5(地球にも遊びに来て下さい)
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地球から見てちょうどこぐま座に当たる惑星でのこと。異星人と接触した。姿は人間の常識からさほど離れていないものだった。
「あなたの心理に基づいて構成しました」
「脳ミソ、覗いたの?」やだなぁ。テレパスとは、交信と翻訳の上位互換であって、精神を丸裸にすることじゃぁないですの。
「円滑な意思伝達の手段と思って下さい。気分を害されたのならお詫びします」
「ホントの姿、見せてくれない?」
「視認できませんよ」
「狡いなぁ」思ったまま口にした。
一美の言に、「あなた方の視覚器官では捉えられないのです」と、少し哀しそうに続けた。「触手やウロコだらけの姿であれば納得されましたか?」
うーん、と一美は唸った。「イヤだけど、異星人に会った感はあると思う」
「同感です」
異星会談は、終始なごやかに進んだ。最後に、「いつか地球にも遊びに来て下さい」と一美が伝えると、「楽しみです」と、応えた。
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ポッキー問題は、一美をいたく動揺させた。
着てた服が残っているのは分かる。素っ裸で往来しているのだから。でも、服が濡れた汚れたという痕跡はない(予測される濡れた汚れたの原因は考えないこととする)。
「自分」に帰属する範囲はどこまでだ?
咥えたポッキー理論が成立するのならば、肉体の範囲はどこまで及ぶ?
口や胃の中身が残っていないのだから、それは肉体の一部と見なされる。飲んだ水分も、食べた消化中も、排出準備中も右に同じく。
下手な考え休むに似たり。咥えたポッキーは折れて残った。釘を打つ瞬間に歯を食いしばったかもしれないので、追試を二度した。
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「……ポッキー、半分になった」
返された答案を比較するに、数学と生物は一美の勝ちだ。しかし、さっちんの点数は全体的に良い。こやつ、今度も廊下に貼り出される上位者リストに載るな。
「ねぇ」さっちんが訊ねる。「盲腸って体の一部だけれども、不要だよね?」
はっ、と一美は息を飲んだ。服の中身を探ってみると、ぐねぐねした肉片があったかもしれないのだ。これはいかん。いかんですぞ。その論理なら、尾骶骨も──乳首もヤバい。女で良かった。
「乳首?」なんで、とさっちんが疑問顔。
生物と保健体育に自信アリの一美は答える。「男の乳首は痕跡器官だからさ」
「そうなの?」さっちんはむぅ、と唇を尖らせ。「ウチのお兄ちゃん、触ると気持ち良いって云ってたけど?」
「アンタの兄貴、なんなのさ!?」
と、まぁ、親友の家庭事情はさておき、例の乳半色のプラスチック片、通称ウマが、方々で手に入った。どれも異った形状で、ひとつとして同じものがなかった。
これが興味を引き立てた。
集めると何かあるんじゃなかろうか。
ウマは、立体テトリスというようなカタチをしてる。くるくる回転させても全てのカドは直角に見えるが、床に落ちた影は、どうにも三角、つまり六〇度に見える。まるでエッシャーの版画。加えて立体テトリス感は、立体パズル感に通じる。上手くハメれば何かになる。カチッとカタチになる予感がする。
と、なれば。集めるしかないじゃん?
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窓ガラスをコツコツ叩くと、ややあって寝ぼけ眼のさっちんがカーテンを捲り、一美の姿を認めた。
「どうしたの」こんな夜中に。
窓を開けながらさっちんが訊ねる。厚手のピンクのもこもこパジャマが可愛い。一美は用件を云う。前に白っぽいプラスチックあげたよね? 貸してくれない?
「なんで?」
まぁ、ちょっとね。
「もしかして、危ないことしてない?」
や。そんなことないけど?
「ならいいけど……」
さっちんは何だか腑に落ちない、と云った顔で、しばし黙する。口から白い息が漏れる。
さっちんは首をすくめ、真冬の冷気にぶるっと体を震わせた。「返してくれるよね?」
もちろん。寝てるところゴメンね。ありがと。じゃ、また。
「ねぇ、カズミ」
うん?
「ここ、六階だけど?」
大丈夫。夢だから。ただの変な夢だから。
「嘘つき」