメリットを得ることができる。

ミレイちゃんの存在もあるけど、帝命に逆らえる程じゃないだろう、これは国家レベルの話のはずだ。


あの人は色々損をするタイプと見た。

親近感が湧いてきたぞ、自分で言うのもなんだが、俺は流されて巻き込まれて、最終的に損をするタイプだからな。

なんだこの悲惨なタイプは、幸薄すぎんだろ、そりゃ殺されて異世界に来ちゃうくらいするよな。


「ミレイ、コーコの様子はどう?」


「あ、はい、回復魔法が効いたのかもしれません、ちょっと顔色が良くなってきました。」


「ミレイ、助かりました、何とか動けそうです。ますたあ、もう大丈夫です。」


「無理するな、と言いたいところだが、出直しても同じ事になるんだろうな。」


この依頼を無視するという選択肢は無さそうだしな、パン美味かったし。

どうするか・・・。

むむむっ!なんか変な気配を感じる。

気配のする方を見ると緑色の靄がかかった様な、濃密な青草の匂いの様な、それがだんだん人型、少女の様な姿を形どってきた。

噂の緑森霊という奴か?

まさかの実体化?いや、これは単なる可視化って奴だな、その証拠に半透明だ。

コーコとは大分存在感が違う。


「貴様!輝煌霊だな!私の目は誤魔化されんぞ、その姿どういうつもりだ!」


縄張りじゃ無くて、見た目が先なのか。


「私はもう輝煌霊じゃありません!ますたあの眷属で所有物です!」


おい、人聞き悪いよ、眷属だけで良いじゃん。


「な!なんと!貴公マスターを得る事が出来たと言うのか!?」


呼び方が貴様から貴公に変わったな。


「なんと羨ましい、いや、うむ、そうか、すまない。それで、そうか、実体化したのか、名を・・・授かったのだな。」


「そうです、今はますたあの眷属のコーコです。」


「そこな御仁がマスターか、成る程、よく見れば確かに神々しいお方だ、非礼を詫びさせて頂きます。」


「いや、う、うん、まあそう畏まらないでくれ、別に気分を害されちゃいないさ。」


「おお、なんと懐深きお方!感謝致します。」


「ますたあの器は世界を超えるレベルです!」


まあ、確かに世界を越えてきたんだけど、しかし精霊って皆んなこんな大仰な喋り方をするんだな。

コーコは光の塊だったけど、半透明の少女にこんな喋り方されると違和感が凄い。


「ますたあ!気を付けて下さい!この緑森霊はますたあに上手いこと取り入って、あわよくば自分も眷属にとか狙ってますよ!」


「なな、な何を!?しっ失敬な!そ、そん、その様な妄言、如何に堕天霊と雖も言葉を慎んで貰いたい!別に羨ましい訳ではござらん!」


・・・何だ、突っ込んで貰いたいのか?

多過ぎるよ!どもり過ぎだろ!堕天ってそれ褒めてんの!?今羨ましいって言ったばっかじゃん!何だよござるって!

全部拾わせんな。


設定です。


緑森霊(ヴァイタルグリーン):生命霊の一派。生命の樹と呼ばれる体系を持つ少々特殊な精霊。あらゆる生命体を生命たらしめる役割を持つ。

生命体には二種類あり、物質生命と精神生命がそれだが、精霊はこの生命とは離れた所に存在し、それぞれが世界の理を司り、管理・運用をしている世界のシステム的存在だ。

生命霊は、集合的に体系化する事によって命と言う、概念や観念にも近い実存を生成している。

この生命の樹から命と言う実存を転写させて物質体に書き込む事により物質生命が生まれ、物質に書き込まれる前に自我が芽生えてしまったものを、精神生命と呼ぶ。

このうち、物質生命には物質故の寿命が存在し、生殖行動により子孫を成すことで命の複写を行い、生命は続いていく。

但し、複写を続けると情報は劣化していく為、常時管理し致命的な劣化が起こらないうちに正確な情報に書き直す役目を負ったのが緑森霊である。

生命の樹の象徴として神樹という形で地上に顕現し、またその周りは深い森に包まれるためそう呼ばれる。

すべての生命の誕生と共に傍に寄り添い、命の情報を確認し、処理が終われば神樹の森へと帰っていく。

以前一つの神樹が役目を終えた。

その神樹は、生命に知恵を授ける象徴であった、その生命が生きる上での本能的な知恵なのだが、光の二聖が、あらゆる知恵はこちらの管轄だと言う主張を掲げ、自身の領域を侵す神樹に鉄槌を下してしまった。

これにより、生命の樹と光の精霊陣営は、生命体を形作る両輪でありながらも互いに反目し、協定という形で折り合うまでそれは続いた。

ちなみに、その鉄槌を下された神樹はその神威を失い徐々に神霊力を失っていったが、森に残った緑森霊によって枯れることなく、その威容を保っている。


堕天霊(フォールンスピリット):主人に仕える事の出来た精霊。天の理から外れ、世界の外側ではなく内側から干渉できる存在になった為ゆえの蔑称。

呼び名は蔑称ではあるが、あらゆる精霊の垂涎の的である為かなりの敬意は払われている。

要はやっかみから出来た蔑称である。

精霊は天に仕える存在であり、そこに不満や不信を持つ者はいないが、そもそもが仕えることに無上の喜びを感じる存在の為、明確な主人に仕える事を本能的に欲しているので、堕天した精霊を羨みやっかむ事はあっても、恨み憎んだり、卑下する精霊は皆無である。





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