プロローグ
何気ない会話、くだらないことで笑い合った時間、胸が締めつけられるほど誰かを好きになった瞬間。そして、あのとき別の選択をしていたら、今とは違う人生があったのだろうかと、ふと思う夜。
人は誰しも、過去をやり直すことはできない。それでも、心のどこかに残り続ける思いがある。
この物語は、実際に経験した出来事をもとに、一人の男が歩んできた恋愛と人生を描いたものである。
笑えることもあれば、切なくなることもある。時には、どうしようもなく不器用で、愚かな選択もする。それでも、その一つひとつが、確かに生きてきた証だった。
もし、あなたにも忘れられない人がいるのなら。
もし、今でも心の片隅に、あの頃の自分がいるのなら。
この物語のどこかに、あなた自身の記憶と重なる瞬間があるかもしれない。
それでは、物語を始めよう。
僕は今、何をしているのだろう……。
目の前には、公園のブランコがあった。
白いシャツ一枚に、黒のスーツパンツ。
公園には、もう子供の姿はなかった。
さっきまで誰かが遊んでいたのだろうか。砂場には小さな足跡が残り、滑り台の階段の隅には、乾いた葉っぱが一枚引っかかっていた。
いつもと変わらない街の音が、遠くから聞こえてくる。
どこかの家から夕食の匂いが漂ってきそうな、ありふれた夕暮れ。
空は少しずつ色を変え、木々の隙間から差し込む光が、地面に長い影を落としていた。
風が吹いた。
ブランコの鎖が、かすかに音を立てた。
僕は、ただそこに佇んでいた。
何をするでもなく、どこへ行くでもなく。
僕は……あの時……。
ふと、そんな言葉が頭をよぎった。
何を思い出しかけたのか、自分でもよくわからなかった。
ただ、胸の奥に何かが引っかかっていた。
ずっと前から、そこにあったような気もする。
ついさっき、気づいたような気もする。
けれど、それが何なのか、うまく言葉にできなかった。
僕はもう一度、ブランコを見た。
そして、ゆっくりと視線を落とした。
……帰ろうか。
そう思ったはずなのに、足は動かなかった。
まだ……。
今は、まだ……。




