衝撃の事実
「な、何だ?どうなっている?」
思わず声に出てしまったが、しかたがないだろう。
何せ周りの景色が一切見えない、すべてが灰色一色で塗りつぶされた様な異様な光景に包まれた謎空間に俺たちは居たのだから。
「お、おい、ここは一体?確か、いや間違いなく俺は家のすぐ近くに居た。」
ェェェエエエェェェ!ナンデ?ってこれ何?浮いてるの?地面が見えないんですけど?
いや、地面どころの騒ぎでなくいろいろ見えないんですけどォォォォォ!
「まあまあ落ち着いて、まずはちゃんと自己紹介するね。」
これに落ち着いてられるメンタルなど俺にあるわけない。
だが混乱する俺を他所に彼女は話を続ける。
「私は貴方達の世界でいうところの神、正真正銘の女神アルセティオよ」
ナ、ナンダッテエェェェ!って誰だよ!そんな神様知らないよ!
神様と言ったら天照大御神とかヤハウェとかだろ普通。
「もっと言えば、貴方達の世界の他に二つ、三つの世界を司る創世神という事になるのかな?」
いや聞かれても…。
「いや、ちょ、ちょっと待ってくれ、待ってクダサイ。」
よし、冷静になれ俺、いや冷静になれるわけは無いのだが、とにかく冷静になったことにして頭の中をまとめよう。
神様かどうかは取り敢えず置いておくとして、現状を鑑みるに何らかの力?能力?を有した者である事は確かなのだろう。
これが催眠術の一種だったとしても、それはそれで凄い能力だと思う。
いや、今まで催眠術をかけられた事なんかないからよくわかんないけど。
「そのうちの一つ、私はリフェーリアと呼んでいるんだけど、その世界が大変な事になるの。」
…待ってはくれないのかよ、
「実を言うと私の他にも同格の神が何柱かいるのだけれど、そのうちの一柱がリフェーリアに目をつけて私から奪おうと画策しているの。」
理解が追いつかない…
「今まででもそういうことが無かったわけじゃないんだけど、実際に私の世界が狙われたのは今回が初めて。」
………
「けど、自衛のための手段を私は講じていたの。」
神様の講じた手段?それが俺と何の関係が?スイマセンわかりません。
「どういう事かと言うと、貴方達の世界、私はイクシリアと呼んでいるわ、は三つの世界の中でも高次元の世界なの。」
…三次元とか四次元とか?
「そして、その高次元世界では魂が輪廻転生することによって生物は魂を精錬させていき、ゆくゆくは私たち神が顕現するべく相応しい世界になっていく。」
…なんか壮大な話になってきたな。
「私はそのシステムを利用してとある魂を自ら生み出し、そして輪廻の輪の中に入れた。」
あ、なんか分かっちゃったかな、俺分かっちゃったかな。
「察しが付いたようね、そうよ、あなたの想像通り…産まれてこれなかった貴方の双子の弟よ!」
キャァァァァァァァ!!なにそれ怖い、
え?ウソ?初耳なんですけど?双子の弟?って知らんわそんなん!察せらるかあ!
何がそうよだ!分かっちゃったかなとか思ったけど全然分かってなかったよ!
斜め上過ぎるわ!俺じゃねえのかよ!流れ的に俺じゃん、なんで新キャラ出すんだよ!
いや、正確には出てきてないけど衝撃の新事実だよ。
「そしてその魂を貴方は内包しているの、けれどリフェーリアにはそのままでは行くことが出来ないから、この魂断太刀で魂を切り離す事が必要なの。」
あ、それさっきの刀。
「だから、申し訳ないのだけれど…。」
「コラアアアアァァァァァァァァァァァァ!!」
俺は叫んだ、それはもう叫んだ、目から血が出るかと思うくらい叫んだ。
しまった、俺としたことが…俺はこんな大声出すキャラではないのだ、
そ、そうだ、素数を数えよう、あれ?1は素数じゃないよな?よしOK。
俺の大迫力の叫び声が効いたのか、彼女、女神?は目を丸くている。
だが、俺はかまわず話を続ける。
「勝手なことを言わないでくれ、話が進まないから君が神様というのは信じて・・・
取り敢えずそういう前提にしておこう。」
流石においそれと神さまですよー、そうデスかー。
というように認めるわけにはいかない、別に俺は宗教家でもなんでも無いが。
この場を何とかする為には一先ず話を合わせよう。
なにせ彼女の考えというか、目的が正直わからない。
だいたい、現実感がありすぎるのに現実味がない。
「だからと言って俺は君の所有物じゃないぞ、その世界の危険がピンチなのは・・・」
しまった、言葉がうつった。
「その世界の危機というのが何なのかは知らないが、俺には関係ないことだろ。」
「確かにあなたには関係ないように思えるかもしれないわね。」
そして、彼女はけれど、と続ける。
「さっきも言ったと思うけれども、私の創造した魂はあなたが喰らってしまったわ。」
ヤメテエエエ!なんだよ!いきなりエグい表現するんじゃない!さっきは内包するとか言ってたじゃないか!同じ事なのかもしれないけど言い方考えて!
何だか、訳の分からない罪悪感が芽生えてきそうだよ。
はっ!?さてはそれが狙い?
「世界移動ができるのはこの世であなた一人しかいないの、このままではリフェーリアにいる全ての生命が悉く奪われてしまうわ。」
…だから…もういいや。
「はあ、なんかもう疲れた。」
ここはもう少し前向き目に話を合わせるとするか。
「俺がその世界に行ったとして、一体何ができるというんだ?世界を救うとかそんな仰々しいことが俺にできるとは思えないし、そもそもそんな魂だけの存在になってどうするんだ?」
おや?何やら彼女の顔が少し明るくなったな。
「それについては心配はないわ。」
うーん、言ってみただけで別に心配はしていないんだが。
「まず、あなたの今までの前世、全ての輪廻した時代を統合するの。」
凄いことを言い出した。
「その上で、転移すれば高過ぎるエネルギーにより実体化が出来るわ。」
物質化って、…凄まじ過ぎるだろ。
「更に言えばその高いエネルギーが重要で、リフェーリアの許容できるエネルギー総量をギリギリにする事でそれ以上の他世界存在の侵入を防ぐことが出来るの。」
その理屈はおかしい…かどうかは良く分からないが、ずいぶん単純なことに感じる。
「けれどその総量には多少の揺らぎがあるから、全ての侵入を阻む事は出来ないわ。
だからその侵入者をあなたに相手して欲しいの。」
「まあ・・・そうなるとして、どうやってそいつを特定するんだ?まさか世界中を虱潰しに探すのか?それに、相手っていってもどうすればいい?戦えとでも言う気か?ただの一般的高校生の俺にそんな事出来るわけないだろう?」
「何だか質問ばかりね、それはいろいろ聞きたい気持ちはわかるけど、これ以上はリフェーリアに行ってから話すわ。」
だから行かないってば!もう話を合わせるのも限界だな。
「残念だけど、俺は行かない。」
決然たる意志をもってして言い放つ。
「・・・分かったわ、今日はこのくらいにしておきます。」
よかった、やっと解放される。
「さっきも言ったけど時間がないの、また明日ね藤太君。」
彼女は笑顔で別れの挨拶を告げたが、俺には不吉な予感しかしなかった。
唐突に周りの景色が帰ってきた。
そして当然のように彼女の姿も消えていた。
俺は狐につままれた様な心地で時計を確認すると午後八時をまわっていた…。
「・・・涼子に怒られる。」
連続投稿です。一体いつになったら異世界に行くのか私にもわかりません。