Ⅳ
暗音を上げて爆走するV-MAXが、保線用坑道の狭い壁面をすり抜ける。前方を並走するのは、時速100キロを超える速度で暗闇を突っ走る完全自動無人貨物列車だ。
「おい八重樫! しくじるなよ!」
「お前こそ、ハンドルをブレさせるな」
神田がアクセルを限界まで捻り、無人列車の側面へ車体を接分させる。わずかな目測のズレが死を意味する極限状態。八重樫はタイミングを完璧に見極め、走行する貨車の屋根へと跳躍した。しなやかに着地すると同時に、消音ピストルを構える。
コンテナの屋根には、潜伏していた敵の精鋭数名が待ち構えていた。
「侵入者――」
叫び声が上がるより早く、八重樫の弾丸が敵の膝と肩を正確に撃ち抜く。バランスを崩した男たちが、凄まじい風圧に煽られて暗闇の線路へと脱落していく。
「神田、上がれ!」
八重樫が差し伸べた手をつかみ、神田が巨躯を強引に引き上げた。
『二人とも聞こえる!?』
通信から黒瀬の切羽詰まった声が飛び込む。
『列車はあと三分で大手町ハブに達する! 拡散装置は先頭車両のコンテナ内だ! だけど、コンテナのロックは内部からの油圧式……外からは開かない!』
「開かないなら、叩き割るまでだ!」
神田が背中から高熱解断トーチを引き抜き、コンテナの重厚なハッチへ刃を突き立てた。飛び散る火花。
その頃、大手町地下の制御室前では、天野が単身で残党の包囲網を突破していた。冷徹な射撃と無駄のないCQC(近接格闘)で敵を次々と沈め、制御室の扉を蹴り開ける。
「嶺、地下鉄空調の停止は?」
『完了しましたよ。国交省の幹部に少し“昔の借り”を思い出してもらいました。現在、全線の換気ファンがストップしています』
嶺の穏やかな声が報告を入れる。だが、猶予はない。
『神田! コンテナ内部に中和剤を直接放り込め!』
紗希の叫びと同時に、神田が切断したハッチを力任せに蹴り飛ばした。
暗闇のコンテナ内部で、異様な音を立てて緑色のガスが噴出し始めている。カウントダウン表示は「00:05」。
「八重樫、投げるぞ!」
「合わせろ!」
神田がサイドバッグから取り出した強力中和爆弾をコンテナ深部へ投げ込み、八重樫が空中でその信管を正確に撃ち抜いた。
ドガァン! と、爆発的な中和ガスがコンテナ内に充満する。『零式』の有害成分が瞬時に化学分解され、白煙となって無力化されていく。
『……目標の完全無害化、確認! 全システムの緊急停止に成功したわ!』
紗希の安堵した声がインカムに響き、猛スピードで走っていた無人列車が強烈な非常ブレーキ音とともに大手町駅の地下ホームで停止した。
静寂が戻った地下ホーム。
コンテナから飛び降りた神田が荒い息を吐きながら煙草に火をつけ、八重樫は黙々と銃の弾倉を交換している。そこへ、地上の制御室を制圧した天野が静かに歩み寄ってきた。
「見事な仕事だ」
「へっ、残業代はタップリつけてもらわねえとな」
神田が不敵に笑う。黒瀬が通信越しに『おいおい、俺のハッキング手当も忘れるなよ』と文句を言い、嶺と紗希の軽やかな笑い声がそれに続いた。
夜明け前の東京。無数の人々が眠る街の足元で、日本の崩壊を防いだ6人の影。
「撤収する。次の発令に備えろ」
天野の短い一言とともに、スペシャリストたちは闇の底へと静かに姿を消していった。警視庁国家安全保証局――彼らの戦いに、終わりの文字はない。
完




