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夢幻の世界の中で  作者: 高遠ハット
第1章 召喚士カナト ───力。それは強大で愚かな、か弱きもの。
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第16話 冒険者初日

 2つのベットが置かれている宿屋の一室で、奏斗とティナはなぜか1つのベットに眠っていた。

 宿屋の外では、すでに日が真上近くまで上がり、通りは村人で賑わっている。

 窓から射す初夏の容赦のない直射日光のおかげか、はたまた大通りの賑やかな村人たちのおかげか果たして奏斗は目を覚ました。


「頭がクラクラする……。肩も痛むし。

 何もしてないのになんで体がボロボロなんだ?」


 気分は最悪。原因は言わずもがな昨夜の宴会だ。

 師匠に勧められて酒を何度も“飲まされた(強制)”こともあり、酒には結構強いという自負はあるにはあった。さらに宴会でだされた酒は何倍にも薄められたハチミツ酒や果実酒。

 そう簡単には飲みつぶれないだろうと高をくくっていたのだが、


「塵も積もれば山となるってか?ここまできて国語のお勉強をするとはね……」


 奏斗が飲める人間だということが知れると、宴会は酒飲み大会に様変わりした。

 結果としては奏斗の圧勝。昔から鍛えられた彼の肝臓にそんじょそこらの大人が勝てるはずがなかったのだ。

 その後彼は足下がおぼつかないまま、途中で寝てしまったティナを抱きかかえて部屋に戻り、ベットにもぐった。

 ティナを抱きかかえたまま。


「ティナ、朝だぞ。いやもう昼か?」 


 軽くティナの頬をたたくと、「んにゃ…」となんともかわいい声が漏れる。

(わーなにこの娘すげーかわいいわー。ほっぺ柔らけー)

 頬をつついてその柔らかさを堪能していると、ティナの意識が覚醒した。


「おはようです……お兄ちゃん。なんかお酒の匂いがします」

「ゴメンゴメン。昨日少し飲み過ぎたみたいだ。下行こっか?」

「というか…、お兄ちゃん?なんでわたしの隣にいるんですか?」

「……、マズかったかな?」 

「とんでもないです!大歓迎です!けど先に言ってくださいよ!」

「あぁ…、うん」


 軽く身支度を整えて1階の食堂に下りると、奏斗よりも症状の重そうな大人たちが食事をとっていた。


「あら、おはよう!気分はどうかしら?」

「最悪ですね。久しぶりに飲んだので加減を忘れたみたいです。食べ物ありますか?」

「あるわよ。ちょっと待っててもらえる?」


 出された料理はパンとあっさりめに味付けした野菜のスープだ。二日酔いで胃がもたれている奏斗にはコレくらい味が薄いほうがちょうど良い。


「ごちそうさまでした。女将さん、お金どうすればいいですか?」

「1つの月で450モルよ。後払いでも構わないわ」

「そうさせてもらいます。じゃ、行ってきます!」

「気をつけていってらっしゃ~い!」


 女将の言葉を背中に、奏斗とティナは雑貨屋に向かう。


「お、待ってましたよー!試しにつけてみてください」


 魔晶石がはめられたブレスレットをつけてみると、奏斗は心なしか大きいように感じた。


「少し大きいかな?」

「……、カナトさんって腕細いんですねー。華奢で女の子みたいです。

 多少大きくても大丈夫ですよ」

「結構気にしてるんですよ……」


 地味に傷つきながら、次は服屋へ。


「お、来たな!」

「できてますか?」

「当然だ!どうする?着ていくか?」

「ぜひお願いします」


 サイズは合ったが、店主が不思議そうな目で奏斗を見ている。


「なんか変ですか?」

「いや……、ずいぶん華奢だと思ってな。ほんとに男かお前?」

「男だって言ってるでしょ!」

「お兄ちゃん、泣いてます?」

「泣いてない!涙目なだけだから!」


 涙目になりながら、今度はギルドへ。奏斗の心はもう木っ端微塵だ。


「こんにちは~」

「こんにちは。なんでカナトさんが泣いてるんです?」

「肩が痛くて、コンプレックスを的確にラッシュされてブロークンハートされただけです。気にしないでください」

「本人が言うのなら……。

 けど肩の痛みなら治せますよ。どうせトリンさんにやられたんでしょ」

「そんなとこです。で、どうすればいいですかね」

「雑貨屋で治療魔法を買えばいいんですよ。魔晶石は買ってますよね?」


 マーレットの助言を受けて、再び雑貨屋へ。


「どうしたんですかー?もしかして合いませんでした?」

「大きさは問題ないよ。

 ギルドで治療魔法が売ってるって聞いたんだけど……」

「うちで扱ってるのは《レコバ》だけです。自分には使えないので気をつけて」

「それをティナに」

「40モルになりまーす!ティナちゃん、水晶に魔晶石かざして」


 言わせるがままティナがかざすと、ティナの魔晶石と水晶が大きく瞬いた。

 魔法の契約が行われた証しだ。


「以上でーす。毎度でしたー!」


 代金を払うと、ギルドへと戻る。

 空いていた椅子に腰かけ、早速治療魔法を使ってみることに。


「よし、ティナ。俺の肩に手を当てて、治すんだって思いながら《レコバ》を唱えてくれない?」


 ティナは軽く頷くと、奏斗の肩にそっと手を添える。

 そして息を吸い込み───


「《レコバ》!」


 治療の魔法を唱えると、魔法が成功したのか奏斗の肩からみるみるうちに痛みが消えていく。

 肩を回してみても、痛みどころか違和感すらない。  

(魔法の発動に特殊な条件は無い、か)

 何の知識もない魔法を初めて使ったティナでも成功したのだ。魔法の汎用性の高さが計り知れる。

(こんだけ使い易いなら、医学だなんてちっとも発達してないだろうな)


「お兄ちゃん、治りました?」

「ああ、完璧だ。ありがとうな」

「よかったです~」


 お返しに頭を撫でてやり、そのままカウンターへ。


「どうでした?」

「すっかり治りましたよ。魔法って使い易いですね」

「なら良かったです。

 さて、依頼はどうしましょう?」


 冒険者の仕事は様々な依頼をこなす言わば“何でも屋”である。

 依頼の種類は千差万別。国家から頼まれるものもあれば個人から頼まれるものもある。討伐依頼や採集依頼、果ては戦争に参加するなど、多種多様だ。


「簡単なのでお願いします。薬草採集とか」

「無難ですね……。リュプスレーロを倒した方なので獣の討伐とか任せようとしたんですが」

「なにせ地理が分からないので。そちらでも別にいいですけど」

「ほんと?すいません、遠慮させちゃって。

 イディンのせいでろくに仕事ができていないのですよ」

「彼はどうなったんです?」

「昨夜のうちに追放しました。剣の腕はあるので生き残ると思いますけどね」

「それで、何をすれば?」

「今日は……、村の北側にいるリュプスの群れとかどうでしょう?」

「……、初日からそれですか?」

「もちろん野草採集もやってもいいですよ。冒険者の基本ですからね。

 野草の種類については、昨日渡した本の中に書いてあるので」

「期限はいつまでですか?」

「3日ですね。リュプスの牙が30個で依頼を達成したとします」


 そう言うなりマーレットは、山のような書類の中から一枚取り出し、ギルドの承認印を押した。

 書類の量の多さに、奏斗は思わず絶句してしまう。 

(これは……、頑張らないとね……)



 ●



 村から出た奏斗は、草の中から顔を見せている岩に腰かけて昨日渡った本を眺めていた。

 題名は『冒険者とは』。その名の通り、冒険者にとって必要と思われる情報を書き連ねている。

(羊皮紙でなくて紙か……。魔法かな?)

 オルフェリアの製紙技術は魔法である。その技術力は地球での科学技術にひけをとらず、使い終わった古紙をリサイクルする魔法まで存在しているほどだ。

 ちなみに、冒険者の教本であるこの本の中にギルドの規則が書かれているのはたったの3ページ。冒険者ギルドという組織がどれほどルーズなのかを無言で語っている。

 奏斗が見ているのは野草について書かれたページだ。といっても、奏斗には馴染みの薄い名称の羅列ばかりで全く内容を理解できない。


「うーん……、ティナは野草とか分かる?」

「本で読んだことがあるので一応は」

「じゃ野草採集は任せようかな」

「お兄ちゃん、サボりはダメです!」

「サボりじゃないよ。俺はあのお客様の相手をしないと」


 奏斗の視線の先には依頼された30匹を優に超すリュプスの群れがこちらを睨みつけていた。


「少し多いがどうでもいい。お前等が実験台になるのに変わりはないのだから」


 冷酷な口調に触発されたのか、リュプスが一斉に跳躍。奏斗めがけてリュプスが飛びかかった。


「《ノミルシア》!」


 対して奏斗の口からは魔力を最大限込めた氷の魔法が唱えられ、魔晶石が光り輝く。

 詠唱された途端周囲の気温が夏が近いにも関わらず冥府を思わせる寒さに覆われ、地面からは天にも届かんと氷塊が生え、リュプスの群れを楽々と飲み込んでしまった。


「さっむっ!加減ミスったか?」


 全力だったとはいえ、ここまでの威力を持つとは予想外だった。

(《ボルガルド》も本気出せばとんでもないことになりそうだな……) 

 魔力の加減だけは間違ってはいけないと奏斗は深く心に刻む。


 《ノミルシア》を解除し、未だ残る寒さに震えながらリュプスの牙を回収していく。

 毛皮も剥ごうとしたが、ナイフの刃が入らないほどガチガチに凍ってしまっていたので無理であった。


「ティナ~、そっちはどうだ?」

「順調です。

 しかしですねお兄ちゃん。お兄ちゃんほど“やり過ぎ”という言葉が似合う人間はいないとわたしは思うのです」

「ぐ……。肝に命じます」


 リュプスの群れを狩る依頼は果たしたので、野草採集を切り上げてティナと魔法の訓練をする事に。


「とりあえず、ひと通り使ってみたら?」

「えーとじゃ《カナル》」


 続いて《ストロン》も発動させ、魔法の感覚を覚えさせていく。


「《ヴァイセ》。ってあれ?これもしかして」

「速く走れるあの魔法だ。ちゃんと訓練しなきゃ使えないけどね」

「どうやって使うんですか?」


 請われるがまま、ティナに《ヴァイセ》の走り方をおしえる。が、いかんせん感覚的なものを言葉にして教えるとなると難しい。

 何回やっても、あらぬ方向に向かって転んでしまう。


「うう……。結構難しいです……。魔力もなくなったみたいですし」

「とにかく慣れるしかないな。今のままだと魔力も少なくて長時間使えないと思うし……」

「習得への道のりは長いですね……」

「だな」



 ●



 とぼとぼとギルドへと戻り精算をすると、マーレットがおずおずと奏斗に尋ねた。


「もしかしてあの氷山って……」

「あ、それ俺です」

「やっぱり…。加減してくださいよ?」

「以後気をつけます……。

 それとリュプスなんですが群れが依頼よりも規模が大きいのですが…」

「多分ゼスの内乱のせいですね。獣がアテラ側に流れてきてるんです。

 飛竜が何とかしてくれると思ったんですがね」

「飛竜?そんなのいるんですか!?」

「ええ。秋になると“猟竜会”っていうお祭りがありまして、色々な所から冒険者の方々がいらっしゃるのです」

「はぁ……」


 国の外れのくせに村の規模が大きい理由は、これだったのだ。

 告げられた意外な事実に驚きながら、リュプスの牙47個と野草を換金してその日の報酬245モルを受け取った。


「さて、帰るか…」

「ですね」


 ギルドの外に出ると、辺りは黒く染まっている。2人を照らすのは、月明かりのみだ。

 奏斗がタバコを口にくわえて火をつけていると、横にいたティナが無言で右手をさしだす。その動作に応えるように奏斗は何も言わずに左手でティナの右手を優しく握り、宿屋へと歩き出した。


 奏斗は思う。

(これが日常だと言うのなら)

 奏斗は思う。

(これが幸せだと言うのなら)

 そして彼は決意する。

(この日々がずっと続くようにする。それが今の俺が生きる理由だな)


 奏斗とティナの冒険者一日目は、こうして終わりを告げた。

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