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最強魔術師の魔力ゼロ転生  作者: アベ
第二章 異邦の勇者

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.43 本音の言葉

「セージ様はご一緒されていた殿方の方へ向かうと思っていましたが、まさか禊の間(ここ)にいらっしゃるとは」


 彼女はそう言いながら口元に手を当て、妖美にくすっと笑う。地下の薄暗さと、目元を隠す黒いベールのせいか、表情の輪郭がぼやける。


「あんたの手下、上で倒れてるぞ。見に行かなくて良いのか」


「構いません。元よりあの方に期待はしていませんでしたから」


「それよりも――」


 高い声色から一変、地を這いずり足首を掴んできそうな低い声へとトーンが下がった。

 見えない視線が凶器のように、何度も何度も身体を突き刺してくる感覚が鼓動を早く、握る拳に力を入れさせる。


「探していた人物というのは、ユウマ様の事だったんですか」


 視線を牢屋の中に居る人物へと移す。

 叫び声を上げてから変わらず壁にもたれかかり、両足を折り曲げ顔を(うず)めている。


 ユウマ……さっきも言ってたけど、彼の名前か。状況から見ても、やはりこの人が“異邦の勇者”か?


「……あぁ、そうだ」


 いや、例え“異邦の勇者”で無くとも、この魔力量は魔王に対抗できる。この人次第だが、仲間になってほしい。


「何処で彼の存在を?」


「色々噂になってたからな、確信したのはパミストラに入ってからだ」


「噂……広めたつもりは無いのですが、困りましたね」


 言葉とは裏腹に、声には全く焦りを感じない。

 前で腕を組み、顎に指を当て考える素振りはしているが、体裁のようにも見える。


「ですが、どちらにしても、ユウマ様はこの場所から離れませんよ」


「何?」


「お聞きになったと思います、“やめてくれ”と。それが答えで、彼の意志です」


「ここに居たいと思う人間を、セージ様は無理矢理にでも連れ出すのですか?」


 水滴の落ちる音が聞こえる程の静寂が、ほんの一瞬訪れる。

 何処から聞こえたかは定かでは無い。だが、恐らく檻の中からだと思い、再び彼に視線を落とす。


 彼が望んでここに居たいと言うのなら、僕の身勝手で連れ出す訳にはいかない。けど、僕は――


「本当に、ここに居たいんですか」


 彼の言葉をまだ聞いていない。


 反応は無い。

 言葉の反響だけが寂しく続くが、それでも話すのを止めない。


「陽の光も当たらない、他者との会話すらないこの場所に、本当に居たいんですか」


 檻を握る手に力が入る。冷たく固い感触が、この場所の孤独感をより引き立てている。


 いつ、ラヴが攻撃してくるか分からない。無防備なのは分かっている、それでも僕は、



「――っ、あなたの言葉が聞きたいんだ!ユウマ!」



 気がつくと叫んでいた。喉がヒリヒリと痛み、心臓は急速に脈打ち身体が熱い。汗がジワリと浮き出ながらも、ユウマの言葉を待った。


「……」


 ユウマ……。



「もう、これ以上、自分を嫌いになりたくない」



「!」


 か細くしゃがれた声が、確かに聞こえた。

 弱々しくも発せられる言葉を聞き逃さないよう、耳を研ぎ澄ます。


「特別な人間になりたかった」


「親に“自慢の息子だ”って、“産んで良かった”って、言ってほしかった」


「最後までその言葉を聞くことは無かった」


 ユウマの表情は見えない。


「この世界に来て、本気で変われるって思った。ようやく、自分を生きられるって」


「だけど、この世界はっ…自分の部屋で篭っていた時よりも苦しくて、寂しくて…」


 涙で震える声が、その辛さが、僕の心に少しずつ積み上がり、重くのしかかる。


「無理な話だったんだっ!色々なことから逃げてきた人間が、急に変わるなんて、出来る訳無かったっ!」


「分かっていた筈なのに…分かった気になっていた…」


 また、冷たい沈黙が流れる。まるで時間が止まったような、さっきよりも長い沈黙。

 その間も僕は口を出さなかった。なんとなく、誰が話すか予想がついていた。

 時間を動かしたのはやはり、ユウマだった。


「ここにいれば、特別のまま、いずれ死ねる」


「死ぬことを選んだ自分からも逃げたら、俺は……」


「自分で自分を殺したくなる」


 コツ……と靴の反響が地下全体に響き渡る。

 ラヴが一歩、また一歩と、黒いドレスを見せつけるように、優雅にこちらに歩みを進めていた。


「もうよろしいでしょう」


 口元は綻び、口角は異様なまでに上がっている。

 ユウマもそれ以上話す素振りを見せず、今の言葉を聞き、自分の中で答えを出す時が来た。


「……」


 少しだけ、言葉が詰まる。この選択がユウマにとって良いことなのか。


「分かった」


 だが決めた以上、僕はそう動くだけだ。


「ご理解頂けましたか、セージ様」


「あぁ」


「ユウマをここから連れ出す」


 空気砲の照準をラヴへと向ける。

 僕の答えを聞いたラヴは足を止め、口を少し開けていた。やがて、間の抜けた声で話し出した。


「何を言っているのですか」


「ここから出す、と言ったんだ」


「僕には今の言葉全部が、“助けてほしい”という意味にしか聞こえなかった」


 今、ユウマがどういう表情なのか見えない。だけど、分からなくて良い。僕の身勝手に理由がついた、ただそれだけのことだ。


「ユウマはここから出て、僕と一緒に来てもらう」


「それが叶うとお思いですか」


 ラヴの口元は、いつものように笑っていた。

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