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最強魔術師の魔力ゼロ転生  作者: アベ
第二章 異邦の勇者

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41/46

.40 檻の中

 右手に着けているグローブを外しながら、ゴルトの攻撃を縦横無尽に避け続ける。腕が空を切る音、壁や地面の石つぶてが五月雨のように舞う視界、徐々に攻撃の勢いが落ちてきていると感じつつ、魔術への理解が高まっていく。


「くっそ」


 猛攻の最中、苛立ちを含んだ唸るような低い声が耳に反響し、より身体を軽くする。

 不思議なことに、先ほどまでの疲れが飛んでいた。アドレナリンの影響かむしろより軽く、速くなっていく身体に自然と身を任せていた。


 さて、このグローブを何処に置くか。


「おい、ガキィ」


 声が思考を止め、同時にゴルトの攻撃が止む。

 身体を小刻みに震わせ、目元に血管を浮かせた表情を向けた。


「なんで反撃してこねぇ!?」


 最後に攻撃してから五分は経っただろうか。

 依然としてゴルトが優勢なのは変わらない、だが先ほどまでとは様子が違う。勝ちを確信したような余裕は無く、焦りすら感じる。


「なんでだろうな」


「とぼけるな!俺の魔術が分かってるなら攻撃して来いよッ!」


「……身体、少しだけ小さくなってるぞ」


「!」


 普通なら気づかないごく微細な変化。だが攻撃を至近距離で受け続け、大きくなったと分かったからこそ捉えられたその変化。一回りとは言えないほどだが、確かに小さくなっている。


「答え合わせでもするか」


「――っ、不要!」


 そう言うと三度距離を詰め攻撃を再開するゴルト。

 調子が良いというのもあるが、攻撃自体のパターンが少ないのもかわし続けられる要因だな、どれも全部力任せだ。

 さらに動揺を誘う為続けて話す。


「ゴルト、お前の魔術は強化だ。しかも体躯を大きくし力を増幅させる。そして条件は」


 時間が凝縮される。ゴルトの腕がゆっくりと振り下ろされ、その流れに逆らうかのように身体をひねる。思考だけが先をいくその世界で、ようやく喉が動く。


「――痛みだろ。お前自身が受けた痛みによって身体は強化される」


「仕掛けはそれだけじゃない」


 濃縮された時間が少しずつ解けていき、次第に身体と声の動きが統一されていく。鼻息を荒げ、攻撃を辞めないゴルトに向けて続ける。


「攻撃を受けた距離によって痛みの大小が変わる、違うか?」


 ゴルトは答えない。その代わりと言わんばかりに、攻撃の手を速める。だが勢いだけで、力強さはほとんど無くなってきている。


「近接での攻撃は殆ど効かない代わりに、遠距離からの攻撃は効きやすい……そんなところか」


 恐らくゴルトの魔術は『超近接特化型の魔術』、一撃目の遠距離からの空気砲は効いていて、続く二撃、三撃の近距離でのローキックと空気砲は殆ど効いていなかった。そして極め付けは、あの小石の投擲。


 視界の隅にゴルトが開けた壁穴を見つける。十歩程度の距離、高さは丁度今のゴルトの頭部と同じくらいの高さ。


「『高速移動靴(ハイスピード)』」


 一瞬で壁穴へと近づき、すぐさま離れた。

 視線をゴルトの方に向けると、変わらず攻撃を続けている。


「そして、痛みを受けなければ徐々に力と体躯はしぼみ弱くなっていく。反撃させようとしたのも痛みを手に入れる為」


 だから壁や地面をあえて攻撃して体格を保っていた。けどその痛みにも慣れ始めて、巨体を維持できなくなっているというとこだろう。


「……ふっ」


「はっはっ!正解だよ僕ちゃん、だったらどうする?このまま永遠に避け続けるかァ!?」


「いや」


 ここだと当たるか分からない、もう少し右側か。


「ラヴ様が()()()()()()()()()()()()()()、俺の人生は始まった」


「持たざる者が持つ者へと変貌を遂げた時、そこにあったのは使命と責任。代価を差し出した故の孤独の力」


 先ほどまで固く閉じていた口は、決壊したダムのように次々と口数を増やしていく。


「陰鬱としたゴミ共を纏める力、他者を強制できる力、人の上に立つという優越感を俺は手に入れた」


「手に入れた先にあったのは、この現状を創り出してくださった方への“畏敬の念”と“感謝”」


「その時、俺の道しるべは決まった。これから得るであろう数々のものそれら全てを――ラヴ様に捧げるッ!」


 恍惚とした眼に力強い言葉が似合わず、意味を理解する前に耳を通り抜ける。ラヴを想って言っているようだが、どこか自己陶酔に浸っていると思わせる気ぶりだ。


 先の大穴からおよそ十メートル程離れ、こちらに引きつけた。対角線上にゴルトはいる、この距離なら。


「見ていて下さいラヴ様、あぁラヴ様、ラヴ様ァ!」


「『一人でに動く紐(オートロープ)』」


「!?」


 左手に巻き付いていた『オートロープ』はゴルトの脇をすり抜け、一直線に大穴へと伸びる。


「何処を狙って」


「『圧縮空気砲(エアキャノン)』」



 ドンッ



「がぁっ!?」


 圧縮された空気の球は、小石を当てた後頭部へとさらに強い威力で追撃を加えた。

 白目を剥き、なす術もなくその場に倒れ込む。巨体が地面を揺らし、誤魔化していた骨身と傷に振動が響く。


「い、いつの間に……」


「避けてる最中だよ、遠距離からの不意打ちで攻撃するにはこれしか無いと思ったから」


 視線を落とすと、ゴルトは気を失っていた。それと同じくして、心臓が大きく跳ね呼吸が荒れる。倒した安心感からか、全身を突き刺す痛みが歩く度襲ってくる。


「ゔっ」


 今になって傷が、男爵を見つけて早くここから出ないと――いや、違うな。


 穴からグローブを取り、出口へと歩く。


「男爵、もう少し時間を下さい」


 この施設の下にいる人物に会いにいく。都市を覆うほどの膨大な魔力、敵だとしたら今の僕に勝ち目はない。それでも、もし違ったのなら魔王を倒す戦力になるかもしれない。


 来た道は眩しく明るく照らされ、反対に奥への道は暗く先が見えない。大きな不安と少しの期待が歩く足を遅くする。しかし、決して止まることはなく、何かに導かれるように一歩ずつ歩み進めた。



***



 ゴルトとの一戦を経て、『治療丸』を飲み十分ほど歩き続けた。大勢いると思われた教団員は不気味なほどに姿を見せず、黄土色に照らされた廊下を静かに歩き、さらに下層へと続く小さな階段を発見した。


 魔力がより濃く、強くなっていくのを肌で感じる。あの時パミストラで感じた身体を包み込むような感じ、恐らくこの階段下にいる。

 身体は……大丈夫、まだ動ける。魔石の交換も終えた、よし。


 石階段を一歩ずつゆっくりと降りる。靴の擦る音が妙に反響して毛が逆立つ。


 ――酷い匂いだ、空気も薄い。


 降りるにつれ、血と吐瀉物を混ぜ合わせたような匂いが濃くなり、思わず顔に力が入る。息苦しさも相まって、内臓がなぞられているような不快感が身体を支配した。


「?」


 ――あれは、檻か。


 石階段を降りきると、人が一人生活できるかどうかの小さな檻があった。

 空気砲に手を添えつつ、恐る恐る近づく。檻に手が届きそうな距離まで来て、



「いた」



 ようやくその存在に気づいた。

 檻の中でうずくまる、一人の青年の姿を。

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