7(大切にするね)
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「せかいせいふく?」さっちんは一美の言葉を怪訝そうに復唱した。「セーラー服?」
「いや」ちゃうねん。「それじゃない」一美はおしるこ缶を傾けた。あっち。あちあち。
「独裁者かー」さっちんはふんふん、と頷いて。「無しか全部のどちらかでないとダメなの?」買ったばかりの肉まんを割って、「半ぶんこ」差し出した。「お食べ、お食べ」
「いいの?」
「うん」と、にっこり。「カズミにあげる」
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ヒトミでカズミ。カズミがヒトミ。ただの文字列でもお生憎様。アンタの肩越しに見てるンだ。今や三界超越エゴの大魔王あたしは思念にして概念しかしてそのもの何をしようと確定事項でなんと単純なことなのか。えいやっ。そいやっ。ほぅら、あたしが消えていく。ほぅら、あたしに戻ってく。
あたしは冒険がしたいのさ。だから全部は欲張りさ。身の丈に背伸び分ってのがウチの家訓。さぁ、心ゆくまで金槌で、カマボコ板に釘を打て。今度は、森羅万象「ゆにばーさる・ますたーなんちゃら」は、揃わないよ。
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金曜日の放課後、乳半色の塊をさっちんに渡した。
さっちんは、「はー」と興味深げに手の中でくるくると廻し、「これ、何?」
「さぁ?」
プラスチックの塊のようで、プラスチックみたいな触り心地で、プラスチックにしか見えないのなら、それはやはりプラスチックなのだ。「お土産?」
「きれい」と、嬉しそうにさっちん。「大切にするね。カズミ、ありがろん」
さっちんはときどき、語尾が変になるろん。
一美と書いてヒトミと読むのに、さっちんは間違えたままで、訂正しても間違えたままで、そのまま押し通した、大変失礼なヤツである。
「明日、ヒマ?」一美は訊ねる。「どっか遊びにいかない?」
「デート?」とさっちん。「どこ行く? なにする? なに食べる?」一度に幾つも訊ねる。
「なんでも」さっちんとなら、なんでもいいよ、とは口にはしないけど。「そうだ」忘れてた。「一つだけ。スーパーに行きたい」
「なんで?」
「カマボコ。板付きのやつ」
「カマボコ、好きなん?」さっちんが笑う。
「うん」一美も笑顔で「練り物、大好き」
だってさ。いつだってさ。
冒険に、カマボコ板は欠かせないからね。
─了─
こどもはチョロかわいい。
「星とザリガニ」
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