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自転車の魔法使い  作者: 津山 みかり
第二章 落日の錦秋
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-6.不知火の亡霊(前編)-

――前回のあらすじ


残暑どころではない苛烈な太陽のもと、季節三人娘の楠木悠(くすのきはるか)、小牧千夏(こまきちなつ)、斎藤亜紀(さいとうあき)は体育祭に臨んでいた。

そして、いよいよ亜紀の障害物競争が始まり彼女は見事トップに躍り出る。しかし、最後の障害「借り物」でしばらく立ち止まり、悠と千夏を借り物としてゴールを目指す。結果は2位となったが彼女はやり切った顔を浮かべてグラウンドから高い空を仰ぐのだった。

 昼食をはさみ、いよいよ体育祭も終盤に差し掛かる。私が出場する一〇〇メートル走は勝負が決するのが早い。花形であり大詰めの競技だ。

 女子高生の平均的な全力疾走が何秒かは知らない。この後に学年対抗リレーもあるけど、私はとりあえず今日だけは本気を出すことにした。

 

 内申点のためだ。と、普段なら言いたいが今ばかりは違う。

 必死に障害物競走で泥まみれ、汗まみれになりながらも奮闘した亜紀の姿に、なんというか胸にグンとこみ上げる何かがあった。苦手なものにも真正面から馬鹿正直に取り組んでいた亜紀が私には格好よく見えた。確かにその内容自体は運動というよりかはお遊戯に近いものかもしれない。それでも亜紀の目はマジだった。

 

 まだ競技まで三十分近くある。私は深呼吸する。亜紀はちょうどトイレに行っていない。悠も今から始まる二人三脚の競技で準備中だ。

 

 周りには誰一人、いない。



「ふぅ、すっきりした」

 お手洗いをすませて自席へと戻ることにする。珍しく男子トイレが渋滞しているが、それを横目に私は校庭の隅っこを歩く。

 体育祭の喧騒から少し離れていると、自分だけがこの世界から隔離された気がする。もちろん、そんな夢現なことはあり得ないし現実はいつもそばにある。

 この前の悠の家でのことは何もない。

 彼女はいつも通り能天気だし、千夏も変わらずよく笑う。

 

 私の考え過ぎに違いない。


 あの異様とも思えた景色は――


 校庭の端に生えている雑草を蹴りながら、次の競技で二人三脚があることを知る。そうだ。次は悠の番だ。たしか、男子の園部君と一緒に走ることになっていたはずだ。

 園部君、昨日のリハでガチガチだったけど大丈夫かな。他の男子や一部の女子からもすごい視線が冷たかったし、ちょっと気の毒な気もする。

 様子を見るついでにグラウンドで準備中の悠をこっそり応援しよう。

 あれ?悠は辺りを見回してるんだろう?それに園部君もいないみたいだ。

 パッと悠と目が合い、悠はロープで区切られた観覧席まで駆け寄る。

「亜紀ちゃん!ちょうどいいところに!」

「え?悠?何?どうしたの?」

「ちょっと、こっち!来て!」

 有無を言わさず、悠は私をグラウンドの中央まで引き込む。そしてそのまま私の左足と自分の右足を紐で縛り始める。

「え?ちょ、悠、な、なにしてるの?」

「見てわかるでしょ~二人三脚の準備だよ!」

 は?なんで?



 アナウンスが流れる。間もなく二人三脚が始まるらしい。それと同時に一〇〇メートル走競技者の準備指示もかかった。悠が園部と二人三脚か、ウケる。たぶん待機箇所からなら結構近くで見えるぞ。


 私は一〇〇メートル走待機者の列に加わる。

 んー。悠はこの位置からでは見えんな。まあ、走り出したらわかるか。私はたかだか体育祭の短距離走に全力をかけるため準備運動を入念に行うことに決めた。


「は、悠、どういうことか説明して!」

 ギュギュっと悠は私の左足と自分の右足を締め上げる。白い手ぬぐいは転んでも決して外れなさそうな強さだ。

「ん? だから二人三脚だよ」

「いやいや、そうじゃなくてなんで私が一緒に走るのよ?!」

「あ~園部君、お腹壊してトイレから出られないんだって。だから亜紀ちゃんが代打!」

「はあ?! 何それ、意味わかんない!」

 

 こればかりは理解不能だ。なぜこうなる。

「私の代わりなんていくらでもいるでしょ。それこそ千夏とかのほうが足速いし、背丈もあってるよ」

「あぁ、なっちゃんはいなかったんだよ。この次、一〇〇メートル走で準備中だし」

「だからって……」

 聞く耳をもたずに強く結んだ手ぬぐいをチェックしてすくっと悠は立ち上がる。私より十センチ以上高い身長であり、完全に凸凹コンビだ。

「だって、私亜紀ちゃんと一緒に走りたかったんだもん」


 ああ、そうか。

 園部君。君は自分自身と格闘していたのか。さっきのトイレ渋滞の原因は、君だったのか――



 待機している中、私は本気を出すために屈伸、伸脚、股割りと気合を入れていた。体育祭に意味は求めないけど、やるからに勝ちたい。

 なんだか、周りがざわついている。集中していたのに。なんだ?なにがあったんだ?

 ん?あれは悠か。あれ?園部はどこ行ったんだ?

 

 て言うか、悠の隣にいるのは女子だ。あれ?見覚えあるぞ。あれって亜紀じゃない?ん?何がどうなってるんだ?


 私は目をこする。悠の隣でガチガチの園部がいるはずなのに、見慣れた小さな影がある。あれは、亜紀だ。紛れもなく亜紀だ。

 園部がいつの間にか亜紀になっていた。私の全く知らないところで亜紀に生まれ変わったのか?

 ふと一〇〇メートル走待機組たちの話し声が聞こえた。

 知ってる?四組の園部ってやつ、お腹壊してトイレに閉じこもってるらしいよ。

 うわ〜、あれでしょ。昨日からガッチガチにあがってたあの子でしょ?そりゃ、楠木さんと密着したら私でも緊張するよ。


 なるほど。周辺の話からするとどうも園部は腹を壊して、トイレに引きこもっているということになる。園部よ。お前は地上の星になったんだ。

 そんなセンチメンタルになっているところではない、亜紀がまた走るんだ!

 

 亜紀!今度こそ一等賞を目指せ!

「6.不知火の亡霊(前編)」いかがだったでしょうか。


さて、楽しみに……されている方は少ない(なんならいない笑)と思いますが、少しの間更新をストップ(おおむね3か月)します。下半期から私事のイベントが重なりネタを考えるペースと執筆スピードが極端に落ちてしまいました。一定の品質(そんなに高くないし、週一更新のくせに何を言っているんでしょうねぇ)を維持するためしばらく本作はお休みいたします。年明けか年末ごろからは再開したいと考えております。なお、もう一作の「鉄火、錆を削ぐ」は変わらず水曜日に更新いたします(こっちはネタと下書きがあるので何とか頑張ります)何卒よろしくお願いいたします。

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