EPISODE01 噂の男
「ふう、疲れた・・・」
スーツを着た中年の男が、独り言を言いつつ、会社から出てきた。
外は大雨で、道行く人々は皆、傘をさしている。
傘を忘れてしまった男は仕方なく、雨宿りのためにバス停へと向かう。
バスで帰るのだろうか?
しかし、男はバスを待とうとはせず、携帯でタクシーを呼ぶ。
「寒い・・・」
秋が深まる頃の大雨だ。冷たい風が吹いている。
数分経ちやがて、タクシーがやって来た。
タクシーに乗り込む男。
「ミスター、どこまで行きます?」
「ヘタマイトストリートまで頼む。」
タクシードライバーは、愛想のいい男だった。30代程だろうか。どこかまだ若さが感じられる。
「凄い雨ですね~ こりゃ等分続きますぜ。」
「そうだな・・・私はうっかり傘を忘れてしまった。」
男はバス停に入るまでに濡れたスーツを見て言った。
「ミスター、街で噂になってる男知ってます?」
「男?知らないな。」
「ええ、変わった男ですよ。マントみたいなのを羽織っててね、胸にハヤブサのマークが刻んだ男。」
男は、最近越してきたばかりで、タクシードライバーの話を知らなかった。
「その男・・・何者なんだ?」
「街中で悪党が現れたら、映画に出てきそうな車やバイクに乗ってやってきて、そいつらを退治する自警団みたいな男ですよ。」
「その男の名前は?」
「いろいろな呼び方があるんです。ハヤブサ怪物、鳥人間・・・一番呼ばれてるのは・・・ファルコンマンですかね~。漫画みたいでしょ?」
男はそれを聞いて、クチバシを持った神のような姿をイメージしていた。
「ファルコンマン・・・か。正体は?」
「それは皆気になってることです。マスクの下を見た人は1人もいないみたいで・・・」
「・・・」
「おっ、走ってますねぇ・・・」
「何?」
「ほら、あそこ。」
タクシードライバーが指を差した先には、黒と金、そして赤のスーツを着た男が、同様の色に塗装されたバイクで疾走していた。あまりにも違う彼の姿に、男は心底ガッカリしていた。
「ただのコスプレ男じゃないか・・・」
「そんなこと言わないでやってください。彼は今日も悪党退治で忙しいんですよ。」
「・・・」
男は何も言葉が出なかった。
次回予告・・・EPISODE02「殺しの秘術」深夜の道を歩く市民が次々と謎の死を遂げる事件が頻発。ドレイク市警のロドリゲス警部は、トビアスと共に捜査を始めるが・・・